琥珀色の花嫁

藤谷 郁

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ゴアドアの城

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 ゴアドアの城は、森を越えたらじきに見えてくる。
 にぎやかな城下の街を俯瞰しつつ、城を幾重にも囲む魔法の壁をすり抜け、妖獣は飛ぶ。城の真上で一旦静止すると、そのままゆっくりと降下し、高い塔のてっぺんにある妖獣専用のポートへ爪を接した。

「ラルフ様、ようこそゴアドア城へ!」
 衛兵が敬礼をして出迎える。
 そのほうへ軽く頷くと、ラルフは昇降機に乗り、城の内部へと下りた。
「王様に、ちゃんと話をしてよ」
 ルズがラルフの肩に乗り、何度も念を押す。彼はミネラルのことで頭がいっぱいのようだ。
「わかってるよ。焦るな」

 ラルフは昇降機の籠を降りると、マントを翻して王の間へ続く長い廊下を悠々と進んだ。
 先導もなしで勝手に歩いて行くのを、廊下の両側に並び立つ屈強な近衛兵が敬礼で見送る。姿勢を一定に保ち微動だにしない姿は、まるで石像のようだ。
 ゴアドア王国において、王の間へ自由に出入りできるのはラルフのみ。王族すら差し置いての特権だった。それは1000年の間、変わることなく許されている。
 もっとも、ラルフが王城を訪ねることはほとんどなく、特権など放棄しているに等しいのだが。

「おお、久しぶりだなラルフ。どうしたのだ突然」
 生まれる前から見守ってきた現ゴアドア王も齢60を越え、その大柄な体躯には君主としての貫禄が備わっている。
 しかしそんな王も、ラルフの前では王子の頃に自然と戻ってしまうようだ。王座から降りると、嬉しそうにラルフの手を取り、来城を歓迎した。
「ほほう、元気そうだなハモンド。そろそろ譲位の頃かと思っていたが」
 王にテラスへと引っ張られながら、ラルフはからかうように笑った。

「何を言うか。私の時代はまだまだこれからが本番だぞ。特製の揚げ菓子を用意させよう」
「すまないがルズにも高級なおやつを頼むよ。さっきからうるさくてね」
「ああ、もちろんだ。分かっておる」
 王は大臣に命令し、ルズのために採掘しておいた良質なミネラルを持ってこさせた。
 銀のトレーに載せられたそれは、磨けば宝飾品にもなる純度の高い鉱物で、ルズにとっては最高に美味しいエネルギー源だ。
「一つは今食べて、あとは取っておこうっと。もったいないからね」
 はしゃぐ相棒を脇に置き、ラルフは王の耳元にそっと近付いた。

「元妻のことだが」
「……何番目の?」
 王はラルフが城内に送り込んでくる、元妻達の顔を思い浮かべた。どれもこれも皆、枯れた老婆ではあるが。
「一番、最近のだ」
「ああ、ベルとかいう、お前にしては長く続いたほうの」
 表情を変えずにラルフは頷く。
「実はひょんなことから、あれが東の小国トーマの出身だということが分かった。そのトーマという国について訊きたいのだ」

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