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一生分の哀しみ
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目を覚ますと、そこは天蓋付きのベッドの上だった。
丈の高い、綺麗なレースのカーテンが窓辺で揺れている。
ふと、花の香りがした。
この香りは知っている。むせるような強い香りだ。これは……
ミアは弾かれたように体を起こした。
「あら、お目覚め?」
女の声が聞こえた。ミアは背筋に寒いものが走り、すぐにそちらへ顔を向けられなかった。
まさかまさか、この声は……どうしてそんな。
「あなた、海辺で倒れていたのを、うちの使用人に助けられたのよ。運が良かったわねえ」
海辺――
ミアはその言葉に胸を衝かれ、そして何もかも思い出した。
絶望のあまり気を失いそうになりながら、女を見やった。金糸銀糸の豪華な刺繍が施された真っ赤なドレス。彼女の名前はベル。プラドー家のベルであった。
「本来なら、見知らぬ人間など屋敷に入れないのだけど、あなた身なりもいいし、容姿もなかなか……まあ私には敵わないけれど、きれいだわ。だから手当してあげたのよ。あと……」
ミアは口を利けない。一体何がどうなっているのか。混乱して、気が変になりそうだった。
「これ、あなたの持ち物かしら?」
ベルが差し出したそれを見て、ミアは声を上げそうになる。
黒と青のゴア。闇の琥珀だった。
「二つともひびが入っているけど、凄くきれい。こんな宝石は初めて見るわ。上手く加工すれば、イヤリングにも指輪にもなりそうね。これ、私にくださる?」
ベルは紅い唇でミアに迫った。助けてあげたのだから当然よねと言外に滲ませている。
「どうぞ……」
ミアは虚ろに答えた。もう自分には、必要のないものだ。
「まあ、ありがとう! あとでお礼をするわね。ところであなた、どこから来たのかしら。よければ送って差し上げるわよ」
宝飾品を手に入れたとたん、帰らせようとする。間違いなくこの女性はベルである。
なぜかミアのことを忘れているようだが。
ミアはベッドから毛足の長い絨毯へと降りた。
「あら、もうお帰りになるのね。シンシア!」
シンシアはプラドー家で働く家政婦の一人だ。すぐにやってきた彼女も、ミアのことが分からない様子である。
「お客様がお帰りになるわ。身支度を整えてさしあげて。あと、馬車も用意して」
シンシアに命じると、ベルは「ごめんあそばせ」と軽く挨拶し、さっさと出て行ってしまった。
「では、お世話をさせていただきます。よろしくお願いします」
お客扱いするシンシアに、ミアはぎこちなく頷き、化粧台の前へと進んだ。
頭が多少ふらつくが、一刻も早くここを出たかった。この家は間違いなくプラドーの屋敷である。
「ああ、素晴らしくお綺麗です」
シンシアはうっとりとした口調で、ミアの容姿を褒めた。白い肌は瑞々しく、長い髪が銀色に波打っている。鏡の中の女性は確かにミアだった。
ミアが着ていたドレスは砂で汚れているからと、代わりの一着を差し出された。
「宝石のお礼だそうです」
シンシアはベルの伝言を告げた。
髪を結い上げられ、純白のドレスに着替えると、ミアは貴婦人の美しさに仕上がった。
「まるで、光り輝く花嫁のよう……」
シンシアはほうっとため息をつきながら、玄関広間へとミアを案内した。
丈の高い、綺麗なレースのカーテンが窓辺で揺れている。
ふと、花の香りがした。
この香りは知っている。むせるような強い香りだ。これは……
ミアは弾かれたように体を起こした。
「あら、お目覚め?」
女の声が聞こえた。ミアは背筋に寒いものが走り、すぐにそちらへ顔を向けられなかった。
まさかまさか、この声は……どうしてそんな。
「あなた、海辺で倒れていたのを、うちの使用人に助けられたのよ。運が良かったわねえ」
海辺――
ミアはその言葉に胸を衝かれ、そして何もかも思い出した。
絶望のあまり気を失いそうになりながら、女を見やった。金糸銀糸の豪華な刺繍が施された真っ赤なドレス。彼女の名前はベル。プラドー家のベルであった。
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ミアは口を利けない。一体何がどうなっているのか。混乱して、気が変になりそうだった。
「これ、あなたの持ち物かしら?」
ベルが差し出したそれを見て、ミアは声を上げそうになる。
黒と青のゴア。闇の琥珀だった。
「二つともひびが入っているけど、凄くきれい。こんな宝石は初めて見るわ。上手く加工すれば、イヤリングにも指輪にもなりそうね。これ、私にくださる?」
ベルは紅い唇でミアに迫った。助けてあげたのだから当然よねと言外に滲ませている。
「どうぞ……」
ミアは虚ろに答えた。もう自分には、必要のないものだ。
「まあ、ありがとう! あとでお礼をするわね。ところであなた、どこから来たのかしら。よければ送って差し上げるわよ」
宝飾品を手に入れたとたん、帰らせようとする。間違いなくこの女性はベルである。
なぜかミアのことを忘れているようだが。
ミアはベッドから毛足の長い絨毯へと降りた。
「あら、もうお帰りになるのね。シンシア!」
シンシアはプラドー家で働く家政婦の一人だ。すぐにやってきた彼女も、ミアのことが分からない様子である。
「お客様がお帰りになるわ。身支度を整えてさしあげて。あと、馬車も用意して」
シンシアに命じると、ベルは「ごめんあそばせ」と軽く挨拶し、さっさと出て行ってしまった。
「では、お世話をさせていただきます。よろしくお願いします」
お客扱いするシンシアに、ミアはぎこちなく頷き、化粧台の前へと進んだ。
頭が多少ふらつくが、一刻も早くここを出たかった。この家は間違いなくプラドーの屋敷である。
「ああ、素晴らしくお綺麗です」
シンシアはうっとりとした口調で、ミアの容姿を褒めた。白い肌は瑞々しく、長い髪が銀色に波打っている。鏡の中の女性は確かにミアだった。
ミアが着ていたドレスは砂で汚れているからと、代わりの一着を差し出された。
「宝石のお礼だそうです」
シンシアはベルの伝言を告げた。
髪を結い上げられ、純白のドレスに着替えると、ミアは貴婦人の美しさに仕上がった。
「まるで、光り輝く花嫁のよう……」
シンシアはほうっとため息をつきながら、玄関広間へとミアを案内した。
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