一億円の花嫁

藤谷 郁

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招かれざる客

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「あっ、宅配便かも。富山の純米吟醸をお取り寄せしたのよ~。最近、日本酒にハマっちゃってさ」

 姉がいそいそとモニターを確かめた。しかし通話ボタンを押そうとした手をピタリと止めて、その場を動かない。
 
「お姉ちゃん?」
「ああ、うん。荷物じゃなかった。セールスの人みたい」

 姉は訪問販売が嫌いで、いつもなら即、「間に合ってます」の一言で断ってしまう。
 だけど今回は、なぜかモニターの前で迷っている。

「どうしたの。何のセールス?」
「大丈夫、私が対応するから」

 私がモニターを覗こうとすると、スイッチを切ってしまった。気のせいか、かなり焦った態度に感じられる。

「あんたはここにいて。ソファに座って、テレビでも見てなさい」
「う、うん?」

 どうも様子がおかしい。
 本当にセールスの人なのだろうか。

(もしかして、お姉ちゃんの彼氏だったりして)

 それならば、焦った態度も納得がいく。
 だけど、付き合ってる人がいるなんて、知らなかったな。会社の同僚かしら、それとも飲み仲間の人とか。
 などなど、勝手に想像してみた。
 
(よく分からないけど、私に見られたくないみたいだし、大人しくしてよう)

 姉に言われたとおり、ソファに座ってテレビのスイッチをつける。
 料理番組が映り、なんとなく眺めた。
 来客の正体が気になり、あまり集中できない。

(どうしたんだろ)

 姉がなかなか戻って来ない。外に出てから15分は過ぎている。

 やっぱりセールスの人で、断りきれずに捕まってしまったのだろうか。姉をセールストークで引き止めるなんて、かなりの凄腕だ。

「助太刀しなくちゃ」

 心配になり、様子を見に行こうとしたところに姉が戻ってきた。
 私はほっとして、そばに駆け寄る。

「お姉ちゃん大丈夫? やっぱりセールスだったの?」
「奈々子」

 姉を見上げてハッとした。
 どうしてか、とても怖い顔をしている。

「ど、どうしたの。何かあったの?」

 姉は答えず、そのかわり私の胸の前に何かを差し出した。

「あんたを訪ねて来たって」
「?」

 よく見るとそれは、手のひらにおさまる大きさのカード。名刺だった。

「え……」

【 ジャパンP&Bコンサルティング
ソリューション事業部
GM 車田夏樹 】

 叫び声を上げそうになった。
 かろうじて止まったのは、姉がすぐに名刺を取り上げたから。

「聞いたとおりの外見なんで、もしやと思ったのよ。髪はショートで、ボーイッシュなタイプ。スポーツでもやってそうな感じ」

 まさに夏樹だ。私が知っている、そのままの姿である。

「夜中に電話してきた女よね」
「う、うん。でも……私を、訪ねて来たって……どうして」

 唇が震えた。
 私が電話を返さないから、直接会いに来たのか。
 だけどまさか、家にまで来るなんて。
 しかも昨日の今日、突然。
 どうして?
 いや、用件は聞かなくても分かる。夏樹は綾華の使いであり、あの二人は相変わらずの関係で、やることもあの頃と同じなのだ。

 無視、いじめ。
 友達とか仲間とか、すべては綾華の胸三寸。
 一緒になって誰かを外す。
 ゲームみたいに。
 
「お姉ちゃん……な、夏樹を、追い返してくれたんだよね?」

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