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奇怪な日常
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状況が把握できない。
504号室のスギタさんは大変なことが起きたと言った。
そうだ、大変なことだ。
アパートの住人が飛び降り自殺したのだ。
しかも、私の隣の部屋に住む、あのコワモテ男が。
「信じられない」
駅への道を急ぎながら、私はつぶやく。夢でも見ている気分だ。
「信じられない。自殺するような人に見えなかったのに」
駅前のコンビニに差し掛かったところで後ろを振り向き、もう一度つぶやいた。
まっすぐに伸びる歩道。いつもと同じ景色なのに、まったく違って見える。私はこの町に引っ越したその日、良い思い出がたくさんできますようにと願った。
こんな状況になるとは、予想だにせず。
私は前に向き直り、駅に足を進めた。とにかく仕事に行かねば。そして、水樹さんに会って、今朝のできごとを報告するのだ。
(仕事が終わった後でもいいけど、できれば昼休憩に会いたい。メールしておこう)
ホームで電車を待つ間に、急いでメールを打った。用件は告げず、『昼休憩にお会いできませんか。休憩は十三時からです』とだけ。
送信後、すぐに着信音が鳴った。
《 OK 『フローライト』で待ってる 》
「水樹さん……」
思わぬできごとに動揺していた私は、ようやく落ち着きを取り戻す。彼の存在が、これほど大きく感じられるなんて……
こんな状況なのにときめいてしまう自分に呆れながら、電車に乗り込む。そして、ドア付近の定位置に収まってから、今朝のアパートの様子を頭に思い浮かべた。
メゾン城田の前に警察車両が停まり、現場となった駐車場周りには野次馬が何人か集まっていた。
雨の中、警察官が建物に近い地面を調べていた。あの辺りにコワモテ男が落下したのだ。その上方には、あの男が住んでいた506号室のベランダがある。
そして、隣は私の部屋だ。
第一発見者は新聞配達員。発見時、コワモテ男はまだ息があったらしく、救急車で搬送されたが間もなく死亡が確認されたという。
(警察の事情聴取なんて初めてだから、緊張しちゃった。刑事ドラマみたいだったな)
警察は第一発見者や大家の他、アパートの住民にも事情聴取を行った(その時、コワモテ男の名前が鳥宮だと初めて知った)
事情聴取の内容は、午前四時半から五時の間、妙な声や物音を聞かなかったか。気付いたことはないか――など。
特に、506号室の両隣、下の部屋の住人には丁寧に聴き取っている。本当に自殺かどうか判断するための初動捜査だと、大家が青ざめた顔で住人に説明していた。
変死の場合、そういった調査をするらしい。
(もし自殺でなければ、他殺?)
コワモテ男が自殺するなど考えられない。だけど、こんな静かな町で殺人事件なんて、もっと考えられない。
私はそこまで考え、ふと、あることを思い出す。以前、山賀さんが言っていた、アパートの隣人トラブルによる殺人事件だ。
その事件は、城田町で起きている。
コワモテ男の人相をあらためて思い出す。いかにも悪人面だった。
もしかしたら、誰かの恨みを買い、殺されたのかもしれない。柄の悪い仲間同士のいざこざとか。
いくら田舎町でも、事件が起きる時は起きる。
だけど、やはり納得できないのは、殺人事件にしては状況が不自然だから。
コワモテ男が転落したとされる時間帯、住人の誰も、不審な物音や人が言い争うような声など聞いていないという。
私も眠ってはいたが、隣のベランダで大きな音がすれば目を覚ますだろう。しかし何も気付かなかった。
つまり、いつもと変わらぬ、静かな夜明け前だったのだ。
電車が本町駅に着いた。私は傘を握りしめて、ホームの雑踏に紛れた。
同じ電車にコワモテ男が乗っていたらどうしよう。毎日不安だったことを思い、虚しい気持ちになる。
苦情の件で気掛かりだった隣人が死んだ。
言ってみれば、隣人問題による不安が解消されたわけだが、手放しで喜べない。
それどころか、怖くて体が震える。
「もうあの部屋には住めない。住みたくない」
504号室のスギタさんが言っていた。メゾン城田は事故物件になったと。
コワモテ男の死は、大家だけでなく、私達住人にも大きなダメージを与えた。
虚しさに包まれながら、本当に大変なことが起きたのだと、私は実感していた。
504号室のスギタさんは大変なことが起きたと言った。
そうだ、大変なことだ。
アパートの住人が飛び降り自殺したのだ。
しかも、私の隣の部屋に住む、あのコワモテ男が。
「信じられない」
駅への道を急ぎながら、私はつぶやく。夢でも見ている気分だ。
「信じられない。自殺するような人に見えなかったのに」
駅前のコンビニに差し掛かったところで後ろを振り向き、もう一度つぶやいた。
まっすぐに伸びる歩道。いつもと同じ景色なのに、まったく違って見える。私はこの町に引っ越したその日、良い思い出がたくさんできますようにと願った。
こんな状況になるとは、予想だにせず。
私は前に向き直り、駅に足を進めた。とにかく仕事に行かねば。そして、水樹さんに会って、今朝のできごとを報告するのだ。
(仕事が終わった後でもいいけど、できれば昼休憩に会いたい。メールしておこう)
ホームで電車を待つ間に、急いでメールを打った。用件は告げず、『昼休憩にお会いできませんか。休憩は十三時からです』とだけ。
送信後、すぐに着信音が鳴った。
《 OK 『フローライト』で待ってる 》
「水樹さん……」
思わぬできごとに動揺していた私は、ようやく落ち着きを取り戻す。彼の存在が、これほど大きく感じられるなんて……
こんな状況なのにときめいてしまう自分に呆れながら、電車に乗り込む。そして、ドア付近の定位置に収まってから、今朝のアパートの様子を頭に思い浮かべた。
メゾン城田の前に警察車両が停まり、現場となった駐車場周りには野次馬が何人か集まっていた。
雨の中、警察官が建物に近い地面を調べていた。あの辺りにコワモテ男が落下したのだ。その上方には、あの男が住んでいた506号室のベランダがある。
そして、隣は私の部屋だ。
第一発見者は新聞配達員。発見時、コワモテ男はまだ息があったらしく、救急車で搬送されたが間もなく死亡が確認されたという。
(警察の事情聴取なんて初めてだから、緊張しちゃった。刑事ドラマみたいだったな)
警察は第一発見者や大家の他、アパートの住民にも事情聴取を行った(その時、コワモテ男の名前が鳥宮だと初めて知った)
事情聴取の内容は、午前四時半から五時の間、妙な声や物音を聞かなかったか。気付いたことはないか――など。
特に、506号室の両隣、下の部屋の住人には丁寧に聴き取っている。本当に自殺かどうか判断するための初動捜査だと、大家が青ざめた顔で住人に説明していた。
変死の場合、そういった調査をするらしい。
(もし自殺でなければ、他殺?)
コワモテ男が自殺するなど考えられない。だけど、こんな静かな町で殺人事件なんて、もっと考えられない。
私はそこまで考え、ふと、あることを思い出す。以前、山賀さんが言っていた、アパートの隣人トラブルによる殺人事件だ。
その事件は、城田町で起きている。
コワモテ男の人相をあらためて思い出す。いかにも悪人面だった。
もしかしたら、誰かの恨みを買い、殺されたのかもしれない。柄の悪い仲間同士のいざこざとか。
いくら田舎町でも、事件が起きる時は起きる。
だけど、やはり納得できないのは、殺人事件にしては状況が不自然だから。
コワモテ男が転落したとされる時間帯、住人の誰も、不審な物音や人が言い争うような声など聞いていないという。
私も眠ってはいたが、隣のベランダで大きな音がすれば目を覚ますだろう。しかし何も気付かなかった。
つまり、いつもと変わらぬ、静かな夜明け前だったのだ。
電車が本町駅に着いた。私は傘を握りしめて、ホームの雑踏に紛れた。
同じ電車にコワモテ男が乗っていたらどうしよう。毎日不安だったことを思い、虚しい気持ちになる。
苦情の件で気掛かりだった隣人が死んだ。
言ってみれば、隣人問題による不安が解消されたわけだが、手放しで喜べない。
それどころか、怖くて体が震える。
「もうあの部屋には住めない。住みたくない」
504号室のスギタさんが言っていた。メゾン城田は事故物件になったと。
コワモテ男の死は、大家だけでなく、私達住人にも大きなダメージを与えた。
虚しさに包まれながら、本当に大変なことが起きたのだと、私は実感していた。
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