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身代わり
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殺人事件の被疑者として指名手配されていた古池店長が、ついさっき逮捕された。
瀬戸さんの報告を聞いて、私は心からの安堵とともに戦慄を覚える。なぜなら……
「加害者の女と店長が、繋がってたってことですか?」
「ええ。すべて古池の指示でやったと供述しています。古池も大筋を認めました。本格的な追及はこれからですが……」
衝撃のあまり言葉を失う。
私を襲うよう画策したのは古池店長。今夜はショックの連続だが、とどめを刺された気分だ。
「一条さん?」
「……大丈夫です」
不思議なことに、私は倒れなかった。取り乱すことなく、とどめを刺されてもなお足を踏ん張っている。
「そうじゃないかと思ってました。私に殺意を持つとしたら店長しかいませんから」
ふつふつと湧き上がるこの感情は、身勝手な人間に対する怒り。理不尽な行いに対する猛烈な怒りだ。
正義感が私を支えている。
あの男は思うままに生きてきた。仕事も女も自由に操り、欲しいものをすべて手に入れて、飽きたら捨てるの繰り返し。
上手くいかなかったのは私が初めてだろう。それをきっかけに破綻が始まり人生を台無しにされたと思い込んでいる。
要するに、殺意の理由は逆恨みなのだ。
「瀬戸さん。私にできることがあれば何でも言ってください。店長……古池保に、必ず罪を償わせます」
「一条さん……!」
まっすぐ前を向く私に、瀬戸さんが目をみはる。
「あなたはやっぱり強い。本当に、アイツの言うとおりの女性ね」
アイツというのは東松さんだ。そういえば彼は私のことを図太いと言った。失礼な言い方だけど、あれは彼流の励ましかもしれない。私が負けないのを東松さんは分かっていたのだ。
――どっしりと構えましょう。本題はこれからですよ。
「本題はこれからなんですね」
「ええ。我々も、そして一条さんも」
瀬戸さんは明日、冬月書店に出向くと言った。私だけでなくスタッフの証言も必要なのだ。また、加害者の女が映る監視カメラのデータも証拠品の一つとなるだろう。
あらゆる証拠を集めて検察に送らねばならない。
「古池については、後日あらためて説明させてもらいます」
「分かりました」
これから本格的な取調べが始まる。ただ、店長が確保された場所は既に速報に流れたそうで、教えてくれた。
「すみれ荘……って、あの、前に事件のあったアパートですか?」
「そうです。メゾン城田と同じ城田町ですね」
すみれ荘といえば、騒音トラブルによる隣人殺人事件が起きた物件だ。メゾン城田からさほど離れていない。
「しかも、古池が発見されたのは当時事件現場となった、今は加害者の女が借りている部屋です」
「ええっ?」
店長と女の接点がそんなところにあったとは。
しかし、だからこそ女の証言から店長の居場所が割れて逮捕に繋がったのだと納得した。
「店長はあの女と住んでいたってことですか? 以前から知り合いだったとか」
瀬戸さんはうーんと唸り、複雑そうに答えた。
「ごめんなさい。その辺りはこれから詰めていくし、じきにはっきりするだろうけど、今は不確かな状況だから話せないの」
「そ、そうですよね。こちらこそ、状況も考えずにすみません」
店長があの女の部屋にいたのは、どういったいきさつなのか。詳しい事情を知りたいが、瀬戸さんの言うとおり、はっきりしてから聞いたほうが良さそうだ。
捜査上、言えないこともあるだろうし。
「ともあれ、今夜の聞き取りはこれで終了です。一条さん、ご協力をありがとうございました。今、車の準備をしますので」
数分後、瀬戸さんのあとについて取調室を出た。玄関まわりはマスコミが集まってきたため、裏口へと案内される。
「一条さんもしばらく大変だと思います。行き過ぎた取材があれば相談してくださいね」
「は、はい」
冬月書店の店長が不倫の末に部下を殺害し、さらに副店長の私まで襲撃しようとした。一連の事実が明るみになれば、これまで以上に世間の耳目が私に集まるだろう。
(でも、智哉さんが守ってくれるから……)
そう考えかけて心が暗くなる。智哉さんが、山賀さんを犠牲にして私を守ろうとしたのを思い出したのだ。
家に帰ったら、彼と話さなくては。
瀬戸さんの報告を聞いて、私は心からの安堵とともに戦慄を覚える。なぜなら……
「加害者の女と店長が、繋がってたってことですか?」
「ええ。すべて古池の指示でやったと供述しています。古池も大筋を認めました。本格的な追及はこれからですが……」
衝撃のあまり言葉を失う。
私を襲うよう画策したのは古池店長。今夜はショックの連続だが、とどめを刺された気分だ。
「一条さん?」
「……大丈夫です」
不思議なことに、私は倒れなかった。取り乱すことなく、とどめを刺されてもなお足を踏ん張っている。
「そうじゃないかと思ってました。私に殺意を持つとしたら店長しかいませんから」
ふつふつと湧き上がるこの感情は、身勝手な人間に対する怒り。理不尽な行いに対する猛烈な怒りだ。
正義感が私を支えている。
あの男は思うままに生きてきた。仕事も女も自由に操り、欲しいものをすべて手に入れて、飽きたら捨てるの繰り返し。
上手くいかなかったのは私が初めてだろう。それをきっかけに破綻が始まり人生を台無しにされたと思い込んでいる。
要するに、殺意の理由は逆恨みなのだ。
「瀬戸さん。私にできることがあれば何でも言ってください。店長……古池保に、必ず罪を償わせます」
「一条さん……!」
まっすぐ前を向く私に、瀬戸さんが目をみはる。
「あなたはやっぱり強い。本当に、アイツの言うとおりの女性ね」
アイツというのは東松さんだ。そういえば彼は私のことを図太いと言った。失礼な言い方だけど、あれは彼流の励ましかもしれない。私が負けないのを東松さんは分かっていたのだ。
――どっしりと構えましょう。本題はこれからですよ。
「本題はこれからなんですね」
「ええ。我々も、そして一条さんも」
瀬戸さんは明日、冬月書店に出向くと言った。私だけでなくスタッフの証言も必要なのだ。また、加害者の女が映る監視カメラのデータも証拠品の一つとなるだろう。
あらゆる証拠を集めて検察に送らねばならない。
「古池については、後日あらためて説明させてもらいます」
「分かりました」
これから本格的な取調べが始まる。ただ、店長が確保された場所は既に速報に流れたそうで、教えてくれた。
「すみれ荘……って、あの、前に事件のあったアパートですか?」
「そうです。メゾン城田と同じ城田町ですね」
すみれ荘といえば、騒音トラブルによる隣人殺人事件が起きた物件だ。メゾン城田からさほど離れていない。
「しかも、古池が発見されたのは当時事件現場となった、今は加害者の女が借りている部屋です」
「ええっ?」
店長と女の接点がそんなところにあったとは。
しかし、だからこそ女の証言から店長の居場所が割れて逮捕に繋がったのだと納得した。
「店長はあの女と住んでいたってことですか? 以前から知り合いだったとか」
瀬戸さんはうーんと唸り、複雑そうに答えた。
「ごめんなさい。その辺りはこれから詰めていくし、じきにはっきりするだろうけど、今は不確かな状況だから話せないの」
「そ、そうですよね。こちらこそ、状況も考えずにすみません」
店長があの女の部屋にいたのは、どういったいきさつなのか。詳しい事情を知りたいが、瀬戸さんの言うとおり、はっきりしてから聞いたほうが良さそうだ。
捜査上、言えないこともあるだろうし。
「ともあれ、今夜の聞き取りはこれで終了です。一条さん、ご協力をありがとうございました。今、車の準備をしますので」
数分後、瀬戸さんのあとについて取調室を出た。玄関まわりはマスコミが集まってきたため、裏口へと案内される。
「一条さんもしばらく大変だと思います。行き過ぎた取材があれば相談してくださいね」
「は、はい」
冬月書店の店長が不倫の末に部下を殺害し、さらに副店長の私まで襲撃しようとした。一連の事実が明るみになれば、これまで以上に世間の耳目が私に集まるだろう。
(でも、智哉さんが守ってくれるから……)
そう考えかけて心が暗くなる。智哉さんが、山賀さんを犠牲にして私を守ろうとしたのを思い出したのだ。
家に帰ったら、彼と話さなくては。
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