恋の記録

藤谷 郁

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正義の使者〈3〉

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「彼は大事なことを思い出し、苦しんだと言いました。ということはたぶん、つらい記憶です。事件がきっかけで、記憶の蓋が開いたのではないでしょうか」

「記憶の蓋……」


人は生きるための自己防衛として、辛い記憶に蓋をする場合がある。それは無意識に行われ、何かのきっかけで突然思い出したりする。その現象をフラッシュバックと言う。


「斎藤陽向の事件をきっかけにですか」


望月さんが前のめりになった。


「はい。水樹さんは事件をきっかけに、つらい過去を思い出した。不眠になるほど悩み、もがき苦しんだ末、人生をやり直したいと願い始めたのでしょう。だけど結局うまくいかず、間違った方向へと進んでしまったのです、きっと……」


言葉を飲み、うなだれる。彼女は水樹に関して責任を感じているのだ。俺には、その気持ちが痛いほどよく分かった。


「貴重なお話をありがとうございました。参考にさせていただきます」


名倉医師にお礼を述べて、病院を出た。




望月さんと俺は車に乗り込み、無言でシートベルトを着けた。


「東松くん。今の話、どう思う」


エンジンをかけようとした手を止めて、望月さんを見た。


「俺は、水樹の行動原理は高崎の事件にあると考えていました。古池を殺したのは、斎藤陽向を守るためだと。しかし、もっと複雑な理由がありそうです」

「俺も同感だ。水樹の闇は思ったよりも深い」

「一体、何を思い出したんでしょうか」


つらい記憶。つらい過去。封じ込めなければ生きていけないほどの苦しみ。


「分からんが、斎藤の事件よりもっと前の記憶だ。あいつの過去を調べれば根幹が見えてくるかもしれない」

「水樹が犯した罪の、すべての原因ですね」

「ああ。それが分かれば、あいつの行方も辿れるだろう」


望月さんがうなずくのを確かめ、エンジンをかける。

水樹については、名古屋と岐阜の関係各所に本部が問い合わせ中だ。情報が揃う頃だと思い、気が急いた。


「もう寄るところはないですね。急いで帰りましょう!」

「おいおい、事故ったら元も子もないぞ。安全運転で頼むよ」

「了解です」


水樹の背中が見えてきた。そんな気がして、これまでになく胸が高鳴るのを感じた。






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