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傍観者
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次の週の昼休み、千駄堀は職員室を訪れた。赤点補講の課題提出はその後も続いている。千駄堀が少しずつ小出しにするように宿題を持っていくからだ。これにはさすがの小町も呆れていた。
「千駄堀君、少しは私を助けると思ってまとめて持ってきてちょうだい」
「一度にプリント一枚が限界です。まとめて提出しても良いですが、それだといつになるか……」
「私の時間は無限ではないのよ……」小町は額に手をやった。一人の生徒に毎日割く時間はないようだ。
「それはお互い様です。ボクの貴重な時間もボランティア部に吸いとられてしまっています」
「家に帰ってからもたっぷりと時間はあるでしょう?」
「まあ確かに。しかしやることは山ほどあります」
「読書と動画視聴、そしてゲーム、なのよね?」
「その通りです」
「せめて数学の授業があった日くらいは数学の復習に一時間充てて欲しいものだわ」
「それをしようと思うと睡魔が襲ってきて」
小町はため息をついた。「まあ、いいわ、一枚ずつでも」
「恐れ入ります」
「不思議ね、素直なセリフが嫌味にしか聞こえないわ」
「それは先生がひねくれているのかと」
「ところで」小町は話を変えた。「ボランティア部の活動はどう?」
「土曜日に老人ホームに行って来ました」
千駄堀は施設でのお誕生会の話を語って聞かせた。
「良い部活でしょ?」
「前薗さんたちには合っていると思いますよ」
「自分には合っていない、と聞こえるわね」
「その通りです」
「千駄堀君はさておき……」千駄堀の話はどうでも良いらしい。「あの部活は前薗さんが始めたものなの。彼女が中等部の頃に立ち上げて、私が顧問をすることになった」
「そうですか」
「部員は専属がいつもギリギリの人数、かけもちはたくさんいるけれど」
「いつ行っても部室は前薗さんと小原さんの二人だけですね」
「常時活動しているのは彼女たちだけ。他の部員は校外活動を手伝っているだけのようよ」
「ボクもそうして良いですか?」
「何を言っているのよ、あなたは専属の部員として戦力になりなさい。そして誰かのために何かをする意味を考えなさい」
「考えたって何も得られませんよ。ボクはそんな人間じゃないですから」
「どんな人間なの?」
「一匹狼で傍観者。『芝居』を観るのは好きですが」
「演劇に興味があるのね?」
「その芝居ではないです。現実に起こっている劇。それを楽しんでいるだけです。ボク自身がその劇に参加するつもりはありません」
「よくわからないけれど、高みの見物をしている、のかしら?」
「高いところにいるつもりはありませんけどね」
小町はため息をついた。
「いいわ、それでも……」小町は一旦俯いてから顔を上げた。「傍観者のつもりでも構わないから、これから一年、ボランティア部の活動に参加しなさい。そして時々、補習の提出の時に活動内容を報告して」
「ボク、一年、補習を受け続けるのですか?」
「そのつもりなのでしょう?」小町は射るような目で千駄堀を見た。「いくら私でもそのくらいのことはわかるわよ」
「そ、そうですか……」
小町の顔つきが変わったと千駄堀は思った。時々見誤ることがある。いや観察を続けることで評価が変わるというべきか。しかしだからこそ人間観察は楽しい。小町は自分を使って何かをやらせようとしている、と千駄堀は思った。
まずは観劇だ。舞台はボランティア部。主役は前薗純香。共演小原梨花。ゲスト俳優は日替わりだ。小町に言われたからという理由もあるが、見届けよう、と千駄堀は思った。
「千駄堀君、少しは私を助けると思ってまとめて持ってきてちょうだい」
「一度にプリント一枚が限界です。まとめて提出しても良いですが、それだといつになるか……」
「私の時間は無限ではないのよ……」小町は額に手をやった。一人の生徒に毎日割く時間はないようだ。
「それはお互い様です。ボクの貴重な時間もボランティア部に吸いとられてしまっています」
「家に帰ってからもたっぷりと時間はあるでしょう?」
「まあ確かに。しかしやることは山ほどあります」
「読書と動画視聴、そしてゲーム、なのよね?」
「その通りです」
「せめて数学の授業があった日くらいは数学の復習に一時間充てて欲しいものだわ」
「それをしようと思うと睡魔が襲ってきて」
小町はため息をついた。「まあ、いいわ、一枚ずつでも」
「恐れ入ります」
「不思議ね、素直なセリフが嫌味にしか聞こえないわ」
「それは先生がひねくれているのかと」
「ところで」小町は話を変えた。「ボランティア部の活動はどう?」
「土曜日に老人ホームに行って来ました」
千駄堀は施設でのお誕生会の話を語って聞かせた。
「良い部活でしょ?」
「前薗さんたちには合っていると思いますよ」
「自分には合っていない、と聞こえるわね」
「その通りです」
「千駄堀君はさておき……」千駄堀の話はどうでも良いらしい。「あの部活は前薗さんが始めたものなの。彼女が中等部の頃に立ち上げて、私が顧問をすることになった」
「そうですか」
「部員は専属がいつもギリギリの人数、かけもちはたくさんいるけれど」
「いつ行っても部室は前薗さんと小原さんの二人だけですね」
「常時活動しているのは彼女たちだけ。他の部員は校外活動を手伝っているだけのようよ」
「ボクもそうして良いですか?」
「何を言っているのよ、あなたは専属の部員として戦力になりなさい。そして誰かのために何かをする意味を考えなさい」
「考えたって何も得られませんよ。ボクはそんな人間じゃないですから」
「どんな人間なの?」
「一匹狼で傍観者。『芝居』を観るのは好きですが」
「演劇に興味があるのね?」
「その芝居ではないです。現実に起こっている劇。それを楽しんでいるだけです。ボク自身がその劇に参加するつもりはありません」
「よくわからないけれど、高みの見物をしている、のかしら?」
「高いところにいるつもりはありませんけどね」
小町はため息をついた。
「いいわ、それでも……」小町は一旦俯いてから顔を上げた。「傍観者のつもりでも構わないから、これから一年、ボランティア部の活動に参加しなさい。そして時々、補習の提出の時に活動内容を報告して」
「ボク、一年、補習を受け続けるのですか?」
「そのつもりなのでしょう?」小町は射るような目で千駄堀を見た。「いくら私でもそのくらいのことはわかるわよ」
「そ、そうですか……」
小町の顔つきが変わったと千駄堀は思った。時々見誤ることがある。いや観察を続けることで評価が変わるというべきか。しかしだからこそ人間観察は楽しい。小町は自分を使って何かをやらせようとしている、と千駄堀は思った。
まずは観劇だ。舞台はボランティア部。主役は前薗純香。共演小原梨花。ゲスト俳優は日替わりだ。小町に言われたからという理由もあるが、見届けよう、と千駄堀は思った。
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