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「先輩」双葉
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ボランティア部の活動は週二回だからまっすぐ帰宅する日の方が多い。その日千駄堀は寄り道もせずに帰宅し、夕食までの時間仮眠をとった。夜はネット動画かゲーム三昧だ。そうして六時半頃に妹に起こされた。
「ツクシ、ご飯できたって」
千駄堀家では家族を名前で呼ぶ習わしが定着していた。「おう」と千駄堀は眠い目をこすり起き上がった。
妹の双葉は御堂藤学園中等部の三年生だ。テニス部に所属している。テニス部は硬式、ソフトテニス、ショートテニスの三種類活動しているが、力を入れているのはショートテニスだ。マイナー分野の方が大会も小さく、御堂藤のような弱小校でもそこそこの成績を修めることができるのだった。
双葉は中等部からの御堂藤学園生だから千駄堀より一年長く通っていることになる。そういう意味では「先輩」でもあった。しかもカースト的には学年では上層に位置する。双葉から見れば兄はうだつの上がらない孤立した陰性キャラだった。
千駄堀家では食事は原則として揃ってとる。母親が何度も用意する手間を避けるためだ。帰宅の遅い父を除く三人が食卓を囲んだ。陽気な母親と妹がお喋りをする中、千駄堀は黙々と生姜焼きを食べた。
千駄堀家は肉食系で脂濃いメニューも多かった。ふだん体を動かすことのない千駄堀だが、生姜焼きは好物だった。ひたすら旨そうに食べる。それを見て双葉は言った。
「ほんとに、食って寝て、食って寝て、ね」
「生理的欲求だろ」
「少しは体を動かしたら?」
「必要かつ十分動いている」
「何それ」双葉は呆れるだけだ。
いつもの光景。兄の威厳はとっくの昔に失われている。
「そういえば、ボランティア部に入ったの?」
「なんで知ってる?」
「和泉さんに聞いた」
「なんであいつが……?」
「目立たなく動いているつもりでも、知ってる人はいるものなの」
「それにしても」
「和泉さん、前薗さんや小原さんと仲が良いから」
そして高原和泉は千駄堀兄妹と同じ小学校に通った近所の住人だった。千駄堀自身は今は全く接点がなく話をすることもない。しかし双葉は今でも帰りのバスが一緒になったりすると話をする間柄のようだった。
「双葉はあの連中と知り合いなのか?」
「それは何と言ってもあの学年のS組だからね。中等部では今でも伝説になっている」
「伝説ねえ……」
「高等部から入ったツクシにはピンとこないかもしれないけれど。私の学年にも自称S組とか言ってるグループはあるのね。でも和泉さんたちのグループには足元にも及ばない。それだけ逸材が揃っていた」
「でも今は影が薄いんじゃね? オレ、知らなかったし」
「それはツクシがボッチだからでしょ」双葉にかかれば千駄堀尽はいつも一刀両断だった。
「そんなグループにいた前薗がなんでまた細々とボランティア部なんかやってるんだ? 部員集めるのも苦労しているみたいだし。人気があれば人も集まるだろ?」
「それは……」と双葉は口を閉ざした。
その先が出てくるかと千駄堀は待ったが、双葉の口は開かなかった。しばらくしてから「渋谷さんもいるし、S組の中に入っていくのは勇気がいるでしょ、ふつう」と呟いた。
「渋谷の姿なんて部室で見たことないけどな」
双葉はそれきりボランティア部の話をしなくなった。
自分からしておいて口を閉ざすとは何様だろう。しかし千駄堀に対する妹の態度はこれが当たり前になっていた。
前薗と渋谷がいては、その輪の中に入りづらいということだろうか。確かにクラスであの輪に加わるのは勇気がいるだろう。多くの生徒は遠くから羨望の眼差しを送るだけだ。ただの傍観者だった千駄堀だからボランティア部に入っても傍観者の立場を貫くことができるのだった。
「ツクシ、ご飯できたって」
千駄堀家では家族を名前で呼ぶ習わしが定着していた。「おう」と千駄堀は眠い目をこすり起き上がった。
妹の双葉は御堂藤学園中等部の三年生だ。テニス部に所属している。テニス部は硬式、ソフトテニス、ショートテニスの三種類活動しているが、力を入れているのはショートテニスだ。マイナー分野の方が大会も小さく、御堂藤のような弱小校でもそこそこの成績を修めることができるのだった。
双葉は中等部からの御堂藤学園生だから千駄堀より一年長く通っていることになる。そういう意味では「先輩」でもあった。しかもカースト的には学年では上層に位置する。双葉から見れば兄はうだつの上がらない孤立した陰性キャラだった。
千駄堀家では食事は原則として揃ってとる。母親が何度も用意する手間を避けるためだ。帰宅の遅い父を除く三人が食卓を囲んだ。陽気な母親と妹がお喋りをする中、千駄堀は黙々と生姜焼きを食べた。
千駄堀家は肉食系で脂濃いメニューも多かった。ふだん体を動かすことのない千駄堀だが、生姜焼きは好物だった。ひたすら旨そうに食べる。それを見て双葉は言った。
「ほんとに、食って寝て、食って寝て、ね」
「生理的欲求だろ」
「少しは体を動かしたら?」
「必要かつ十分動いている」
「何それ」双葉は呆れるだけだ。
いつもの光景。兄の威厳はとっくの昔に失われている。
「そういえば、ボランティア部に入ったの?」
「なんで知ってる?」
「和泉さんに聞いた」
「なんであいつが……?」
「目立たなく動いているつもりでも、知ってる人はいるものなの」
「それにしても」
「和泉さん、前薗さんや小原さんと仲が良いから」
そして高原和泉は千駄堀兄妹と同じ小学校に通った近所の住人だった。千駄堀自身は今は全く接点がなく話をすることもない。しかし双葉は今でも帰りのバスが一緒になったりすると話をする間柄のようだった。
「双葉はあの連中と知り合いなのか?」
「それは何と言ってもあの学年のS組だからね。中等部では今でも伝説になっている」
「伝説ねえ……」
「高等部から入ったツクシにはピンとこないかもしれないけれど。私の学年にも自称S組とか言ってるグループはあるのね。でも和泉さんたちのグループには足元にも及ばない。それだけ逸材が揃っていた」
「でも今は影が薄いんじゃね? オレ、知らなかったし」
「それはツクシがボッチだからでしょ」双葉にかかれば千駄堀尽はいつも一刀両断だった。
「そんなグループにいた前薗がなんでまた細々とボランティア部なんかやってるんだ? 部員集めるのも苦労しているみたいだし。人気があれば人も集まるだろ?」
「それは……」と双葉は口を閉ざした。
その先が出てくるかと千駄堀は待ったが、双葉の口は開かなかった。しばらくしてから「渋谷さんもいるし、S組の中に入っていくのは勇気がいるでしょ、ふつう」と呟いた。
「渋谷の姿なんて部室で見たことないけどな」
双葉はそれきりボランティア部の話をしなくなった。
自分からしておいて口を閉ざすとは何様だろう。しかし千駄堀に対する妹の態度はこれが当たり前になっていた。
前薗と渋谷がいては、その輪の中に入りづらいということだろうか。確かにクラスであの輪に加わるのは勇気がいるだろう。多くの生徒は遠くから羨望の眼差しを送るだけだ。ただの傍観者だった千駄堀だからボランティア部に入っても傍観者の立場を貫くことができるのだった。
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