傍観者ーBystanderー 二年B組

hakusuya

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補習はつづく

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 別の機会、千駄堀せんだぼりは職員室に小町こまちを訪れていた。課題提出は今も続いている。ときどき行われる小テストがまるでできないからだ。小町の授業の落ちこぼれは今や千駄堀を入れても二人しかいないようだった。
「先生はボランティア部の部室まで顔を出されないようですね」
「理由がないから」あっさりと小町は答えた。
「部員が何をしているか気にならないのですか?」
「校外での奉仕活動についての打ち合わせなのでしょう? あの二人が何か問題のある行動をするとは思っていないわ。優秀だから信用している」
「オレが加わっても、ですか?」
いつの頃からか千駄堀の一人称は「ボク」から「オレ」に変わっていた。すっかり小町とは関わりが長くなり、人格が屈折しているのもばれているので猫をかぶる必要もなくなっていた。はじめの頃「下品よ」と言っていた小町も今はもう何も言わなくなっていた。
「あなたは『傍観者』なのでしょう?空気みたいなものではないの? それともあの子達に何かしているの?」
「質問は三つですか? 順番に答えますと、はい、はい、いいえ、です。あっ、二番目の『はい』は英語の『YES』です」
「それなら何も問題はないわ」
「そうですね……」
彼女たちが数学の勉強会をしている、教えてくれる人を欲している、とは言わなかった。千駄堀は原則として傍観者。介入することは滅多にない。これまでの人生で介入したことは何度かあるがろくな結果に繋がらないことを千駄堀は知っていた。
「そんなことより」と小町は矛先を千駄堀に向けた。「千駄堀君のやる気はどうやったら掘り当てることができるのかしら?」
「これはまた、数学の先生らしくない表現法ですね」
「そこ?」小町は呆れる。その表情がまた良い。
「やる気はありますよ、こうして先生のところに通っているじゃありませんか」
「通わないですむように頑張ってほしいわ。もう課題を出すのはやめようかしら。無駄なことにしか思えない」
「先生、見捨てないで下さいます?」
小町は答えずに溜め息をついた。根が真面目なだけに一度決めたルールを曲げることはない。一定の点に満たないものに対してプログラムのルーチンが発動されているだけだ。そこに諦めとかいった感情が介入する余地はなかった。「やめようかしら」というのも単なる愚痴だった。
「優秀な二人から刺激を受けて勉強してくれると良いのだけれど」
「まさかそんなつまらない理由でオレをボランティア部に入れました?」
「そんなことないわ」と溜め息をついた小町は嘘を言っているようには見えなかった。「とにかく、あなたは性根を入れ換えて真人間になりなさい」
 諦めたような態度で小町は千駄堀を追い出した。
 真人間とはまた抽象的なことを言う、と千駄堀は斜め上を向いた。
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