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守崎菜生
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新学期が始まって二週間が過ぎた。
目立たないようにおとなしくしていた明音も徐々にその存在がクラスで知られるようになった。
クラス三十八名のうち二十二名は高等部入学組で一年生の時はクラスが別だったからほとんど面識がない。十六名が中等部からの内部進学者になるが、A組になったことのある生徒は二人だけだった。そのうち一人は女子生徒で明音も喋ったことがあった。
「あの、浅倉さん、よね?」とその彼女は話しかけてきた。
「うん、親が離婚して今は小早川になったけど、守崎さん」
「あ、ごめん」と守崎菜生もまた決まりの悪そうな顔になった。
「こちらこそ気を遣わせてごめん」
「似てるなと思っていたんだけど名前が違うので別人なのかと……」
「そういえばC組に東矢泉月にそっくりな子が転校してきたっけ」明音は屈託なく笑う。「よく似た別人ているよね」
いつまでもひとりでいるわけにもいかない。このクラスでもちょっとしたお喋りをする友人をつくるべきだと明音は思っていた。だから最近眼鏡をやめてコンタクトレンズにし、髪も下ろしている。中等部からの内部進学者なら「浅倉明音」だと認識するだろう。
「S組十傑」などと中等部時代は呼ばれていた。決して特別ではないからそう呼ばれるのは嫌だった。ましてや、「S組」の「番長」の「浅倉明音」などと囁かれると顔から火が出るくらい恥ずかしい。いったいどこのヤンキーだ? 確かに夏休みに校則破りの茶髪にして化粧を施し、華美な格好で「おしゃれ番長」を気どったこともあったが、ただの思春期症候群の一種だと明音は思っている。
「お弁当、一緒に食べても良い?」
「良いよ」明音に異論はなかった。
新学期が始まって二週間、明音は教室でひとりで弁当を食べていた。食堂で学食を食べることもあったが基本的には朝自分で弁当を用意する。弟妹たちが午後三時頃に帰ってくるからちょっとした軽食も朝のうちに用意しておく。それが明音の日課だった。自分の弁当はついでの産物だった。
守崎は自分の席から弁当を持ってやってきた。隣の席は男子生徒だったがいつも学食を食べに行っていて、その後も部活をしているらしく、午後の授業開始直前まで帰ってこなかった。守崎はそれを知っていて隣の席から椅子だけ借りて明音の机にくっつけた。
「守崎さんもひとり、なの?」明音は訊いた。
「前のクラスの子のところまで行って食べたりしていたんだけど、いつまでもそういうわけにもいかないじゃない?」
「どこも居心地は変わらないということね」悟ったように明音は言った。
一年生の時の友人は、それぞれのクラスで友人をつくるものだ。ここで居場所をつくるしかない。
ずっとA組にいて固定した仲間がいた明音は今まで新たに友人をつくる必要に迫られなかった。それが今年はまるで転校してきたような気分を味わうことになった。知っている顔は中等部の頃にA組にいたことがある生徒やかつて所属していた部活の顔馴染みで、それは五人もいなかった。
「いつの間にかグループもできちゃっているし」
教室に残った生徒たちを見ても少なくとも四つのグループがあった。守崎に言われるまで明音はまるで気にしていなかったが、そうしたことを気にする生徒は多いのだろう。
「他のクラスも似たようなものよ。中高一貫生のグループか部活のグループ、そして、ぼっち」
「私だ」明音は自虐的に笑った。
「そんなことないよ、小早川さんはじっとしていても人が集まってくる」
「明音、で良いから、守崎さん」
「じゃあ、私は菜生で」
守崎菜生は社交性があるようだ。昔同じクラスになったこともあったがあまり接点がなかった。「S組」といわれたグループで固まっていては声をかけづらかったのかもしれない。そうしてまずは守崎と行動を共にするようになった。
目立たないようにおとなしくしていた明音も徐々にその存在がクラスで知られるようになった。
クラス三十八名のうち二十二名は高等部入学組で一年生の時はクラスが別だったからほとんど面識がない。十六名が中等部からの内部進学者になるが、A組になったことのある生徒は二人だけだった。そのうち一人は女子生徒で明音も喋ったことがあった。
「あの、浅倉さん、よね?」とその彼女は話しかけてきた。
「うん、親が離婚して今は小早川になったけど、守崎さん」
「あ、ごめん」と守崎菜生もまた決まりの悪そうな顔になった。
「こちらこそ気を遣わせてごめん」
「似てるなと思っていたんだけど名前が違うので別人なのかと……」
「そういえばC組に東矢泉月にそっくりな子が転校してきたっけ」明音は屈託なく笑う。「よく似た別人ているよね」
いつまでもひとりでいるわけにもいかない。このクラスでもちょっとしたお喋りをする友人をつくるべきだと明音は思っていた。だから最近眼鏡をやめてコンタクトレンズにし、髪も下ろしている。中等部からの内部進学者なら「浅倉明音」だと認識するだろう。
「S組十傑」などと中等部時代は呼ばれていた。決して特別ではないからそう呼ばれるのは嫌だった。ましてや、「S組」の「番長」の「浅倉明音」などと囁かれると顔から火が出るくらい恥ずかしい。いったいどこのヤンキーだ? 確かに夏休みに校則破りの茶髪にして化粧を施し、華美な格好で「おしゃれ番長」を気どったこともあったが、ただの思春期症候群の一種だと明音は思っている。
「お弁当、一緒に食べても良い?」
「良いよ」明音に異論はなかった。
新学期が始まって二週間、明音は教室でひとりで弁当を食べていた。食堂で学食を食べることもあったが基本的には朝自分で弁当を用意する。弟妹たちが午後三時頃に帰ってくるからちょっとした軽食も朝のうちに用意しておく。それが明音の日課だった。自分の弁当はついでの産物だった。
守崎は自分の席から弁当を持ってやってきた。隣の席は男子生徒だったがいつも学食を食べに行っていて、その後も部活をしているらしく、午後の授業開始直前まで帰ってこなかった。守崎はそれを知っていて隣の席から椅子だけ借りて明音の机にくっつけた。
「守崎さんもひとり、なの?」明音は訊いた。
「前のクラスの子のところまで行って食べたりしていたんだけど、いつまでもそういうわけにもいかないじゃない?」
「どこも居心地は変わらないということね」悟ったように明音は言った。
一年生の時の友人は、それぞれのクラスで友人をつくるものだ。ここで居場所をつくるしかない。
ずっとA組にいて固定した仲間がいた明音は今まで新たに友人をつくる必要に迫られなかった。それが今年はまるで転校してきたような気分を味わうことになった。知っている顔は中等部の頃にA組にいたことがある生徒やかつて所属していた部活の顔馴染みで、それは五人もいなかった。
「いつの間にかグループもできちゃっているし」
教室に残った生徒たちを見ても少なくとも四つのグループがあった。守崎に言われるまで明音はまるで気にしていなかったが、そうしたことを気にする生徒は多いのだろう。
「他のクラスも似たようなものよ。中高一貫生のグループか部活のグループ、そして、ぼっち」
「私だ」明音は自虐的に笑った。
「そんなことないよ、小早川さんはじっとしていても人が集まってくる」
「明音、で良いから、守崎さん」
「じゃあ、私は菜生で」
守崎菜生は社交性があるようだ。昔同じクラスになったこともあったがあまり接点がなかった。「S組」といわれたグループで固まっていては声をかけづらかったのかもしれない。そうしてまずは守崎と行動を共にするようになった。
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