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片倉と楪
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面倒だから明音は授業終了とともに速攻で帰るようにしている。しかし掃除当番やら委員会で残らなければならない日はそうもいかなかった。
その日は掃除当番に当たっていた。少しでも早く帰りたい明音はてきぱきと動き、徐々に他の生徒に指示出しするようになった。生来の仕切り屋のスキルが発動するようになったのだ。
その頃には明音は当初の目立たない女子からすっかり逸脱していて、クラスの裏ボスのような存在になっていた。
「小早川さん」男子生徒の片倉が話しかける。片倉は掃除当番で同じグループだった。「三宅のアプローチは相変わらずかい?」
「デートの誘いってこと?」明音ははっきりと訊いた。
「うん、まあ」片倉は意表をつかれたかのような顔をした。
「あれは挨拶みたいなものなのでしょう? 他の女子にも言っているみたいだし」
「あ、ばれてる。バレるよな、露骨だから。でも本気で誘ってるんだよな」
「それで片倉君は三宅君の後押しをしていると?」
「いやぁ、そういうつもりはないよ」
「手が止まっているよ」明音はモップをせわしなく動かしていた。
「あ、ごめんごめん」片倉は慌てて机を動かした。「でもさ、小早川さん、たまには息抜きした方が良いよ。授業も息つく暇もないくらい手を動かしたり、目を見開いたりしているし。いつ休憩しているのかと思うよ」
「大丈夫、家で寝ているし、私、ショート・スリーパーだから」
家の仕事が多いから勉強は学校でする。それが明音のやり方だった。
授業は目を皿のようにして集中して視聴し、可能な限りその場で暗記する。数学などで教師の教える速度が遅いと感じたら教科書の問題を解いて自習していた。休憩時間は予習の時間だ。昼休みのみ守崎らと昼食をとって話をするのだった。
「でもやっぱり息抜きは必要だと思うんだ。ねえ楪さん」
片倉は同じく掃除当番だった楪真惟に声をかけた。当番は六人。適当に距離をおいて散らばっていたが、たまたま片倉を挟んで明音と楪真惟が話が聞こえる位置にいた。
楪は急に話を振られて動きを止めた。自分が話しかけられたのが予想外だったような顔をしていた。
片倉は高等部入学生でクラスでは社交的で、常に誰かに話しかけている。
一方、楪は中高一貫生で、しかも無口でほとんどしゃべらない女子だった。今も片倉に話しかけられ困った様子だ。
ただ楪は表情の変化に乏しい性質で、自分が当惑していることを周囲に伝えるのが苦手だった。
だから片倉は楪が困っていることも認識できないようだと明音は思った。
「たまにはクラスの仲間で遊びに行こうよ。何も男女二人きりで行くこともない。四、五人のグループとかでさ」
片倉は楪を誘っている、と明音は思った。明音や、あるいはひょっとして三宅もダシにされた可能性があった。
楪は、首筋をすっかりあらわにしたショートカットで丸みのあるボーイッシュな顔に、華奢に見えて胸や腰回りが女性らしく丸みを帯びた体をそなえた、クラスで一、二を争う美少女だった。自分が男だったら楪を狙うだろうと明音が思ったくらいだ。
全く化粧気がなく、身だしなみに無頓着でいて、これほど可愛いのは反則ではないかと明音は思う。ほとんど喋らず、休憩時間も本ばかり読んでいるからひとりぼっちの印象があるが狙っている男子は多いだろう。片倉が楪にアプローチをかけているとしても不思議でない。
「私は毎日忙しいから。楪さんもそうだよね」明音は訊いた。
「う、うん」楪はこっくりと頷いた。
「そうか、残念」
片倉は引き下がった。三宅ほど押しは強くない。それなりの良識があるようだった。
その日の掃除はさっさと済ませて明音は下校した。
その日は掃除当番に当たっていた。少しでも早く帰りたい明音はてきぱきと動き、徐々に他の生徒に指示出しするようになった。生来の仕切り屋のスキルが発動するようになったのだ。
その頃には明音は当初の目立たない女子からすっかり逸脱していて、クラスの裏ボスのような存在になっていた。
「小早川さん」男子生徒の片倉が話しかける。片倉は掃除当番で同じグループだった。「三宅のアプローチは相変わらずかい?」
「デートの誘いってこと?」明音ははっきりと訊いた。
「うん、まあ」片倉は意表をつかれたかのような顔をした。
「あれは挨拶みたいなものなのでしょう? 他の女子にも言っているみたいだし」
「あ、ばれてる。バレるよな、露骨だから。でも本気で誘ってるんだよな」
「それで片倉君は三宅君の後押しをしていると?」
「いやぁ、そういうつもりはないよ」
「手が止まっているよ」明音はモップをせわしなく動かしていた。
「あ、ごめんごめん」片倉は慌てて机を動かした。「でもさ、小早川さん、たまには息抜きした方が良いよ。授業も息つく暇もないくらい手を動かしたり、目を見開いたりしているし。いつ休憩しているのかと思うよ」
「大丈夫、家で寝ているし、私、ショート・スリーパーだから」
家の仕事が多いから勉強は学校でする。それが明音のやり方だった。
授業は目を皿のようにして集中して視聴し、可能な限りその場で暗記する。数学などで教師の教える速度が遅いと感じたら教科書の問題を解いて自習していた。休憩時間は予習の時間だ。昼休みのみ守崎らと昼食をとって話をするのだった。
「でもやっぱり息抜きは必要だと思うんだ。ねえ楪さん」
片倉は同じく掃除当番だった楪真惟に声をかけた。当番は六人。適当に距離をおいて散らばっていたが、たまたま片倉を挟んで明音と楪真惟が話が聞こえる位置にいた。
楪は急に話を振られて動きを止めた。自分が話しかけられたのが予想外だったような顔をしていた。
片倉は高等部入学生でクラスでは社交的で、常に誰かに話しかけている。
一方、楪は中高一貫生で、しかも無口でほとんどしゃべらない女子だった。今も片倉に話しかけられ困った様子だ。
ただ楪は表情の変化に乏しい性質で、自分が当惑していることを周囲に伝えるのが苦手だった。
だから片倉は楪が困っていることも認識できないようだと明音は思った。
「たまにはクラスの仲間で遊びに行こうよ。何も男女二人きりで行くこともない。四、五人のグループとかでさ」
片倉は楪を誘っている、と明音は思った。明音や、あるいはひょっとして三宅もダシにされた可能性があった。
楪は、首筋をすっかりあらわにしたショートカットで丸みのあるボーイッシュな顔に、華奢に見えて胸や腰回りが女性らしく丸みを帯びた体をそなえた、クラスで一、二を争う美少女だった。自分が男だったら楪を狙うだろうと明音が思ったくらいだ。
全く化粧気がなく、身だしなみに無頓着でいて、これほど可愛いのは反則ではないかと明音は思う。ほとんど喋らず、休憩時間も本ばかり読んでいるからひとりぼっちの印象があるが狙っている男子は多いだろう。片倉が楪にアプローチをかけているとしても不思議でない。
「私は毎日忙しいから。楪さんもそうだよね」明音は訊いた。
「う、うん」楪はこっくりと頷いた。
「そうか、残念」
片倉は引き下がった。三宅ほど押しは強くない。それなりの良識があるようだった。
その日の掃除はさっさと済ませて明音は下校した。
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