御堂藤学園二年D組あかね組

hakusuya

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B組の佐田

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 A組だった頃は教室には馴染みの顔ばかりで落ち着いていた。しかしこの新しいクラスはそうではなかった。よそのクラスからも明音に接触してくる輩がいた。
 B組の佐田が「ごめんよー」と教室全体に響くような挨拶をして入ってきた。
「浅倉さん」佐田は明音の姿を目敏く見つけると一直線に寄ってきた。
「今は小早川なんだけど」それしかうまい返しがなかった。
「あ、そうか、では小早川さん、武道部の助っ人やってくれたまえ」
「は?」
「武道部は君の助けを必要としている」
 いくつかツッコミをいれたいことが明音にはできたが、一つずつ潰していくしかない。
「その喋り方、星川君みたい、『くれたまえ』なんて言い方する人、そんなにいない」
「さっき星川と話していたからだな」佐田は頭を掻いた。ほとんど坊主頭に近いくらい刈り込んでいるのはこの学園では佐田くらいだ。
「それと、私は助けることができない」
「いやいや君の運動神経をもってすれば」
「さすがに柔道は勘弁してほしいわ」
「今回は剣道だ」
 元女子校の御堂藤学園に柔道部や剣道部があるはずもなかった。部として成り立たせるためにあらゆる武道を集めて武道部と名乗っているのだ。なお、佐田は柔道と空手をしている。女子の部員は弓道、合気道などで、剣道をしている部員は少なかった。
 昨年明音は剣道の選手の一人として親善試合に出たことがあった。明音は昔剣道を少しかじったことがあったが有段者ではないし、ほとんど試合経験もなかった。付け焼き刃で出ただけだ。それでも運動神経が良いのでそこそこ試合になったのだ。勝てはしなかったが。
「剣道だったら新聞部の天埜先輩は? 確か二段だったはず」
「当然声をかけた。最後の一人が足りないのなら考えるということだ」
「それで何人足りないの?」
「あと四人」
「一人しかいないってことじゃん!」武道部の女子剣道担当が一人しかいないということだ。「大会なの?」
「秀星学院との親善試合だよ。大会なら出なくて良いけど、毎年やってる親善試合までやらないとなると活動実績がなくなる」
「助っ人団は?」
 部活連の非公式組織に「助っ人団」なるものがある。マンガに出てきそうなネーミングだが、試合などでメンバーが足りない時に他の部活から「助っ人」を派遣するというものだった。
「当然相談している。それで浅倉さんの名前が出た」
「小早川ね」
「うん、小早川さん」
「私、母子家庭になってバイトもあるし、弟や妹の面倒をみなけりゃいけないの。だからいつも速攻で帰っている。とても手伝いできないな。ごめん」
「う~ん、そうかあ……」佐田は残念そうな顔をした。いつも元気で明るい佐田には似つかわしくなかった。
「剣道の経験者となると……」明音の頭には何人かの顔が浮かんでいた。高等部入学生のことはあまり知らないが、中高一貫生ならだいたい知っている。剣道の経験者のことも。「イツキには相談した?」
「イツキ?」
東矢泉月とうやいつき。生徒会副会長よ」
「東矢さんが有段者らしいことは聞いた。でも生徒会役員は助っ人の相談がしづらいな」
 確かに、そんなに部員が足りないなら廃部にしたらとか言いそうだ。ただでさえミニ同好会が乱立して部費の割り振りやら活動場所の確保やら大変な事態になっている。あちこちから主張やクレームを受けながら活動している生徒会が簡単に手助けしてくれるとは思えなかった。
「とにかくごめんね、私は役に立てない」明音は素直に頭を下げた。
 相手によっては邪魔者を扱うように手を振るのだが、佐田に断りを入れるのなら丁重な方が良いだろう。
 佐田は「当てがあったら教えて」と言い残して去っていった。
 明音は近くの席についてひたすら本を読んでいる楪真惟ゆずりはまいを見た。佐田との話は聞こえていなかったようだ。おとなしい文学少女であるゆずりはが剣道二段であることを明音は知っていた。
 明音は学園ではど素人を装っているが小学校時代に少しの間剣道の道場に通っていたことがある。そこにいたのが楪だった。あまりに強くて明音は全く歯が立たなかった。それで明音は道場を辞めた。飽き性だったから興味が他に移ったこともあるが。
 楪はその後も剣道を続けて御堂藤学園中等部の頃には二段をとっていた。しかし今は辞めている。何か理由があったのだろうと思うがわからない。ひとにはそれぞれ何かと事情があるものだ。
 佐田の手伝いをしてやるべきだろうか。佐田は人懐こくて、空気が読めないところもあって、あちこち介入して嫌がられていたが悪い男ではない。むしろ裏表がない「良いヤツ」なのだ。
 それがわかっているから協力してやりたい気持ちもあったが、今の明音にはとてもその余裕がなかった。
 弟妹の面倒を見ながらバイトをして、しかも授業料減免措置を受けるために学業は学年二十位以内を維持しなければならなかった。他人のために動くなどもっての他だ。
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