御堂藤学園二年D組あかね組

hakusuya

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東矢泉月

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 翌日、バイトはなかったが明音はいつものように速攻で下校した。バイトの無い日の夕食は少しでも手間をかけて弟妹に食べさせたいと思うからだ。買い物をして帰ろうと明音は考えていた。
 学園の最寄り駅には十分かからずに着いた。放課後のショートホームルームを終えてすぐに下校したので御堂藤学園の生徒の姿はまだ少なかった。あと十分もすれば駅に御堂藤学園のセーラー服が溢れることだろう。原則として寄り道を禁止しているから部活のない生徒はまっすぐに駅へと向かうからだ。
 三時半にもなっていないから生徒は少なかった。しかし明音は改札口を通る際に見知った女子生徒を見つけた。
 黒髪ストレートのロングヘア、膝丈濃紺のセーラー服、黒タイツに包まれた細い脚。彼女がいる場所だけ神々しさを放つ異空間のようだ。二年A組、生徒会役員の東矢泉月とうやいつきだった。
 明音は後を追い、改札を通ったところで東矢に声をかけた。
「泉月」
 東矢が明音を振り返った。さらさらの黒髪が少し揺らいだ。切れ長の目が明音の顔をとらえた。
、……小早川さん」浅倉さんと言いかけて、言い直した。
「久しぶり、珍しいね、こんなに早いの」明音は穏やかに話しかけた。
「家の用事で急いで帰るの」
「そうなんだ、私も」明音は微笑んだ。
 そのまま二人揃ってホームへ降りた。
「て言うか」明音は思い出したかのように言った。「電車で一緒になった記憶がないのだけれど。自家用車で送迎されていたイメージがある」
 東矢泉月は学園に多額の寄付をしている学校法人理事一族の令嬢だった。確か両親とも亡くなっていて、叔父の家に住んでいたと明音は記憶している。理事は義理の叔母だったはずだ。
「春休みに叔母のところを出たのよ」東矢はいつも通りの無表情で言った。「今は一族同胞でルームシェアをしているの。今日は夕食当番に当たっていて、それで急いで帰っているのよ」
「へえ」明音はわずかに笑みを浮かべた。「泉月って、料理とかするんだ。何か、想像できない。家庭科の実習でも、まわりがフォローしていた気がする」
 中等部時代の記憶だ。世話好きのクラスメイトがたくさんいて、泉月に怪我をさせないよう動いていた。
「私も食事の用意くらいするわよ」
「食事の用意、ね」
 明音は目を細めた。ほとんど表情に変化はないが東矢が口を尖らせたように見えたからだ。長年の付き合いでそれはわかる。「料理」ではなく、「食事の用意」というところに明音は共感した。
 二人で会話する時、よく喋るのは明音の方だ。明音が話を振り、東矢が答えるのが常だった。
 電車がホームに到着し、二人は乗った。並んで坐るところが近くに見当たらなかったので、扉近くに立つことになった。言葉少な目に会話はする。
 身も知らぬ乗客の視線を明音は感じていた。
 一人でいるときも明音は視線を感じることがあるが、東矢泉月といるとその比ではないことがわかった。神々しいまでの美少女。沿線で評判になっているのではないかと明音は思った。
「そうそう、話があったんだ」明音は用件を思い出した。「秀星学院との剣道親善試合、メンツが足りていないみたいなの。泉月、助っ人頼めないかしら?」
「部員も足りていないのに部活を存続させるのはどうかと思う」
「そう言うと思ったよ。でも多種多様な活動を尊重するのが、わが校の校風だったはず。マイナーで活動部員が少なかったとしても、少数の活動欲求を満たすことも意義あるのではない?」
「あなたは助けてあげるの?」
「私は家の事情で毎日早く帰らなければならない身だから残念なことに手助けできない」
「私が暇に見えるのね?」
「いや、そんな風に聞こえたのならごめん。剣道だから私よりも泉月の方が良いと思ったんだ」
「いつなのかしら?」
 予想外な反応に明音は一瞬言葉がでなかったが、六月の日曜日の日付を教えた。
「道具一式はあるのかしら? 私は竹刀一本すら持っていないのだけれど」
「あるよ、去年私も借りたし。ちゃんとクリーニングしておくよう言っておく」
「わかったわ。どうしてもメンバーが足りないときは出ても良いけれど、勝ちを期待されると困るわ。秀星学院には私の従妹が通っている。もし彼女が出てきたら絶対に勝てないでしょうね」
「それは、すごいね……」明音は東矢に気圧された。「でも勝ち負けよりも試合ができることが大事みたいだったよ」
「活動実績のためならそれで良いということでしょう。そういうのが活動実績だなんて笑止だけれど」
「相変わらず痛烈だね、泉月らしいよ。でもありがとう。佐田君には言っておくね」
 二人は十分もたたないうちに同じ駅で降りた。
「同じ駅だったとはね。ひと月近くも通学して、今日初めて知ったわ」明音は言った。
「下校時間が違うから」東矢が言った。
 東矢は生徒会活動で帰宅は遅いようだ。おそらくはリミットの六時半ぎりぎりまで校内に残っているのではないかと明音は思った。
「私は買い物をして帰るから」明音は言って東矢と別れた。
 どこに住んでいるのか、遊びに行っても良いかと訊きたい気もしたが、今日でなくても良いだろう。明音は近所のスーパーへ向かった。
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