御堂藤学園二年D組あかね組

hakusuya

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一桁ランカーと球技大会

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 五月中旬の中間試験が終わった。第一校舎一階に成績優秀者が貼り出された。三百名中五十名の名が掲示されるのが恒例だった。上位ほど名前の字が大きく、さながら相撲の番付表のようだ。
 明音は七位だった。どうにか十位以内に入った。もとから一桁ランカーだったから二十位にも入らないとバイトをやめなければならない。成績が落ちないことがバイト継続許可の要件だったのでほっと一安心といったところだ。
 一位はH組の星川漣ほしかわれんだった。二位はA組東矢泉月とうやいつき。一年生の二学期期末試験から数えて三回続けて星川が東矢を抑えて一位になった。それが大きな波紋を呼んでいる。
 中等部の一年生の頃から四年続けて年間総合順位一位をとっていた東矢がその座を星川に渡すのではないか。それはとりもなおさず女子が男子に、中高一貫生が高等部進学生に首位を明け渡す象徴的な出来事になっていた。
 明音はただ単に星川が規格外に成績優秀だと思っていたが、他の生徒たちはそうでもないらしい。何か学園に変革の嵐がふきあれているように言うものもいた。それはあくまでも学園掲示板の前での話。D組の教室に入ってみると風向きは変わっていた。
「さすがは明音、D組唯一の一桁ランカー」守崎が絶賛した。
「腐っても鯛みたいな言い方に聞こえるわ」
「そんなことない。尊敬する」守崎は笑った。
 はじめから守崎は明音がそのくらいの成績をとると思っていたようだ。だから笑い飛ばしている。しかしクラスメイトたちの反応は若干違った。「小早川明音こばやかわあかね」がそこまでできるヤツとは思っていなかった。昨年まで十位以内が当たり前だった「浅倉明音」と同一人物と知らない者さえいたようだ。
「小早川さん、すごいよ」三宅が早速からんできた。「期末はオレに勉強教えてよ」
デートの誘い文句がそのように変わったのだった。
「勉強会のグループはこれで決まりだな」片倉がゆずりはこみの五人組で勉強会を組もうと画策し始めた。
「私は忙しいので」明音は断るのにまたしても難儀することとなった。
 ちなみに守崎と楪は五十位以内に入っていて、勉強会が必要なのは三宅と片倉のようだ。とはいっても本当に勉強会になり得るのか明音は疑問視していた。
 実際、わずか一日でクラスの空気は球技大会へと移っていた。居残り練習したくない明音は、とりあえずフットサルの方に登録したものの、メンバーがやる気無しでいてくれることを願った。A組にいた頃とは大違いだ。
 あの頃は中心になって参加していた。「番長」と呼ばれていたことに懐かしさすら覚える。
 ホームルームの際に球技大会のことも話し合われた。
 D組はガチで優勝を狙う生徒はいなかったが、かといってはじめから手を抜くクラスでもなかった。とりあえず、予選の二試合のうちにすべての生徒が三分以上試合に出なければならないので、五人組のチーム分けがなされた。クラスは三十八名。フットサルとバスケットに半数ずつ分かれて二十名足らずとなる。それを五人組四つに分ければ二試合の前後半に一度ずつ出ることができるのだ。
 フットサルもバスケットも七分ハーフだったから展開によっては三分経過した時点で有能な生徒が交代で出ることも考えられた。明音はその一人になるつもりはなかったが。
 何にせよ五人組を作ることになったのだが、どういうわけか明音、守崎、楪、三宅、片倉の五人組ができてしまった。守崎、楪と一緒になるつもりはあったが、なぜ三宅と片倉がいる?  明音は三宅と片倉を甘く見ていた。彼ら二人はおとなしい男子生徒たちの中にあって抜群の発言力を要していた。
「三分たったらオレらが交代要員になるぜ」と言い出し、それがこの五人になることをクラス全員に容認させる結果に繋がったのだ。
「いや、私、余分に出るつもりはないから」
 明音は言ったが、こういう時に限って明音の一言は無視される。楪は何も言えずにいたし、守崎は呆れを通り越してむしろ楽しんでいる様子すらあった。
 球技大会までの体育の授業は球技大会の練習にあてられたため、男女合同になり五人で一緒にいることが増えた。 
 三宅と片倉は放課後の練習まで提案してきたが、急いで帰る必要がある明音は固持し、守崎と楪はそれに倣った。
 しかし体を動かすことに抵抗はない。むしろ好きなのだ。それは守崎も同じようで、楪もまたボールを蹴り始めると人が変わったように俊敏に動いた。そしてこの五人組がD組で最も強いチームになっていた。D組内ではもはや敵無し。合同授業の相手方C組にも匹敵するチームはなかった。
 明音が気になっていた東雲桂羅しののめかつらはバスケットのチームにいるようだ。
「残念ね」つい洩らしていて明音はハッとした。ここまで真剣になるつもりはなかったからだ。
「これは結構いいとこまで行けんじゃね」三宅が言った。彼はフィクソいわゆるディフェンダーだった。
 男子のシュートは得点に計算しないという謎ルールがあったため、一チーム同時に二人までしか出られない男子はフィクソ(ディフェンダー)とゴレイロ(キーパー)を担当している。片倉がゴレイロだ。その片倉が言った。
「指示が出しやすいように名前呼びで良いかな? アカネ、ナオ、マイで」
「なんか、最後の『マイ』に気持ちが入っているような」明音は片眉をつり上げ横目で見た。これを機会に楪のことを「真惟まい」と呼ぶつもりらしい。
「ソンナコトナイヨ」片倉がそっぽを向いた。
 わかりやすい奴らだと明音は思った。
 それでも一度だけだったが明音は放課後の練習に付き合った。バイトのシフトがなく、弟妹たちはふーちゃん家で夕食をご馳走になる日だった。武道部の剣道練習も一時的に休みとなっていたから楪も参加できた。
 放課後のフットサルコートには他のクラス、一年生のクラスもいて、交代でゲーム形式の練習をした。手の内を見せたくないクラスは主力を温存したり、姿を見せなかったりしたかもしれないが、明音のクラスは気にしなかった。なるようになる。明音の心情がクラスに反映されていた。
 そして同じタイプのクラスが他にもいたことを明音たちは知った。
 二年H組。星川漣ほしかわれん香月星かづきせいがいるクラスは「星組」と言われていた。その主力メンバーは生徒会書記で先日の中間試験一位の星川に強面の鮫島さめじまの男子二人。そこに香月星を中心とする運動神経抜群の女子三人が加わっていて、明音たちのチームと拮抗していた。いやむしろ星川・鮫島の鉄壁守備がある分、H組の方が上手うわてだと明音は思った。
「これは強敵ね」守崎が言った。
「こわい……」楪が鮫島の目を嫌がり明音の背中に隠れた。
「ボクがいるから大丈夫」
 片倉が言ったが、男子同士マッチアップするケースはほとんどない。男子は守備専門なのだ。
「鮫島君は根は優しいからとって食ったりしないよ」星川が高らかに笑う。星川はしっかり明音たちのエリアまで来てお喋りしていった。
 十分ほど練習ゲームをしたが明音たちは一点もとれなかった。相手も一点しかとれなかったが。
「ゴレイロ星川が鉄壁な上にフィクソ鮫島が睨みを効かせているしな」三宅が珍しく分析口調を披露した。
「あそこと当たらないことを祈ろう。当たったらその時はその時。第一、予選リーグも突破できるかわからないし」明音は言った。
 むしろ予選リーグの方が運動苦手な生徒も全員が最低三分出場するルールだったから何が起こるかわからなかった。
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