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Ⅰ神に支配された国
1誰も神を見ていない
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僕は全世界を旅して回る多分ただの旅人。風の導くままに世界中を駆け回り、最後にはきっと僕の追い求めている物があると信じてきた。
ある時に魔法の王国を訪れ、時には海上都市も訪れた。しかしどこも僕の答えに辿り着くような物は見られなかった。そして今回訪れた国は神によって支配されたと噂の謎多き国だった。
「隻眼龍」この国の神の名である。しかし、この国は他の国との交流が一切無い為、国というものに名前が無い。
死火山となった大きな山のカルデラに、真ん中の湖を囲うように集落が並ぶ。湖の真ん中の神殿には隻眼龍の大きな像が飾られ、人々はそこにお供え物をして神にお祈りするらしい。ここまで聞いただけでは何も不思議な物は無い。でも僕はこの国を訪れてこの国の実態を知ることになった。
そんな神を祭る国に訪れた時のこと。急に冷たい視線を感じたと思うと後ろから声がした。
「この国に訪れる人がいるなんて、何日ぶりかしらねえ」
後ろを振り返るとただのおばさんだった。
「あ、こんにちは、ただの旅人です」
一旦心を落ち着かせ、笑顔でおばさんにお辞儀した。
「もうここ数日は誰も足を運んでくれてなくてねえ、ここの外じゃ評判も悪いのかねえ?」
腰を曲げ、ゆっくりした足取りでこちらに近づいてくる。
「えっと、それはわからないんですけど……以前ここを訪れた人っていつぐらいに来たんですか?」
「そりゃあ一ヶ月前ぐらいかなぁ……」
そう言って空を見上げ考えこむと、何かに気づいた様に後ろを振り返ると、近くを通りかかった近所のおばさんらしき人に声を張り上げ尋ねた。
「ちょっと芝さん!ここへ前来た人っていつ頃だったかなぁ?」
そのおばさんは足を止めて答えてくた。
「あー、一ヶ月ぐらい前だねえ」
そう言い終わると、忙しそうに家に戻っていった。
「まあ、そういうことやけど」
こちらを振り向き直して、記憶が曖昧なのか自信なさげに言った。
「おかしいですねえ、僕はここに来る前にこの国の情報をかき集めようとしましたが、外交活動を一切していないようですし、調査に行った人も一人としていない。記録は一切残されていませんでしたが……本当にここに人は訪れたのですか?」
本当におかしな話だ。この国の謎は誰も訪れたことがないこと。もう建国して五百年になるが、誰も足を踏み入れようとしなかったことだ。だからこの国にも好奇心でやって来たわけなのだが……
「いやあー。でも、一年に百人は来てますよ?少し前ですが、隣の国のお役人さんだって来てましたし……」
「おかしいですねえ、僕の情報ですとそんなに人が訪れているとは思えませんけど」
「まあ何かの手違いじゃろう。せっかく来たんじゃ、龍の神殿を見ていきなさい」
そう言って自ら会話を終了させると近くの家の方にゆっくりと近づいて行って、玄関から家の中に向かって叫んだ。
「おい駿斗や!この人を神殿までお連れしなさい」
するとこちらを見て言った。
「もうじき私の息子が来るからな。そしたら案内してもらっておくれ、私は家事に戻るとするから」
「はい、分かりました」
おばさんは腰を曲げながら家の裏手に消えていってしまった。その後ろ姿を見送ると、先程の会話からこの国の事が気になって来た。立地がいいとはいえ、他国に攻め入られる可能性が無いとは言えない。なのに門番を設けないどころか、門をくぐったら目の前には集落が広がっている。集落も他国との交流が無い為、他とは違った家の造りの木造建築だった。瓦の屋根の上にはどこの家にもそれぞれ違った龍の像が置かれている。他にも、この国には政治的な機関が無いらしい。果たしてここは国と言えるのだろうか……
「おまたせしました!」
そう言って出てきたのは十代前半の子供だった。さっきのおばさんの子供にしては若すぎる。
「君は……?」
「高駿斗です!神殿までご案内します!」
「ああ、お願いします。ていうか、君はあのおばさんの子供なの?」
「うん、そうだよ」
まさかと思っていた返事が帰って来るので返答に戸惑った。そして僕は辺りを見回しながら駿斗に尋ねた。
「神様って、隻眼龍って言われ祭られるくらいだから大きいの?」
「うーん……見たことないからわかんないけど。石像は大きいよ」
駿斗は歩き出しながら答えて、僕もその後に続く。
「見たことないの?自分たちがいつも崇めているのに?」
神を崇める国は今まで見たことがあるが、神の実物を見たことがないのに神を崇める国は見たことが無かった。
実物を見たことが無いのにその存在は確かなものだと信じ込んでいるのか……?
「本当に神はいるの?」
「いるよきっと!」
駿斗は足を止めてこちらをぐるっと振り向いて、自信ありげに僕の目を見つめて言った。
「見たことも無いのに?」
「う、うん……」
今度は自信なさげにうなずくとまた歩き出した。
そして僕は考えた。この国は何かがおかしい。それが何なのかはわからないが、他の国とは少し違っている。もう一度辺りを観察しながら駿斗の後ろを着いていく。ここら一体は国民の住む集落で、もうお昼を回って少し暑いぐらいなのに、汗を拭う暇も無いほどに皆時間を忘れたように熱心に仕事をやっていた。この光景に僕はまた違和感を覚えた。
ある時に魔法の王国を訪れ、時には海上都市も訪れた。しかしどこも僕の答えに辿り着くような物は見られなかった。そして今回訪れた国は神によって支配されたと噂の謎多き国だった。
「隻眼龍」この国の神の名である。しかし、この国は他の国との交流が一切無い為、国というものに名前が無い。
死火山となった大きな山のカルデラに、真ん中の湖を囲うように集落が並ぶ。湖の真ん中の神殿には隻眼龍の大きな像が飾られ、人々はそこにお供え物をして神にお祈りするらしい。ここまで聞いただけでは何も不思議な物は無い。でも僕はこの国を訪れてこの国の実態を知ることになった。
そんな神を祭る国に訪れた時のこと。急に冷たい視線を感じたと思うと後ろから声がした。
「この国に訪れる人がいるなんて、何日ぶりかしらねえ」
後ろを振り返るとただのおばさんだった。
「あ、こんにちは、ただの旅人です」
一旦心を落ち着かせ、笑顔でおばさんにお辞儀した。
「もうここ数日は誰も足を運んでくれてなくてねえ、ここの外じゃ評判も悪いのかねえ?」
腰を曲げ、ゆっくりした足取りでこちらに近づいてくる。
「えっと、それはわからないんですけど……以前ここを訪れた人っていつぐらいに来たんですか?」
「そりゃあ一ヶ月前ぐらいかなぁ……」
そう言って空を見上げ考えこむと、何かに気づいた様に後ろを振り返ると、近くを通りかかった近所のおばさんらしき人に声を張り上げ尋ねた。
「ちょっと芝さん!ここへ前来た人っていつ頃だったかなぁ?」
そのおばさんは足を止めて答えてくた。
「あー、一ヶ月ぐらい前だねえ」
そう言い終わると、忙しそうに家に戻っていった。
「まあ、そういうことやけど」
こちらを振り向き直して、記憶が曖昧なのか自信なさげに言った。
「おかしいですねえ、僕はここに来る前にこの国の情報をかき集めようとしましたが、外交活動を一切していないようですし、調査に行った人も一人としていない。記録は一切残されていませんでしたが……本当にここに人は訪れたのですか?」
本当におかしな話だ。この国の謎は誰も訪れたことがないこと。もう建国して五百年になるが、誰も足を踏み入れようとしなかったことだ。だからこの国にも好奇心でやって来たわけなのだが……
「いやあー。でも、一年に百人は来てますよ?少し前ですが、隣の国のお役人さんだって来てましたし……」
「おかしいですねえ、僕の情報ですとそんなに人が訪れているとは思えませんけど」
「まあ何かの手違いじゃろう。せっかく来たんじゃ、龍の神殿を見ていきなさい」
そう言って自ら会話を終了させると近くの家の方にゆっくりと近づいて行って、玄関から家の中に向かって叫んだ。
「おい駿斗や!この人を神殿までお連れしなさい」
するとこちらを見て言った。
「もうじき私の息子が来るからな。そしたら案内してもらっておくれ、私は家事に戻るとするから」
「はい、分かりました」
おばさんは腰を曲げながら家の裏手に消えていってしまった。その後ろ姿を見送ると、先程の会話からこの国の事が気になって来た。立地がいいとはいえ、他国に攻め入られる可能性が無いとは言えない。なのに門番を設けないどころか、門をくぐったら目の前には集落が広がっている。集落も他国との交流が無い為、他とは違った家の造りの木造建築だった。瓦の屋根の上にはどこの家にもそれぞれ違った龍の像が置かれている。他にも、この国には政治的な機関が無いらしい。果たしてここは国と言えるのだろうか……
「おまたせしました!」
そう言って出てきたのは十代前半の子供だった。さっきのおばさんの子供にしては若すぎる。
「君は……?」
「高駿斗です!神殿までご案内します!」
「ああ、お願いします。ていうか、君はあのおばさんの子供なの?」
「うん、そうだよ」
まさかと思っていた返事が帰って来るので返答に戸惑った。そして僕は辺りを見回しながら駿斗に尋ねた。
「神様って、隻眼龍って言われ祭られるくらいだから大きいの?」
「うーん……見たことないからわかんないけど。石像は大きいよ」
駿斗は歩き出しながら答えて、僕もその後に続く。
「見たことないの?自分たちがいつも崇めているのに?」
神を崇める国は今まで見たことがあるが、神の実物を見たことがないのに神を崇める国は見たことが無かった。
実物を見たことが無いのにその存在は確かなものだと信じ込んでいるのか……?
「本当に神はいるの?」
「いるよきっと!」
駿斗は足を止めてこちらをぐるっと振り向いて、自信ありげに僕の目を見つめて言った。
「見たことも無いのに?」
「う、うん……」
今度は自信なさげにうなずくとまた歩き出した。
そして僕は考えた。この国は何かがおかしい。それが何なのかはわからないが、他の国とは少し違っている。もう一度辺りを観察しながら駿斗の後ろを着いていく。ここら一体は国民の住む集落で、もうお昼を回って少し暑いぐらいなのに、汗を拭う暇も無いほどに皆時間を忘れたように熱心に仕事をやっていた。この光景に僕はまた違和感を覚えた。
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