ミステリーはファンタジーの中に

裕雨(ゆう)

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Ⅰ神に支配された国

2神は一体?

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「駿斗くん?こっちは湖と逆の方向じゃないかい?」

 湖は集落の真ん中にあるのに、集落外へ外へと向かっている。明らかに何かおかしい。

「まあいいから着いてきてください」

 仕方なく僕は言われるがまま少年の後を着いていくことにした。
 民家の間を縫うように進み、どんどん中心から遠ざかっている。そしてついには森の中に入ろうとしていた。

「本当に大丈夫なの?」

「大丈夫です。少しよって行くだけです」



「ここです!」

 そう言って到着した先は、集落から遠く離れた森の中。目の前に在るのは所々瓦が剥がれ、柱にはツタが巻き付いた一軒のボロボロの家があるだけだった。

「到着しました!」

 駿斗は家の前まで来て大声で叫んだ。

「あの……湖は?」

 ほそぼそとした声で駿斗に問いかけた時だった。家の引き戸が開いたと思うと、一人の老人が家から出てきた。

「よく来なさった少年」

 低くしわがれた声に鋭い目つきが僕の体を震わせる。

「わしは貴方と話がしたい。どうぞ上がっておくれ」

 そう言うとクマの様にのっそりと家の中に入って行ってしまった。
 急な出来事に僕は沈黙してしまった。

「おい!何ぼーっとしてんだよ!行くぞ」

「なんか危険な匂いがするけど大丈夫?」

「大丈夫だ。というかこの国で信用できるのはじっちゃんしかいないよ」

 駿斗は真面目な顔で僕をじっと見つめて言った。
 その目には嘘偽りは微塵も感じられなかった。

「仕方ないなあ、じゃあ行きますよ」

 ため息交じりに返事をして僕は家の中に入った。

 家の中は外見と違いとても綺麗だった。壁には小さな絵画が飾られ、本棚には所々に木彫りの動物の飾りが飾られている。床には綺麗な模様の座布団が敷いてあり、僕と駿斗老人の前に座った。するとほっとしたように老人の方の口が開いた。

「どこからいらしたのじゃ?」

 先程と同じ嗄れた声だがどこか優しさを感じる。

「隣の国メロイですが」

「メロイか……この前に来た人もメロイからだったなあ……」

 少し寂しげに俯いているのが僕の心を揺すぶった。

「あの、何かあったんですか?」

「信じてくれるかは分からんが、すぐにここを立ち去ったほうがいい。この国はただの国ではない。そう言って立ち去った者は居なかったがな……」

 鋭い目つきで僕を見つめるその顔には焦りと深刻さが感じ取られた。

「それはどういうことですか?」

 僕が問いかけると老人は唾を飲み込んでゆっくり言った。

「単刀直入に言うぞ。この国の人間は神によって操られておる。そして観光に訪れた人々はは神によって食われている」

「え?それってどういう……」

「この国の不思議に気づいておるじゃろう。この国は五百年どこの国とも関わってない。それは神が強制的に行使した力によるもの、神はこの国の住民が他国と関わるのを嫌っておられる。そしてここへ来た人間は必ず神に食われる」

 怪談話をしているのかと、そう思えて来る雰囲気で僕は老人が何を言ってるのかが分からなかった。

「つまりどういうことですか?」

「つまりじゃ、神殿には近づいてはならん。ここへ来た者は何らかの方法で神殿に呼ばれ、その後行方不明となっておる」

「まあ、確かに。ここへ来た旅人が居るのは国民の証言から確かでしょう。そして元に帰って来た記録がないとなると……それでも神が外交を強制的に禁止するなんてそんなこと……」

「神じゃからな、そして強制されているという意識は国民にはない。わしとその子以外は」

 僕は隣に座って水を飲んでいる駿斗を一瞬だけ見て言った。

「何らかの力が働いているとして、何であなた達だけ?」


「この国では一年に一回だけお祭りを神殿で行う、その時に神が人々の脳に魔法をかけ、無意識の内に外界へ赴くことを制限したんじゃ。わしがそれにかかって無いのはそのお祭りに参加していないからじゃ。その魔法の効果は一年程で切れてしまう。だからはわしはここで確かな自我を持てておる。そしてそこの子は迷子の子だ。この国に迷いこんで来たのをわしが密かに引き取った」

 長い話の末に整理がつかなかったが、なんとなくこの国の不思議が分かった気がする。

「なるほど、なら国民にお祭りへの参加を止めさせればいいんじゃあ?」

「それはできない。この国の人間は神が第一に。そう云うふうに洗脳されてしまっている。ここまで来るときに見ただろう。狂った様に仕事をする国民を。彼らは殆ど感情が無い。仕事をして飯を食って寝る。たったそれだけじゃ。そして何よりわしとこの子はここにいるはずでない人なんじゃ」

「え?いるはずでないってどういうことですか?」

「基本的に国民は祭り参加が絶対。わしが参加しなかったのは崖からおちて死んだ事にされておったからじゃ。わしは山へ木を切りに行った時に足を踏み外して谷に落ちた。だが何故か偶然助かっていた。多分そこでわしは死んだ事にされておった。じゃが、死にものぐるいで帰った時は祭りの最中でな、わしは陰から見てしまったんじゃ、神が魔法を行使するところを」

 老人は目を閉じて過去を振り返っていた。

「なるほど。でもその子は?普通に家から出てきましたけど……」

「その子は駿斗ではない。公輝じゃ」

「えっ?っと」

「駿斗はまだ別におる。今頃お前が消えたと騒いでおるじゃろう。この子は門に一番近い家に忍ばせておったんじゃ」

 僕は少年の方にぐるっと首を回転させると、少年は嬉しそうに顔をにこっとさせていた。

「え、でも結構危ないですよね?」

「勿論じゃ、だがこの子は忍びの家の子でな、そう簡単に見つかることはない」

 僕は情報量の多さに頭を抱えて考え込んだ。
 この国の住民は神によって洗脳されている。そしてここへ来た旅人は神殿に連れて行かれ、神に食べられる。恐らく僕もこの子でなく、本物の駿斗に連れて行かれていたら神に食べられていたのか……。そして僕が素直に立ち去ったあとも、この悪循環は続くだろう。

「この洗脳を完全に解く方法ってあるんでしょうか?」

 僕はコップを持ち上げ、一口水を飲んだ。

「あるにはある」

 老人は頷いて言った。

「それって……?」

「なあに簡単な話じゃ、神を殺せばいい」




 

 
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