10 / 19
10
しおりを挟む言い表すのも難しいし、めんどくさく思ったが、シルヴァンには伝わらない事でもこのアンジェルという女性ならば少しは分かってもらえる可能性がある気がして面倒だと考えるのをやめて少し真剣に話した。
「意味なんかない。好きでやっているだけだから」
「……そういうのも好きなのか? 男なのに? ラベーン王国では男オメガは忌避されるというだろうそれを緩和するための策ではなくか?」
「うん。……シルヴァンにも言ったけれど。んっ、ん゛……俺は俺だし、性別は確かに男でオメガだけどドレスがしっくりくる」
地声に戻すとアンジェルはぽかんとして、それから驚きを振り払うように頭を振る。それから「しっくりくる、か」とグレースの言った言葉を復唱した。
「アンジェル様も女性だけど、男のような口調と服をしている。アルファだってこともあるかもしれないけど、それにいちいち意味を他人から求められたりしないんじゃない?」
「……そうだな。言いたいことはわかる」
アンジェルの事も口に出して言ってみると、彼女はうんと頷いてからやはり少し何と言っていいのか迷ったように眉間にしわを寄せて、グレースを見た。
「ただ、シルヴァンにとって男と女というのはとても意味を持っている、という話だ! こんな風に自由な発想を持っているグレースにはわからないかもしれないが、それらしく振る舞うことにもとても意味を見出している……とでも言えばいいのか? 駄目だ、もともと私はそんなに説明が得意じゃない!」
「……」
「ええとつまり、このベクレル公爵家は代々女系でな! 男のシルヴァンは色々面倒だったんだ!そういうわけだがわかるか?!」
……女系……。
アンジェルは投げ出すようにそういって、テーブルに頬杖を突いた。今まで聞いたことのない情報だったが、それを聞いて一つ疑問に思った。
「女系なら、どうしてアンジェル様が後継ぎではないの?」
「……弟をわざわざ不遇の立場に追い詰める姉がどこにいる!」
「なるほど」
その言葉だけで理解するには十分だった。男アルファは嫁とり、婿取りには優位な性別だが、爵位を持たずに爵位継承権者のところに婿に入ることはとても難しい。
なんせ相手になるオメガは爵位継承権を持っていることがまったくと言っていいほどない。ヒートに入ると何もできなくなる者が領主としての仕事を満足にこなせるとは認められない。
そういったわけで、男オメガよりも、アルファの子供を宿すことができる女アルファの方が嫁に行ける可能性が高いのだ。だから弟に譲った。家族を愛しているがゆえの選択だったのだろう。
「……」
それに、アンジェルがグレースに言いたいこともおおむね理解ができた。シルヴァンがグレースの事を嫌うような理由になっているのだということも分かる。
……つまりは俺とシルヴァンは同じで、でも真逆ってことか。
「それで母上があれだからな、極端にシルヴァンは女オメガを嫌ってるんだ」
アンジェルは結論のようにそういった。母上という言葉が気になって聞いてみたくなったがアンジェルがグレースをまじまじと見るのでその視線にグレースは首をかしげる。
「……私も、とてもじゃないが母上のような女オメガをもらう気にはなれないし、自分もまったく女性らしい子に興味もないと思ってたんだが……」
「なに?」
「……」
グレースが聞いてもアンジェルは無言を返した。それから顔をしかめて鬼のような形相をする。
「それに、シルヴァンに悪いしな。私がそんな子をもらったら肩身が狭いだろ?」
そう言い訳をするようにアンジェルは言う。
どうやらその顔は思い悩んでいる顔だったらしく、言った後は少ししょんぼりとしていた。それをみてグレースは彼女はシルヴァンと似ていないなと感想のように思った。
アンジェルはまっすぐで、はっきりものを言ってあまり面倒なことを考えなさそうだ。その分勘違いもあるようだが、それは話し合えばすぐに解決する。
表情も豊かで分かりやすい。それはグレースも好ましく思う人柄で、シルヴァンと比べるとどうしても差が明確になる。
シルヴァンは常に薄ら笑いを浮かべていて、考えていることもわからないし、自分の考えをはっきり言わない。
そこが鈍感なグレースとは相性が悪い所だが、だからと言ってそれだけで、彼女が番になってくれればよかったとかそういう面倒なことは考えない。
それに、シルヴァンには、グレースだから言えることもあるのかもしれないとふと思った。
それを言うかどうかはいつかの自分にまかせて今は目の前にいるアンジェルと向き合う。
「そうか? 誰かを気遣って何かをしないよりも、やりたいようにやって落としどころを探す方が、楽じゃない」
グレースはそういってまた紅茶を口にする。他人をいたわって自分のやりたいことをやらないと、いつかその気持ちがその人の為からその人のせいになるだと思う。
しかし、それがすべての場合に当てはまるわけではない。だから抽象的に口にした。グレースの言葉を聞いてまたアンジェルは思い悩んだ鬼のように怖い顔のままぽつりと口にする。
「お前、本当に可愛いな」
「……」
「弟の番じゃなければ略奪愛をしてたかもしれない」
……。
心底真面目にアンジェルはそういって、確かにアルファとオメガなのだからそういうことだって出来なくないけれど、それにしても。
「っ、ふふふっ、ははっ」
本当に素直な言葉に、シルヴァンとはまったくにていない彼女が面白く思ってしまう。こんなにアルファの中でも上位らしい雰囲気を纏っているのに、こんなに純朴なことを言われると不思議でならなかった。
「なんだせっかく褒めたのに笑うな! 私だってシルヴァンが身を固めたし、すぐにいいオメガを貰ってくるんだから見ておけよ!」
「うん。ははっ……楽しみにしてる、そういえばアンジェル様は……」
それからアンジェルとグレースはお互いの事や恋愛観などを話して打ち解けることが出来た。
この時点で番のシルヴァンより仲が良くなってしまっていたのが少し罪悪感があったけれど、グレースは彼が言ったように、彼以外とは番になれない。
普通の夫婦であれば略奪愛もたしかに幸せになれる道筋はある。しかしアルファとオメガの番ではそれは無いに等しい。
番うというのは一生の相手を決めるという事だ。それは大いにオメガの側に影響を及ぼす。項を噛まれた後しばらく体がだるかったのは体が作り替わっているせいだ。
番のアルファだけを喜ぶ体になる。だから略奪愛をたとえされたりしたのだとしても、オメガには一生満たされない苦しみがついて回る。だから番ってしまったグレースにはタラレバなどない。
どんなにシルヴァンに冷遇されようとも彼以外では満た、それ以上につらいのではないだろうか、そんなことを心の隅っこの方で思い悩んだり…………しなかった。ただおしゃべりが割と楽しかったのであった。
42
あなたにおすすめの小説
身代わりの出来損ない令息ですが冷酷無比な次期公爵閣下に「離さない」と極上の愛で溶かされています~今更戻ってこいと言われてももう遅いです〜
たら昆布
BL
冷酷無比な死神公爵 × 虐げられた身代わり令息
逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。初夜で抱かれたら身代わりがばれてしまいます💦
雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
逃げた弟の身代わりとなり、
隣国の国王である溺愛アルファに嫁いだオメガ。
しかし実は、我儘で結婚から逃げ出した双子の弟の身代わりなのです…
オメガだからと王宮で冷遇されていたので、身代わり結婚にも拒否権が
なかたのでした。
本当の花嫁じゃない。
だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、
だんだん王様に惹かれてしまい、苦しくなる…という
お話です。よろしくお願いします<(_ _)>
竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜
レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」
魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。
彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。
番解除した僕等の末路【完結済・短編】
藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。
番になって数日後、「番解除」された事を悟った。
「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。
けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。
2026/02/14 累計30万P突破御礼バレンタインSS追加しました
2026/02/15 累計いいね♡7777突破御礼SS 19時に公開します。
様々な形での応援ありがとうございます!
愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない
了承
BL
卒業パーティー。
皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。
青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。
皇子が目を向けた、その瞬間——。
「この瞬間だと思った。」
すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。
IFストーリーあり
誤字あれば報告お願いします!
あなたと過ごせた日々は幸せでした
蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。
いい加減観念して結婚してください
彩根梨愛
BL
平凡なオメガが成り行きで決まった婚約解消予定のアルファに結婚を迫られる話
元々ショートショートでしたが、続編を書きましたので短編になりました。
2025/05/05時点でBL18位ありがとうございます。
作者自身驚いていますが、お楽しみ頂き光栄です。
番に見つからない街で、子供を育てている
はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。
異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。
現世の記憶は失われているが、
この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。
街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、
ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。
だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。
再会は望まない。
今はただ、この子との生活を守りたい。
これは、番から逃げたオメガが、
選び直すまでの物語。
*本編完結しました
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる