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マーケット その3
しおりを挟む最初に持ってきたのはルカだった、あんな飲まされ方しなければ、素直に感謝できたのに、説明もなく口に突っ込まれたので、心底怖かった。
……そういや、あれから、ルカには会っていない。相も変わらず、意味のわからない行動ばかりだったが、その日から、看病が改善して……あれ?なんか誰かに怒られたという話を二人がしていた気がする。
何気ない質問だったが、リノは口を閉ざしてマティを見る。分からないことがある時のリノの仕草だった。
マティは、リノの視線を受けて、それから少し考えつつ、持っていたカバンから、件の薬の入った紙包みをテーブルに置く。
「特注というか……獣人には必要ないものですので、購入したわけではありません」
「そうなんだ」
少し困ったように、マティは笑う。
それほど、言いづらいことを聞いた自覚はないのだが、妙な反応に私も戸惑う。
「人間にだけ必要な薬ってこと?」
「ええ、それも国外からいらした人間にのみ、使う薬です」
「二人は、あの熱の特効薬がそれだって知らなかったんだよね……ルカは……知ってたの」
「……」
「……」
今度は、二人とも口をつぐんでしまった。
そんなタイミングで料理が届く。
とても美味しそうだが、今の話題がとても重要なもののような気がして、話を続ける。
「二人を怒ったのって……ルカだったり」
二人の反応を見ながら続ける。
あれほど人間嫌いらしい発言を連発し、私に暴言をはきまくり、傷ついている私をみて楽しそうに笑う彼が……そ、そんなわけない、よね?
「実はルカって……人間にものすごく詳しくて、二人に看病の仕方を指導したのも、私が熱を出したのを知って薬を処方したのも、奴だったり……して」
二人は、もの凄く困っているように、耳をへたりと下げて、視線を外す。
言えない事なのだろうか。
「こ、答えて、くれないの……どうして」
「申し訳ございません」
「ごめんにゃ」
えぇ……。
二人はふるふると震えて、怒られるのを待つ子供みたいに、私をそっと見た。これじゃあ、私が意地悪をしているみたいだ。
そうならそうだと一言言ってくれれば、私も納得できるのだが、それが答えられないってどういう事なんだ。
でも、言えないものは、言えない……の、かな?
ちょっと寂しいが、二人にだって、そういう事はあるのだろう、じゃあ聞き方を変えてみる?
「じゃ、じゃあだよ?今の質問は、一旦置いておいて……そうだな……んんと、薬を持ってきてくれた人をまぁ、見知らぬ“彼”だとして、その彼ってどうして私を助けてくれたと思う?」
「…………」
また、リノはマティを見た。
それから、マティはしばらく考えて、重たい口を開いた。
「死なれては困ると、仰っていました」
「うん」
マティの答えにリノも同意する。
死なれては、困るって……また、生きてて欲しいとは違ったニュアンスの言葉だ、好意からの行動では無いのかな?
「どんな人?とか、聞いてもいい?」
伺うように問いかけると、またマティは長考して、口を開く。
「仕方の無い人なのです」
「歳の割に子供っぽいにゃ」
リノも付け加えた。どうにも、ルカの印象と合わない。頭の中で、ぐるぐると、考えが巡る。そもそも私は、ルカのことをあまりよく知らない、この質問から答えを見つけるのは無理そうだ。
でも、それ以外に、思い当たる獣人もいないのだ。そもそも獣人の知り合いだって、多くないのだから仕方ないけれど。
ぬぐぐと考えていると、マティがポツリという。
「彼は……自分が何をしたいのかもわかっていない、まだ歳若い獣人です」
表情が少し和らぐ、マティはその人のことを悪く思っていないようだった。
マティだって若いように見えるけれど、一体、何歳なのだろうか、それによって、マティの言う”歳若い“の年齢が変わるような気がする。
「本人に聞いても、きっと答えは帰ってきません、姫様が知りたいと言うのなら、止めはしません。けれど、私は……クルス様の方が、姫様にはお似合いだと思っておりますよ」
「アレと番(つがう)と苦労するにゃ」
番って、あぁ、つがいになるとっていう意味か。
なんだ、やっぱりルカは、人間に詳しいのか。
クルスと比較するという事は、そういう事だろう。そしてそれをわざわざ口にしたマティは、ヒントをくれたつもりだろうか。
けれど、言葉と思惑があっていない。だって私がクルスに好意を向けるようにしたいのなら、今の言葉は言うべきでは、無かっただろう。
……ルカ、ねぇ。
ちぐはぐな行動ばかりの彼は、二人とどんな関係で、何がしたいのだろう。
謎は解けることは無く、どんどんと深くなる一方だった。
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