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ロイネの話 その7
しおりを挟む「……月光浴していなかないの?」
「君はもしかして、なぜ熱が出るのか把握してない?」
「え、う、うん」
「はぁ」
あからさまにため息をつかれて、なんだか悲しい。仕方ないじゃないか、分からないものは分からないのだから。
「そもそも、今日は魔力の流れが分かりやすいから浴室に来ただけで、君は月光浴をすると体に悪い」
……え、そうなの?
お月様の光を浴びるというのも斬新で楽しかったし、もしかしたら私にも何か良い効果があるかもと、思っていたのだが、悪いとは露ほども思っていなかった。
「……簡単に説明すると人間は、魔力の許容量が俺たちよりも小さい」
「うん」
「タリスビアは魔力が豊富で、月光浴のような、多くの魔力を浴びる行為をすると、体が貯蔵できる魔力の量を超えて、人間の体は消費活動をはじめるんだ。効率よく魔力の量を元に戻すために、熱が出る」
本当にわかりやすい説明に、ウンウンと頷く、意外と説明が得意らしい。お義父さまとは大違いだ。
「薬は、魔力を抑制する効果のあるものだから、熱が下がる……わかった?」
「わかった!……これから、ここで暮らしていくんだもの、ちゃんと理解したよ!」
「……切り替えが、早すぎない?」
「そう?……だって、嬉しいんだよ私。色々、やれる事も、やりたい事もある。全部諦めなくて良いんだって思える」
ディーテのこの先、アンジュの選択も聞きたい、それからメイドの二人と気兼ねなく過ごせるし、お義母さまやお義父さまには、帰ることは無いと自信を持って伝えられる。
じんわりと心が暖かく、ここ一週間の重りがやっと外れて、だいぶ楽になった。
勝手に頬が緩む。するとルカは私と繋いでいる方の手を自分の頬に当てて、それから嫌そうな顔をする。
「ほら、熱出た。人間は学習能力が低くて困る」
「ほ、本当に?」
私もぺたぺたと、自分の首やほっぺを触ってみると、確かに少し暖かいような気がする。心が暖かくなったのと同時に、体まで、熱が出てしまったらしい。
「行くよ、部屋までは送るから、それまで倒れないでよ」
「うん」
浴室を出ると、冷えた空気がすっと頬を撫でる。
ちょっと心地いいな。お風呂上がりの、涼しい部屋が心地いいのと一緒だ。
真っ暗なのは怖いけれど、それもルカが居れば、苦にならない。
ふと胸元のボタンが取れてしまって、歩くとまた、はだけてしまっていることに気がつき片手で押さえた。
……そういえば、ネックレスはどうするのだろ。
「ルカ」
「ん」
「ネックレス、私が持っていてもいい?」
「なんで」
「一応、思い出のあるものだから、大切にしたいの」
「悪い思い出ばかりみたいだけど?」
「それでも、いいのよ」
それでも、長年、身につけていた物だ。私にどんな影響を与えていたとしても、それが私にとっては、悪意に感じられるような物だとしても、まごうことなく、込められた思いは、愛情なのだから。
手仕事の品は、良い思いを込めると、強く発動する。けれど、それ以外の悪意ある魔法を編み込むことが出来ない。私はそう習った。
だからクリスティナ様の思いは、悪いものでは無いのだ。
「……後でマティに渡しておく」
「ありがとう」
「交換条件では無いけど、君の刺繍、作っている所を見せて」
それは、手仕事を見たいと言うことだろうか。いや、まぁ、それ以外に、私は刺繍などしないけれど。
どういう風の吹き回しだろうか。
今まで、頑なに人間が嫌いだ、下等種族だと言っていたのに。
「見て、どうするの?」
「……」
「興味だけなら、別に全然問題ない、けど」
ルカが、私の手仕事を見る理由……。
回らない頭を必死に回転させて考えた。
見たいと言うことは、自分でもやるのかな?いや、ルカは、さすがにやらないだろう。
うむむと考えると、今日行ったばかりの孤児院がパッと頭に浮かんだ。
人間の子供たちに、教えてあげるとか?
この国に、手仕事の文化は無い、正式なやり方がわからなければ、いくら人間だとしても子供たちは手仕事をできないだろう。
「子供に教えるなら、色々と注意点とかあるから、私も手伝うよ」
「俺がいつ、子供に終えるなんて言った」
「言ってないね」
「わざわざ人間に、俺が?」
「ちがった?」
「……」
違くないらしい。
すっと言えないのだろうか、そうなんだよって。
妙な会話に、思わず少しだけ笑った。ルカにバレたら、睨まれそうなので、声は出さない。
「慈善活動じゃない、あそこに居る子供に少しでも価値をつけてやれば、引き取り手からの支援金だって望めるでしょ、俺のためにやるだけなんだけど?」
「そうね」
それで、そのお金で二つ目の孤児院でも作るんだろうか。
「次のお休みに、孤児院に行くよ、必要な物とか準備をお願いしてもいい?」
「……わかった」
いつの間にか部屋に到着したようで、ルカは手を離した。
何となく、もう少し話をしていたかったような気がして、でも、引き止められる話題もなかった。
「ルカ、……おやすみ」
自分の部屋に戻っていく彼の背中に、そう声をかけた。ルカは無視して暗闇に消えていく。
やっぱり、急に距離が縮まったりしないよね。期待はあまりしていなかったので、まぁいいかと思い、扉を開けようと向き直ると、足元を柔らかな毛並みがふわわと通り過ぎた。
……猫。
猫だった、クルスがたまにやるように、体の側面を擦るように通りすぎて行った。
お休みの挨拶をしてくれたのだろうか。
私はしばらく呆然として、部屋には戻れなかった。
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