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ロイネの責任 その2
しおりを挟む流れで、全て話してくれると思ったのだけど、考えが甘かったようだ。死んでいたとしても、もし生きて居たとしても、私には何もする事が出来ない。
たとえ、イーリスに自己決定権が無かったとしても、私を殺そうとした相手だ、同情を向ける事をしてはならない。
だから、知ってしまうのが怖かった。でも、私の選択だ。最後まで、知る義務があるだろう。
「お義母さま……一つ質問させてください」
「えぇ、いいですよ」
「イーリスは、どうなりましたか」
お義母さまは、私が聞くのを待っていたとばかりに、微笑む。
「生きています」
生きて……。
言葉を聞いた瞬間に、私の瞼の裏に焼き付いた化け物の幻影が消えていく気がした。死んだと思っていたから、私自身が見せていた幻想。
でもそれが無くなったからと言って、生きているからと言って良い事ばかりではないだろう。
「処遇もお聞きしたいです」
「……本来であれば、死刑が同然です」
「はい」
「ただし、イーリスに拒否権が無かったのも事実です。イーリスの貴族としての地位を剥奪し、厳罰としました。彼女には今、後ろ盾も、身を寄せるあてもありません。開放されたとしても、生きる術は無いでしょうね」
「そう、ですか」
死刑が確定しているよりも、ずっとましだが、私が抱え込む事も出来ない。同じ同胞を救わないと言うのは、薄情にも思えるが、イーリスの元に向かった時とは状況が違っている。
彼女は私を害し、そうした事で、国自体に利益はあったが、事実は変わらない、心情的にも、私の側近たちはそれをよく思わないだろう。
既に、平民に落ちた身分の彼女を救う方法は、どう屁理屈を並べようとも、私が抱え込む以外、無いように思う。普通、生活のできない平民が向かうのは、教会だろう。
ルカが人間用の孤児院を作ったように、人間にも対応している、修道院等を提案したとしても、私がイーリスを匿っている事に変わりはない。
「ロイネ姫様、わたくし、彼女が憎いですわ」
どうにか、イーリスを救う言い訳を考えていたが、察したようにアンジュがぽつりと言った。
私ってそんなに、考えがわかりやすいだろうか。
アンジュの方に視線を向けると、感情の分からない顔をしていた。
怒っているような、悲しいようなそんな表情。
「彼女が居なければ、ロイネ姫様が苦しむ事も無く、メイド達も思い悩む事がなかったと思いますの」
「うん。……大丈夫ちゃんとわかってるよ」
だから、これ以上、情をかけるのはやめて欲しいという事だろう。なんにせよ、元凶になった彼女に対して当然の報いだと。
やっぱり、知らないフリをするしか無いのだろうか。ここまで、予測出来ていなかった私のミスだ、浅慮で動き、何か出来ると信じてやまなかった。
「……違いますわ。居なければ良かったと、ロイネ姫様を害した事を憎んでいたとしても、ロイネ姫様に、わたくしのそれを全て汲んで、選択をして欲しいと思っているのではありませんわ」
「じゃあ……どうすれば」
「相談してくださいませ、姫様に今後、害の無いように、姫様が救った命が無駄にならないよう、わたくし達も考えますわ!」
アンジュは歯を見せて笑う。
輝くような笑顔に、重い鉛を飲み込んだような私の心は、ふっと軽くなる。
そっか……そうだよね。
いきなり、全部、上手く行く案を出せるはずない、今まで、こういう選択も、何もかもをやってこなかった人間が、自分以外のことを考慮しつつ、自分の主張を通すなど、出来るわけがなかったのだ。
「お義母さま。時間をください。明日中には、お話の続きができるようにします」
「えぇ、存分に悩みなさい。……わたくしも助力は惜しみません。頼って良いのですよ」
私が助けを求めれば、時間を割いて力を貸してくれる人がいる。
きっと一人で何日も考えるより、ずっと納得の行く答えになるだろう。
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