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しおりを挟む戦争とは多くの人間の人生をあっけなく壊してしまうものである。
しかし、アンネは思う。壊されただけなのかそれとも、新しく作り替えられたのかそのどちらだろうかと。
「おら! さっさと歩け、略奪者ども!」
「馬車を降りたらまっすぐ小屋の中に入れ!」
乱暴に怒鳴りつける兵士たちの声が聞こえる。アンネのそばにいた人質の少年ロミルダは硬い表情でアンネの簡素なドレスを強く握りしめていた。
「っ……っ、う……うう゛」
十人ほどの子供たちをアンネは上から見下ろしつつ、神経質に気を配っていた。
すると後ろの方からすすり泣くような声が聞こえてきて、途端にその声は堪えられなくなったように大きく泣きわめく声になる。
「ひっく、う、うわぁぁん!!」
「黙ってさっさと歩けってんだろ!!」
泣き出した一番後ろの少女に向かって、剣を抜いたまま兵士の男性が怒鳴りつけた。
ロミルダの手を丁寧に離してからアンネはすぐに彼女の元へと駆けだした。
「やめてください! すぐに泣きやませますから。マルレーネ、大丈夫ですよ。あなたは貴族。立派な出自の子供なんです、この場で泣いては領民に示しがつきません」
「っ、ひっく、でもぉ」
「人目につかないところに行きましょう。それからゆっくり話を聞きますから」
大粒の涙を流すマルレーネに、アンネは優しく話しかけながら手をとる。
彼女の手を取ると腕にはめられた魔力封じの枷が裾の下から露出してしまい、痛ましい気持ちになりながらも裾を整えて、それが見えないように丁寧に抱き上げた。
「さあ、皆、お屋敷の中に入れば休憩できますから、皆で手をつないでゆっくり歩いていきましょう。大丈夫です!」
「ハッ、屋敷なんて言えない家畜小屋同然の場所だけどな!」
「……行きましょう」
アンネの言葉を馬鹿にしたように周りを取り囲んでいる兵士の一人がそう口にする。
確かに示された場所はとても古びた二階建ての屋敷だ。とても今いる子供たちが住むような場所ではない。
しかし貨物のように詰め込まれた酷く揺れる馬車の中よりも随分ましなことは事実だ。
アンネの言葉に、不安そうに歩みを止めていた子供たちは、一人また一人と手をつないで、鉄格子の窓がついているその屋敷へと歩みを進めていった。
屋敷を取り囲む塀の外からは平民たちが隣国ルシュトラ王国から連れてこられた人質の子供たちを一目見ようと人だかりを作っている。
その好奇心になんとも嫌な気持ちになりつつも、アンネは気丈な笑みを絶やさずに、子供たちに何かしらの因縁をつけて虐めてやろうと考えている騎士たちににらみを利かせながら屋敷の中へと入っていった。
「君はどうして、自分の家族にも優しくしてあげられないんだ? アンネ」
「……」
「エルザは、君が私の寵愛を受けられないから自分をいじめてくるのだと泣きながら訴えてきたんだぞ、可哀想に」
「……」
「何とか言ってみろ。この性悪め」
「っ、いっ」
アンネはただ俯いて、婚約者であるカルステンの言葉を聞いていた。
しかし、アンネは思っていた。自分のどこに妹のエルザを虐めている時間があると思うのだろうと。
けれどもその態度が気にくわなかったのか、カルステンは俯いて座ったままのアンネの耳をおもむろに引っ張った。
ぐっと引かれると酷く痛んで思わず顔をあげる。
カルステンを見上げると、彼はさらにイラついた様子でおもむろにアンネの頬を平手で打ち付けた。
ぱちんと爽快な音が響いて、頬がじんと痛むが涙も出てこない。
こんなことは日常茶飯事だ。
「反省のかけらもないような顔だな。そんなだから私に愛想をつかされているのだとまだわからないのか?」
「……」
「いつも黙り込んで、そうしていたら誰かが助けてくれるのはエルザのような愛嬌のある顔つきの女だけだといい加減理解した方がいい」
「……」
彼の言う言葉にアンネは心のなかだけで否定した。
だってどうせ言い返しても、説教が長引くだけだ。彼がアンネではなく妹を可愛がっている事実は変わらないし、アンネは後継者教育とすでに任されている仕事でとても忙しい。
本来なら公爵家の後継者補佐になる婚約者のカルステンだって、一緒に課題に取り組んだり、書類仕事を覚えたりとやるべきことは沢山ある。
しかし、両親もそろって愛嬌のあるエルザの事を可愛がっている。
その彼女が愛しているカルステンに、彼女の要望を聞いてあげてくれてありがとうお礼をする始末だ。
アンネの味方はこの屋敷にはいないし、誰にも尊重されない。ただ従順に生まれ持った役目を果たすことしかできない。
それ以外の事を許されていない。
それを苦しいとさえ、逃げ出したいとさえ思うことができない日々だった。
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