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しおりを挟むしかし突然、世界はがらりと色を変えた。
アンネは唐突に公爵家後継ぎの地位から降ろされて、婚約も破棄。代わりにエルザがカルステンと婚約をし、跡継ぎの地位に座った。
「そういうわけだから、アンネ。お前は人質としてオルニア帝国へと迎え」
「……はい?」
「だってこんなにか弱いエルザを人質にするわけにはいかないでしょう? 姉なんだからあなたが変わってあげないと」
「……はい」
家族と婚約者のカルステンが談話室に集まって言い渡されたことは、まさに晴天の霹靂だった。
何もかもにピンと来ていなかったアンネだったが、母と父の言葉を聞いてなぜか被害者のように涙を見せているエルザのことを見て、何を泣いているのだろうかと疑問に思った。
カルステンはそれに寄り添って彼女をやさしく慰めており、まさかこの期に及んで姉が自分の代わりに人質になることを悲しみ苦しんでいるというつもりではあるまいなと冷静に思ったのだった。
そんな突然の出来事があり、アンネは、最低限の荷物を持って王宮に向かった。
そこには小さな十歳程度の子供が十人ほどおり、オルニア帝国の使者が待ち構えていた。
それぞれ魔力封じの枷をつけられて、鉄格子付きの馬車の荷台に、乗せられてガタゴトと隣国への道のりを出発したのだった。
道中に、使者や使者についていた騎士たちの話を聞いたり、子供たちの話を聞いたりしていくうちに事の全容が見えてきた。
我が国、ルシュトラ王国と隣国のオルニア帝国はそれなりに長い間、険悪な関係が続いていた。
その点については理解していたが、アンネは自分の領地と家族の事だけで頭がいっぱいでルシュトラ王国の外交や政治の事はあまり知らなかったし、公爵家は隣国との国境との反対側に位置する領地を持っている。
だからこそ国境付近の緊張を察知できなかったのではないかと思っている。
しかし、王都に住んでいた子供たちは事情をよく知っていた。
浪費の激しい我が国の王族は、オルニア帝国の国土を荒らし、略奪や殺しを繰り返す賊に支援をし、間接的に武装をしていない村々を襲い女子供までも殺す行為を許容し助長させていた。
それが今回の火種として元々悪かった国同士の関係は悪化、オルニア帝国はルシュトラ王国に賠償を求めたが、到底支払えるはずもない。
そして武力では圧倒的にオルニア帝国の方が上だ。
彼らからの正当な要求を突っぱねるだけというわけにはいかずに支払いを待ってほしいと懇願した。すると賠償金の支払いを待つ代わりに、彼らは高貴な血筋の子供を十名以上、人質として要求した。
そして現在に至るのである。
けれどももちろんアンネは子供とは言えない、成人はしていないが、大人に近い。
どうしてアンネが今こうして子供たちとともに人質になっているのかという点についての答えは自分の中にあった。
ファーレンフォレスト公爵家には一目見ただけで高貴な貴族だとわかる特徴がある。それは真っ赤な髪と瞳だ。そして色白の美しく透き通った肌。
この特徴は神の使いである白兎を宿した体であるという証明になり、その話は大陸でそこそこ有名な話なのだ。
だからこそ、こんなに貴重な人間を人質にした、という分かりやすい象徴が欲しかったのだろう。
なので同じ外見をしている、アンネの妹のエルザが選ばれた。
しかし、彼女はカルステンや父と母に守られた。
だから今、アンネはこの場所にいる。
それが、良い事なのか悪い事なのかそんなことを考える暇もなく、アンネは子供たちを励ました。彼らは、たしかに身分だけはとても高貴な子供たちだった。
ロミルダは魔力が高い事で有名だし、ディーターはたしか傍系の王族の出身だ。当然荷馬車で運ばれていいような子供ではない。
ほかにも大切にされるべき子供たちがたくさんいて、彼らは総じて賢かったり、美しかったり優れた魔法を持っていたりする。
しかし、根本の部分ではみんな同じだった。
……私のように、助けてもらえなかった……選ばれなかった子たちなんです。
大切にされている子供は皆、どうにかして親に守ってもらうことができる。決して大きな国ではないけれど、貴族の子供といえばそれなりに数がいるのだ。
それなのに、選ばれてしまったアンネたちは皆同類なのだ。
だからこそアンネは一番の年長者として守るようにここまで彼らを励ましてきた。きっと大丈夫だと自分にも子供たちにも言い聞かせるようにしながら。
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