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43 易しい説明
しおりを挟むアイヒベルガー公爵邸に戻りラウラはフェリクスの部屋へと向かった。
彼は自分の執務室でかっちりと仕事は仕事、プライベートはプライベートと分けているわけではなく、ティーテーブルやベットのサイドテーブルにも何らかの書類が置いてある。
おのずと話をするときも席を設けるというよりかは、紅茶を飲みながらお茶会のように話をする。
「それで、王太子殿下や王太子妃殿下に何かきつい事を言われたりはしなかったか?」
聞きながらフェリクスは、書類つづりをパラパラとめくっている。その伏せられた瞳を見ながらラウラはフェリクスに返事した。
「いいえ、特には。むしろローゼマリー王太子妃殿下には優しい配慮もしてもらえたから、きちんと話にいってとても良かったと思ってるわ」
「そうか。君が満足できたのなら何よりだが、表面上は優しげでもあいつらは王族だ。自覚がないまま傲慢な態度をとるかもしれない。そういう場合はぜひ言って欲しい、ラウラ」
「……うん」
目で文字を追いながらフェリクスはラウラにそういい、ラウラは、それはあなた自身もでは……と思ったがわざわざ口に出す必要性が感じられずにコクリと頷いた。
すると、フェリクスはぱっとおもむろに顔をあげる。
「ついでに、結婚の話をもう少し詰めてもいいか?」
フェリクスはとても嬉しそうにそう口にして、書類綴りの中から、何枚か紙を取り出してラウラに見せた。
突然の話題にラウラは驚いたが、その紙には見知った商会の名前が書いてあり、代表者やおもな商売の内容、それからざっくりとした規模も記載されている。
「その話はもう少し時間をかけるのだと思っていたんだけど」
「君がそうする必要性があると思っているならそうするが、俺は出来る限り早く結婚したい」
「……ない、です」
「良かった。といっても君のやるべきことは多くないから安心してほしい」
言いながらフェリクスはペンを手に取って、くるりと回してから真剣な顔をする。
しかしラウラは結婚に時間をかける理由はないと思っていたが、物理的にそうなるだろうという気持ちであったというのが本音だ。
だって、結婚というのはラウラの父であるディースブルク伯爵の許可が必要になってくる。
政略結婚的な意味での婚約もその限りなのだが、恋愛結婚的な意味では当人の気持ちのみで結婚を約束している状態だと言うことはできる。
ラウラ達はただそのつもりで準備をしているだけという状態に他ならない。
一応、王族の認証があればラウラが勝手に嫁に行くことはできるが、それでは、外聞も悪いし二つの家の仲も最悪だと周りに知らしめているようなものだ。
だからこそ、交渉が必要になる。
ラウラは正直、父であるアルノルトとも母のヘルミーネとも仲が良くない。
ラウラの望みを頭から否定してくる可能性もあるしフェリクスに迷惑をかけるかもしれない。
そうならないように、まずは実家の今の状態を確認して少しずつ交流を戻し、認めてもらうほかないのだ。
だからこそ時間がかかると思っていた。
しかしそんなことはまったく気にしていない様子でフェリクスはペンでその商会のことを指した。
「君はただ、自分の意志で俺と結婚するのだと一言手紙を書けばいい。そうすれば俺が手続きを進める」
「……これは?」
彼の言った事と見せられているものの繋がりがわからずにラウラはテーブルの上の書類を見ながら言った。
「これは、ディースブルク伯爵に快く俺たちの結婚を認めてもらうための手段だ。見覚えがあるだろ、ラウラ」
「そうね。ディースブルクがアマランスの花を外国から仕入れるときに使っていた商会だと思う」
「ああ、そして、ディースブルクに今年大損をくらわせられた商会だ。それなりの補填はしたらしいが、貴族ではない彼らは命を懸けて商売をしている。それをつまらない事情で不安定にされ、腹の中では相当据えかねてるらしい」
ペン先でフェリクスはその書類をたしたしとつつく、その様子にラウラはなんとなく、普段ラウラが知らないところでも、こんな風に仕事をしているのかとすこし知らない彼を知ったような気持になった。
「そこで、彼らに毎年必ず、ディースブルクよりも高値でアマランスの花を買い付けるという話をする。五年分ぐらいなら、先払いで支払ってやってもいい。
そうするとディースブルクはどうなる?」
「……」
フェリクスの説明に、ラウラはすぐにピンと来たし、そういうことをされたらディースブルクはとても困るという事を知っている。
だからこそ商人とは個人的にきちんと信用のある付き合い方をしておくべきだと、言うこともわかっている。
そしてそういうことをラウラに非情に易しく問いかけてくるフェリクスの姿がこれまた新鮮だった。
そういえば彼は大まかなラウラの事情は調べて把握しているらしいが、ラウラが実際にどんな扱いを受けて、屋敷から出てきたかという事情は知らないのだなと思った。
……じゃあ、実際に領地運営や事業の事をやるとなったらフェリクスは私に直接教えてくれたりするのかな。
「君にはまだ難しかったか?」
「……うん」
「じゃあ答えを教えよう。俺たちが祭りの時期に花をすべて買いこめば当然ディースブルクはお金はあっても花を買えないという状況になる。そうなればディースブルクは俺たちに売ってくれと懇願するほかない。
そしてディースブルク伯爵もそのぐらいの事はわかる」
そういって彼は書類つづりの中から、新たに一枚新しく抜き取ってラウラの前に置いた。
それは見ての通りの契約書で、すでに契約は結ばれ五年間は花の販売はアイヒベルガーに独占するという内容だった。
「だから、それを引き合いに出して君との結婚を承諾させる。……という事だから心配いらない、家出するぐらいには家族と折り合いが悪かったんだろう? 君は何もしなくていいから安心してくれ。書類の細かな説明はいるか?」
「……うん」
『おや、ラウラ。人に教えてもらうことがそんなに嬉しいか?』
「うん。すごく」
「何か精霊様とはなしているのか?」
「うん。でも秘密よ」
「妬けるなまったく」
「ふふっ」
それからフェリクスはラウラにここに書いていることがどういう意味で、これが印章で、ととても易しい説明をした。
そして最後に、決まり文句のようにラウラに、説明はしたが理解できたなら覚えなくていいと言う。
何もしなくてもラウラはただここにいるだけでいいというフェリクスに、今度、ちょっとした嘘をついてしまったことを、短編小説でも書いて明かそうかと思う。
そうしたらフェリクスはどんな顔をするだろう。
そういえばここ最近書いたものもたくさんたまっている。この人は読みたいというだろうか今度聞いてみようとそう考えたのだった。
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