“足りない”令嬢だと思われていた私は、彼らの愛が偽物だと知っている。

ぽんぽこ狸

文字の大きさ
4 / 43

4 偽物 

しおりを挟む



 レーナはアメーリアや、ロバータ、エイベルに同席してもらって、レーナの行動を見届けてもらうことにした。

 彼らはレーナが行動すると皆目を丸くして一応付き合ってくれる。いい人たちだ。

 そして、アーベルとマイリスには名前を練習しているうちに、今度はどこに名前を書けばいいのかわからなくなったと連絡をして、二人そろってレーナを笑いに来るように誘いをかけた。
 
 すると案の定、彼らはよく考えずにやってきて、そこにいる上級使用人や、彼らに囲まれているレーナを見て表情を硬くした。

「どうぞ、向かいにかけてください。アーベル、マイリス」

 手で指し示すと、彼らは多くの人の視線を受けて、その場から逃走するということは出来ずに、警戒した様子だったがレーナの前に腰かける。

 それから紅茶が出て一息ついた後、レーナは前置きなしに、背筋を伸ばして口を開く。

「私は、アーベルの香水の香りがいつも気になっていました。とても不思議で他では嗅いだことがない香りだと思って」
「は?」
「でも今は知っています。その香水は、一般的には流通していない、ここから見て西の方にある領地にしか咲いてないスズランの花から少量生成される精油から作られている物ですね」

 そして、その香水を使っていて、製造している貴族の家系はティアニー侯爵家といい、その生製法を門外不出としている。そしてティアニー侯爵家には今、年頃の貴族令嬢が一人いる。

 もらっているのか、それとも香りが移るほどの事をしているのか。

「あっていますか?」
「だ、だから何だよ、レーナ、というか何だ。突然」
「とても貴重なものですね。どういう関係性でいただくことになったのでしょうか? マイリスも気になるところだと思います」
「べ、別にいいだろ、彼女とは 何かあるわけじゃない! ただ純粋な好意として貰っているだけで」

 レーナの推察は正しかった様子で彼は、指摘してもないのに、彼女と口にして女性から貰った物だと勝手にぼろを出した。

 その様子にマイリスは怪訝そうな表情を向ける。

「どういう事よ、そんな話聞いていない。たしかに変った香りだとは思っていたけど」
「だからなにもないって、女から香水を貰っているだけで浮気者扱いするなよ」
「はぁ? 何もない人間は何もないなんて言わないのよ」
「ところで、マイリスは、ここ最近謎の発疹に苦しめられているという話を侍女から聞いています」

 彼らの痴話げんかが始まる前にレーナは別の事に話題を移してマイリスを見た。

 すると彼女はさっと手袋をつけている自分の手を手で握って、強がるように言う。

「し、知らないわそんな話」
「慣れない手袋をつけるようになったのは、そのためではないでしょうか」
「別に? 違うけど?」
「以前には唇に小さなできものがたくさん出来るとぼやいていたそうですね。あなたの生活から鑑みるに、うつされたのではないでしょうか」
「黙りなさい!!」
「平民の男性は持っていることも多いらしいですから、仕方のない事だと思いますよ。女性を介して男性にもうつるそうです」
「っ……や、やめてよ悪い冗談は……そもそもあなたにそんなことをわかるはず……」
「ライティオ公爵領の図書館で調べました。本の知識なので正しいと思います」
「嘘でしょ? ……嘘、嘘……うそぉ」
「おい、うつるって……まさか」

 話の内容を理解したアーベルは、後ずさるようにしてマイリスから離れる。

 たった今、病気の事を告げられたマイリスは、そのアーベルの些細な行動に猛烈に腹が立ったらしく、急に眼の色をギラリと変えてアーベルにつかみかかった。

「なによ急に、昨日の夜もあんなに愛し合ったのに!!」
「っ、近寄らないでくれ、け、穢れがうつるっ!!」
「なによ、なによ、なによ、ふざけないでよ!!」

 彼の胸ぐらをつかんでガシガシと揺すっているマイリスは、その瞳に涙をためている。しかし、自業自得と思うしかないだろう。

 彼女の母親は貴族ではない。平民出身だからこそ、彼女自身も平民の知り合いが多く遊ぶ相手には事欠かなかったのだろう。

 しょっちゅう男に手を出していた。

 そしてアーベルもマイリスと仲睦まじくしていたが、それだけが本分ではない。きっと本命は香水をくれた令嬢の方だろう。

 そのことは、レーナを排除しようとしたことからうかがえる。

「それと最後に、とても重要な話があります。マイリスにとってもアーベルにとっても、どうか聞いてくださいませんか」
 
 取り乱していたマイリスだったが、レーナの言葉に、興味をもつ。

 二つの有益な情報を出したレーナの話をさえぎるのではなく聞きたいと思ってくれた。

 そのことを純粋に嬉しく思って、レーナは続けて彼らに言った。

「私はあなた達の愛が偽物だと知っています。こんな生い立ちですが、たくさん勉強して賢くなったと思うのです。みんなのように。なので、アーベルがクレメナ伯爵家の財産の横取りを計画しているだろうこともちゃんとわかっています」
「……ご、誤解だ。レーナ、謝る、お前を軽んじて悪かった、本当に後悔している」
「浮気の件から察するに、アーベルの本命はスズランの香水を贈った女性でしょう」
「やめろっ!! それ以上言うな!!」

 アベールは怒りだし、レーナに手を伸ばそうとする。

 しかし、部屋にいた男性使用人たちに取り押さえられて、ソファーに戻される。

「ではなぜ、マイリスと婚約を望み、私を排除しようとしたのか。合理的に考えれば私と婚姻しているままマイリスと楽しく暮らすのが一番良いはずです」
「ど、どうしてなの?」

 レーナの言葉を食い入るように聞いて、マイリスは縋るように問いかけた。

 ちなみに彼女がほかの男性と関係を結んでいたのは、浮気ではなくそういう性分だ。そういう人間もこの世にはいる。

 本命の彼にだからこそマイリスは彼に騙されて、彼の口車に乗って結婚という甘い蜜に誘われてレーナを排除する計画を呑んだのだろう。

「私が貴族としての地位を失って、罪に問われるようなことがあり排除された場合、爵位はマイリスにわたるでしょう。
 しかし魔力が極端に少ないマイリスは領主として魔力を日々捻出すると体が弱るなり、もしくはアーベルの計画によって早世することになります。
 すると、爵位継承権者はいなくなり爵位返上という流れになります。
 私でも同じではないかと思われるかもしれませんが、私が貴族として爵位をついでその財産を手に入れた後に死んだとき、それは私の母に半分近く相続されます。
 婿に入ったクレメナ伯爵家の家財は、アーベルが自由に使えるでしょう。しかし、母方の実家に送られたらせっかく多額の金銭を手に入れられるのに私では半分になってしまう。
 しかしマイリスに爵位を継承させて、死んだとなるとマイリスの実家は相続権を持っていません。マイリスの実家は平民ですから。
 これが本命がいた上で、アーベルがマイリスを愛していると嘘をついてまでやりたかったことです」

 レーナは終わりにそう告げてアーベルを見た。すると彼は暴れないように抑えられたまま言葉が出てこない様子で俯いている。

 反論も思い浮かばないらしい。

 浮気の件以上の真実を告げられたマイリスは、呆然としてアーベルを見つめている。

 しかしこれで終わりではない、レーナは続けて言った。

「それに、アーベル、先日の私の罪の自白書ですが、あれは公的な調査を故意に妨げる代物です。もちろん作成したこと、私に書かせようとしたことは罪になります。その件について父を経由して王族に告発しておきました。丁度ここにほら」

 彼に見えるように婚約解消の書類と、罪の自白の書類を並べて見せる。

「婚約解消の為にあなたが作ったことを証明できる書類が、この書類の筆跡とまったく同じになっていますから罪はすぐに認められるでしょう」
「っ、レーナ、レーナ! 違うんだこれは、ほら、お前は優しい子だろ! 俺は、ただ、っ、そう、悪魔にささやかれてこんな愚行を!!」
「……」
「許してくれ! お前を侮っていてすまなかった! これで満足だろう!!な? だから許してくれっ! 後生だ!」

 彼は使用人たちに抑えられたまま、それでも必死に頭を下げてテーブルに頭をこすりつけてレーナに頼み込んでくる。

 しかしその頭を隣に座っていたマイリスがバチンとたたきつけた。

「まず私に謝りなさいよぉ!! このクズ!! そんなこと考えてたのね! 許せないっ」
「触るな! 性病女!」

 彼らは醜くののしりあって、それを眺めながらレーナは周りにいた使用人たちに視線を向けて聞いてみた。

「……私がたくさんのことを理解できるようになったと知ってもらえましたか?」
「ええっ、それはもう」
「お嬢様、参りましょう。これからのクレメナ伯爵家の事を話し合わなければ」
「はい、ここでは騒がしすぎますからね」

 そう言って、彼らと共に応接室を後にする。

 彼らの表情はアーベルのとんでもない計画が暴かれた後だというのに、どこか希望に満ちていて、アメーリアはすこし感動している様子だった。

 場違いだとは思ったけれどそれほどまでに、きちんと示すことができたのだと嬉しく思ってレーナは、もうアーベルもマイリスも見向きもしないで彼らと歩き出したのだった。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】断罪された悪役令嬢は、本気で生きることにした

きゅちゃん
ファンタジー
帝国随一の名門、ロゼンクロイツ家の令嬢ベルティア・フォン・ロゼンクロイツは、突如として公の場で婚約者であるクレイン王太子から一方的に婚約破棄を宣告される。その理由は、彼女が平民出身の少女エリーゼをいじめていたという濡れ衣。真実はエリーゼこそが王太子の心を奪うために画策した罠だったにも関わらず、ベルティアは悪役令嬢として断罪され、社交界からの追放と学院退学の処分を受ける。 全てを失ったベルティアだが、彼女は諦めない。これまで家の期待に応えるため「完璧な令嬢」として生きてきた彼女だが、今度は自分自身のために生きると決意する。軍事貴族の嫡男ヴァルター・フォン・クリムゾンをはじめとする協力者たちと共に、彼女は自らの名誉回復と真実の解明に挑む。 その過程で、ベルティアは王太子の裏の顔や、エリーゼの正体、そして帝国に忍び寄る陰謀に気づいていく。かつては社交界のスキルだけを磨いてきた彼女だが、今度は魔法や剣術など実戦的な力も身につけながら、自らの道を切り開いていく。 失われた名誉、隠された真実、そして予期せぬ恋。断罪された「悪役令嬢」が、自分の物語を自らの手で紡いでいく、爽快復讐ファンタジー。

大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!

古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。 その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。 『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』 昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。 領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。 一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

妹のことが好き過ぎて婚約破棄をしたいそうですが、後悔しても知りませんよ?

カミツドリ
ファンタジー
侯爵令嬢のフリージアは婚約者である第四王子殿下のボルドーに、彼女の妹のことが好きになったという理由で婚約破棄をされてしまう。 フリージアは逆らうことが出来ずに受け入れる以外に、選択肢はなかった。ただし最後に、「後悔しないでくださいね?」という言葉だけを残して去って行く……。

無魔力の令嬢、婚約者に裏切られた瞬間、契約竜が激怒して王宮を吹き飛ばしたんですが……

タマ マコト
ファンタジー
王宮の祝賀会で、無魔力と蔑まれてきた伯爵令嬢エリーナは、王太子アレクシオンから突然「婚約破棄」を宣告される。侍女上がりの聖女セレスが“新たな妃”として選ばれ、貴族たちの嘲笑がエリーナを包む。絶望に胸が沈んだ瞬間、彼女の奥底で眠っていた“竜との契約”が目を覚まし、空から白銀竜アークヴァンが降臨。彼はエリーナの涙に激怒し、王宮を半壊させるほどの力で彼女を守る。王国は震え、エリーナは自分が竜の真の主であるという運命に巻き込まれていく。

【完結】白い結婚を終えて自由に生きてまいります

なか
恋愛
––アロルド、私は貴方が結婚初日に告げた言葉を今でも覚えている。  忘れもしない、あの時貴方は確かにこう言った。  「初めに言っておく、俺達の婚姻関係は白い結婚として……この関係は三年間のみとする」 「白い結婚ですか?」 「実は俺には……他に愛する女性がいる」   それは「公爵家の令嬢との問題」を理由に、三年間だけの白い結婚を強いるもの。 私の意思を無視して三家が取り決めたものであったが、私は冷静に合意を決めた ――それは自由を得るため、そして『私自身の秘密を隠すため』の計算でもあった。 ところが、三年の終わりが近づいたとき、アロルドは突然告白する。「この三年間で君しか見えなくなった。白い結婚の約束をなかったことにしてくれ」と。 「セシーリア、頼む……どうか、どうか白い結婚の合意を無かった事にしてくれ」 アロルド、貴方は何を言い出すの? なにを言っているか、分かっているの? 「俺には君しかいないと、この三年間で分かったんだ」 私の答えは決まっていた。 受け入れられるはずがない。  自由のため、私の秘密を守るため、貴方の戯言に付き合う気はなかった。    ◇◇◇ 設定はゆるめです。 とても強い主人公が自由に暮らすお話となります。 もしよろしければ、読んでくださると嬉しいです!

侯爵令嬢に転生したからには、何がなんでも生き抜きたいと思います!

珂里
ファンタジー
侯爵令嬢に生まれた私。 3歳のある日、湖で溺れて前世の記憶を思い出す。 高校に入学した翌日、川で溺れていた子供を助けようとして逆に私が溺れてしまった。 これからハッピーライフを満喫しようと思っていたのに!! 転生したからには、2度目の人生何がなんでも生き抜いて、楽しみたいと思います!!!

婚約破棄された宰相です。 正直、婚約者も宰相も辞めたかったので丁度よかったです

鍛高譚
恋愛
内容紹介 「婚約破棄だ! そして宰相もクビだ!」 王宮の舞踏会で突然そう宣言したのは、女性問題を繰り返す問題王太子ユリウス。 婚約者であり王国宰相でもあるレティシアは、静かに答えた。 「かしこまりました」 ――正直、本当に辞めたかったので。 これまで王太子の女性問題の後始末、慰謝料交渉、教会対応、社交界の火消し…… すべて押し付けられていたレティシアは、婚約も宰相職もあっさり辞任。 そしてその瞬間―― 王宮が止まった。 料理人が動かない。 書類が処理されない。 伝令がいない。 ついにはトイレの汚物回収まで止まり、王宮は大混乱。 さらに王太子の新たな女性問題が発覚し、教会は激怒。 噂は王都中に広がり、王宮は完全に統治不能に。 そしてついに―― 教会・貴族・王家が下した決断は、 「王太子廃嫡」 そして。 「レティシア、女王即位」 婚約破棄して宰相をクビにした結果、 王宮を止めてしまった元王太子の末路とは――? これは、婚約破棄された宰相が女王になるまでの 完全自業自得ざまぁ物語。

処理中です...