5 / 43
5 対等に
しおりを挟む執務室へと到着し、ののしり合いから肉弾戦の喧嘩に発展した彼らをとりあえず監視をつけてそれぞれで隔離をしたと報告を受け、頷いて使用人たちに視線を向ける。
アメーリアはすでに向かいのソファに座りながら鼻をすすってクスン、クスンと泣いている。
「……アメーリア、レーナお嬢様が困っています。ほら涙を拭いて」
ロバータはアメーリアを慰めるようにそっと肩に手を置いて、いつもきりりとして厳しそうに見えるその顔を優しくして言った。
エイベルは少し混乱しているようで、二人のやり取りを気にしながらもレーナに問いかけてきた。
「お嬢様、さっそくで悪いですが、お話を聞かせてもらってもいいですか。先ほどの話はご自分で推察されたのですか?」
「はい、おおむねは。本の知識を借りましたが、推理をしたのは自分自身です」
「……そう、ですか。……えっと、すみませんあまりに驚いてしまって……僕は、とても何というか……尊敬に値するべきと思ったと言いますか……」
「ありがとうございます。エイベル。とても仕事のできる頭のいい人にそう言ってくださって、すごく嬉しいです」
「あ、ええと……」
彼の賛辞にレーナは丁寧にお礼を言った。
しかし彼はなんだか腑に落ちていないような様子で、それからすごく難しい顔をする。その様子を見てロバータが意を決したように聞いてきた。
「……ふぅ、たしかに素晴らしかったですが、それだけではないはずです。そうですね? エイベル」
「あ、うん。何と言ったらいいのか、でも、その急で驚いていて頭の整理がつかないです」
「っ、いいじゃあ、ありませんか。レーナお嬢様はわたくしたちの知らないところでとても立派になった。それだけで、それだけでっ、わたくしはっ」
「アメーリア、もちろんそれはとても重要ですが、そうではないでしょう」
ロバータは、彼らと言葉を交わしつつ、少し間をおいてそれから真剣な表情をレーナに向けた。
「まず、お嬢様お伺いします」
「はい」
「お嬢様は、ずっと……きちんと……ローゼ様と違って多くの事を知っていたのでしょうか」
「はい。図書館に通いだしたころから、理解できる会話が多くなってきた気がしていました」
「そう、だったんですね。…………では、私たちの態度はそんなあなたを侮辱しているようなものだったと思います」
「そうですね。今考えてみると、お嬢様は主張しようとしていたと僕も思います」
「たしかに……そうですね。わたくしはずっと、お嬢様を幼子のように扱って、お嬢様はずっと純真無垢な子供のようなまま変わらないのだと、決めつけていました」
アメーリアが言うと他二人も自分の言動を顧みて、気を落す。
「申し訳ありませんでした。こうして、お嬢様がしびれを切らして行動を起こすまで変化に気がつかず、不快な思いをさせてしまいました」
「申し訳ありません」
「大変な、失礼を働いてしまいました」
落ち込んで言う彼らは、一様に頭を下げて、レーナはその様子に少し驚いた。
なんせ、彼らはきっととても喜んで、これでクレメナ伯爵家も安泰だと晴れやかな気持ちになると思っていたからだ。
こんなふうに思われるなんて想定していなかった。
「あ、頭をあげてください。そう思う要素があったのですから、あなた達の過失ではありません。それに……私も故意にそうしていた部分がありましたから」
「故意にですか……?」
「はい。……丁度これで、屋敷の中のバランスが取れていると思っていたんです。父も私たちを顧みず、立て直すことは難しいだろうこの場所で、何かを変えることはとてもリスクがある行為だと思いました」
マイリスとレーナの二人は同じ家の令嬢であり、同じ父親を持っているがまったく違う。そして父はこちらがどうなろうときっと干渉しない。
だからこそ、マイリスに見下されて彼女が満足し、日々が平穏であるならそれでいいと思っていた。
しかし、同時に隠しきれないと思うときも増えて、マイリスはレーナを排除しようとした。
だからこそ動き出すべき時が来た。そして彼らは、こうして動いたときにきちんとレーナが知っていることをわかってくれた。
「なので、波風を立てるつもりはありませんでした。少しは賢くなったとしてもそれを無理に認めてもらわなくても、私は十分、尊重されていることを知っていましたから」
「……レーナお嬢様」
「っ、そう言ってくださいますか」
「はい。あなた達の献身を私はちゃんと知っています。なのでどうか、これからは対等に、厳しく同じ屋敷や領地を守っていく立場として私を見てください」
彼らが困っているとき、レーナも同時に頭を悩ませて努力をすることを認めて欲しい。
少しは、レーナならば大丈夫だと任せて欲しい。
そうなれるようにレーナも努力をする。だからこそ、きちんと今のレーナを見て判断すること、それを念頭に置いて接してくれたら問題ない。
「そしてどうか、喜んでくださいませんか。たくさんのことを知って、これからもっと多くの事を私がやれるかもしれない事を。あなたたちに守られるだけの子供では無い事を……嬉しく思って欲しいのです」
「ぅ、嬉しいですわぁ……っ、これ以上ない、くらい!」
レーナが言うとすぐに、アメーリアは感極まって声をあげる。
そしてすぐにまたホロリと涙をこぼして、それを見てロバータも、エイベルも、嬉しいです、嬉しいですと口々に言って、なんだか珍妙な絵面だった。
しかしレーナの要望に、いっぱいいっぱいになりながらも答えてくれる彼らが、レーナはとても大好きだ。
レーナは恵まれた生まれではなかったかもしれない。
しかし、少なくとも育つ環境には恵まれた。彼らにずっと支えてもらう事が出来て、こうして成長を示す機会を得られてレーナは間違いなく恵まれている。
そしてこれからは彼らに頼ってきた分、自分なりの出来ることで返したい。
足りていない部分もまだまだあるかもしれない、けれども埋められるように、彼らにもっと嬉しく思ってもらうために努力をしていこうと決意を固めたのだった。
244
あなたにおすすめの小説
【完結】断罪された悪役令嬢は、本気で生きることにした
きゅちゃん
ファンタジー
帝国随一の名門、ロゼンクロイツ家の令嬢ベルティア・フォン・ロゼンクロイツは、突如として公の場で婚約者であるクレイン王太子から一方的に婚約破棄を宣告される。その理由は、彼女が平民出身の少女エリーゼをいじめていたという濡れ衣。真実はエリーゼこそが王太子の心を奪うために画策した罠だったにも関わらず、ベルティアは悪役令嬢として断罪され、社交界からの追放と学院退学の処分を受ける。
全てを失ったベルティアだが、彼女は諦めない。これまで家の期待に応えるため「完璧な令嬢」として生きてきた彼女だが、今度は自分自身のために生きると決意する。軍事貴族の嫡男ヴァルター・フォン・クリムゾンをはじめとする協力者たちと共に、彼女は自らの名誉回復と真実の解明に挑む。
その過程で、ベルティアは王太子の裏の顔や、エリーゼの正体、そして帝国に忍び寄る陰謀に気づいていく。かつては社交界のスキルだけを磨いてきた彼女だが、今度は魔法や剣術など実戦的な力も身につけながら、自らの道を切り開いていく。
失われた名誉、隠された真実、そして予期せぬ恋。断罪された「悪役令嬢」が、自分の物語を自らの手で紡いでいく、爽快復讐ファンタジー。
大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!
古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。
その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。
『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』
昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。
領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。
一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――
【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました
いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。
子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。
「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」
冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。
しかし、マリエールには秘密があった。
――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。
未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。
「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。
物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立!
数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。
さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。
一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて――
「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」
これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、
ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー!
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
妹のことが好き過ぎて婚約破棄をしたいそうですが、後悔しても知りませんよ?
カミツドリ
ファンタジー
侯爵令嬢のフリージアは婚約者である第四王子殿下のボルドーに、彼女の妹のことが好きになったという理由で婚約破棄をされてしまう。
フリージアは逆らうことが出来ずに受け入れる以外に、選択肢はなかった。ただし最後に、「後悔しないでくださいね?」という言葉だけを残して去って行く……。
無魔力の令嬢、婚約者に裏切られた瞬間、契約竜が激怒して王宮を吹き飛ばしたんですが……
タマ マコト
ファンタジー
王宮の祝賀会で、無魔力と蔑まれてきた伯爵令嬢エリーナは、王太子アレクシオンから突然「婚約破棄」を宣告される。侍女上がりの聖女セレスが“新たな妃”として選ばれ、貴族たちの嘲笑がエリーナを包む。絶望に胸が沈んだ瞬間、彼女の奥底で眠っていた“竜との契約”が目を覚まし、空から白銀竜アークヴァンが降臨。彼はエリーナの涙に激怒し、王宮を半壊させるほどの力で彼女を守る。王国は震え、エリーナは自分が竜の真の主であるという運命に巻き込まれていく。
【完結】白い結婚を終えて自由に生きてまいります
なか
恋愛
––アロルド、私は貴方が結婚初日に告げた言葉を今でも覚えている。
忘れもしない、あの時貴方は確かにこう言った。
「初めに言っておく、俺達の婚姻関係は白い結婚として……この関係は三年間のみとする」
「白い結婚ですか?」
「実は俺には……他に愛する女性がいる」
それは「公爵家の令嬢との問題」を理由に、三年間だけの白い結婚を強いるもの。
私の意思を無視して三家が取り決めたものであったが、私は冷静に合意を決めた
――それは自由を得るため、そして『私自身の秘密を隠すため』の計算でもあった。
ところが、三年の終わりが近づいたとき、アロルドは突然告白する。「この三年間で君しか見えなくなった。白い結婚の約束をなかったことにしてくれ」と。
「セシーリア、頼む……どうか、どうか白い結婚の合意を無かった事にしてくれ」
アロルド、貴方は何を言い出すの?
なにを言っているか、分かっているの?
「俺には君しかいないと、この三年間で分かったんだ」
私の答えは決まっていた。
受け入れられるはずがない。
自由のため、私の秘密を守るため、貴方の戯言に付き合う気はなかった。
◇◇◇
設定はゆるめです。
とても強い主人公が自由に暮らすお話となります。
もしよろしければ、読んでくださると嬉しいです!
侯爵令嬢に転生したからには、何がなんでも生き抜きたいと思います!
珂里
ファンタジー
侯爵令嬢に生まれた私。
3歳のある日、湖で溺れて前世の記憶を思い出す。
高校に入学した翌日、川で溺れていた子供を助けようとして逆に私が溺れてしまった。
これからハッピーライフを満喫しようと思っていたのに!!
転生したからには、2度目の人生何がなんでも生き抜いて、楽しみたいと思います!!!
婚約破棄された宰相です。 正直、婚約者も宰相も辞めたかったので丁度よかったです
鍛高譚
恋愛
内容紹介
「婚約破棄だ! そして宰相もクビだ!」
王宮の舞踏会で突然そう宣言したのは、女性問題を繰り返す問題王太子ユリウス。
婚約者であり王国宰相でもあるレティシアは、静かに答えた。
「かしこまりました」
――正直、本当に辞めたかったので。
これまで王太子の女性問題の後始末、慰謝料交渉、教会対応、社交界の火消し……
すべて押し付けられていたレティシアは、婚約も宰相職もあっさり辞任。
そしてその瞬間――
王宮が止まった。
料理人が動かない。
書類が処理されない。
伝令がいない。
ついにはトイレの汚物回収まで止まり、王宮は大混乱。
さらに王太子の新たな女性問題が発覚し、教会は激怒。
噂は王都中に広がり、王宮は完全に統治不能に。
そしてついに――
教会・貴族・王家が下した決断は、
「王太子廃嫡」
そして。
「レティシア、女王即位」
婚約破棄して宰相をクビにした結果、
王宮を止めてしまった元王太子の末路とは――?
これは、婚約破棄された宰相が女王になるまでの
完全自業自得ざまぁ物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる