“足りない”令嬢だと思われていた私は、彼らの愛が偽物だと知っている。

ぽんぽこ狸

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 ━━━━というわけで、アーベルの罪に対する刑罰自体は軽いものでしたが彼の実家にとってはひどい醜聞です。きちんと再教育を施し、クルメナ伯爵家には絶対に関わらせないそうです」
「そうか、妥当だな」
「マイリスは、治療の為に国の王都を挟んで反対側にある白魔法を扱う貴族の元に向かいました」

 レーナは喜び勇んで、ヨエルに報告に向かった。彼がアドバイスしてくれたおかげで、レーナは自分が賢くなったことを示すことができたのだ。

 そのことにお礼を言うために事情を説明して、改めて言う。

「長い移動や大変な治療を通して自身の事を見つめ直して、これからの人生をどういうふうに生きるか考えるようにと言って送り出しました。良い機会になったと思います」
「……」
「助言と、図書館を利用させていただいて、ありがとうございました。こちらはお礼の品です。ほかにも何か私にできることがあれば教えてください」
「……」

 レーナは、スッキリとした笑みを浮かべて、王都から取り寄せた高級なお菓子を彼に差し出したが、彼は肘をついて口元に手を当ててなんだか考えている様子だ。

 それに、喜んでくれると思ったがあまりに反応が薄い。

 もしかして彼の期待に沿えなかったのだろうか。

 少し不安になったが、ヨエルはお菓子を受け取って、寂しそうな笑みで言った。

「ありがとう。受け取っておこう。……本当はもっと君に協力をしたかったが、今となっては後の祭りだな」
「その気持ちは嬉しいですが、そこまでしてもらうわけには行きません。……あの、うまく言った事を喜んで下さらないのですか?」

 残念そうにいう彼に、レーナも不安な気持ちになって問いかける。彼に何か不都合があることをしてしまったのではないかと思った。

 しかしヨエルは、レーナの心配そうな表情にすぐに首を振って、切り替えた。

「もちろん喜ばしいと思ってる。ここに通い始めたばかりの頃は、口に出して絵本を読んでいるぐらいだったのに、君が家の者に認められたと聞いて嬉しくないわけがない!」
「……では、どうしてそう残念そうなのですか?」

 切り替えてそう言った彼に、レーナはヨエルの本当の気持ちを聞きたくて、さらに問いかけた。

 すると彼は、困ったような顔をしてからレーナの事を見て、それからちらりと周りを見る。

 またレーナの事を見て、結局レーナが真剣に問いかけていると判断したのか観念したように言った。

「……もう、レーナはここに来ないだろう。毎日ここに通っている君と些細なことを話すのが俺は好きだった。本当は助けてやって恩を売って、もっと話す機会を作れるように画策するつもりだったが……君が自立しようとしているのに、それを邪魔するのは醜い事だろう」

 寂しそうにヨエルはつづける。

「こういう場所は、よりどころであって家じゃない。おのずと自分の帰る場所に帰っていく、寂しくても見送らなきゃいけない。気が向いたらまた寄ってくれ。俺は大体ここにいるから」

 そう言って話は終わりだとばかりに立ち上がるヨエルは、いつもの余裕のある様子とは違って、彼が本当にレーナとの別れを惜しく思っているのだと察せられた。

 レーナはよく人の顔色を見て育ってきたので、そのぐらいはわかる。
 
 しかし、そんなふうに彼が傷つくなんて想像もしていないし、何なら急にここに来なくなったりするつもりはない。

 それにレーナだってヨエルと同じだ。

「まって」

 立ち上がって、彼の手を取った。ぎゅっときちんと握ってレーナは屈託なく笑った。

「私は明日も明後日もここに来ます。ずっと来ます」
「……いい、無理しなくても。屋敷でやりたいことがたくさんあるだろ?」
「それもありますけれど私も同じです」
「同じ?」
「はい。あなたと同じです。ヨエル様と話をするのが楽しくて、毎日だって会いたいです。良ければ図書館以外でも……ダメですか?」

 問いかけてみるのに勇気は特にいらなかった。

 ヨエルはその誘いに、救われたような顔をして「ダメなわけないだろ」と笑ったのだった。




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