死にかけ令嬢の逆転

ぽんぽこ狸

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 今日こそは、眠っているうちにフォクロワ大陸魔法協会支部に送られるだろうか。そう考えながら私は、道具箱を開いて、製作途中の魔法道具を広げる。

 私の作る魔法道具は、特別長持ちしたり、特別な魔法が付与されているというわけではない。

 ただ、魔力を留めることができない体質の私でもほんの少し体に残った魔力を使って人の役に立つために、少ない魔力で通常の魔法道具の威力を出せる効率の良い魔法道具を作っている。

 最初は独学でうまくいかなかったが、自分にとってはそれがとても必要な事だったので、それにばかりずっと取り組んでいた。

 そうすると少しずつだが刻む魔法の回路を見つけ出し、今では、ある程度自由に必要な魔力の程度を決めることができるようになっている。

 独自の方法なのでプロの人から見たらおかしなことをしているように見えるかもしれないが、教えてくれる教師を雇うこともできなかったので仕方がない。
 
 魔石に針のように細いニードルで細かな傷を刻んでいく、この紋様が魔法道具の用途や必要な魔力の量などを決めているのだ、これを自由に組み替えることによって、魔法道具は様々な変化をする。

 今作っている物は新しい自分用の物にしようと思っていたが、ここにいて使い道もないだろうし、ヴィンセントに渡してもいいかもしれない。

 ……良くしてくれているお礼に……いいえ、ああ、勘違いしそうになりますが、無償で良くしてくれているわけではないのです、あまり情をうつしすぎないようにしないと。

 隙あらば勘違いしそうになる心に鞭打って、生きたまま四肢を拘束されて腹を開かれている自分を想像してみた。

 いつかこうなる、そのために連れてこられたのだから彼の優しさに恩を感じて情を向けるのはお門違いだろう。

 そう頭の中で考えるけれど、結局作業は進んでいく、慣れきった手元は自分用として使うには魔力の最低反応量が多く強い魔法を使えるものになってしまった。

 ……失敗してしまったから、彼にあげることになりそうです。

 そうわざとらしく頭の中で考えた。自分は随分と白々しい事をする阿呆らしい。

 そんな浮かれた自分の調子にはぁっとため息をついた。するとクラッと眩暈がして、酷い耳鳴りがする。

「グッ、……はぁっ、っ、ぅ、ゔぅ……っ」

 目の前に白いちらちらとしたものが飛び交って、視界の端がキラキラとする。まずいと思って道具から手を放し、ごつっと音を立てて机に突っ伏した。

「ウィンディ様」

 すぐに控えてきたローナがやってきて、私の背中に手を置いてゆっくりと摩る。

 どうやら、考え事をしながら作業をしていたせいで時間を忘れて集中してしまっていたらしい。
 
 あまり長い事、神経を使う作業をするのは私の体では不可能だ。

「っ、はあ……はぁー、っ、ふぅ……すみません。ローナそろそろ、ベッドに入ります」
「ええ、そうしてください」
「はぁーあ、まったくいつになったらこの人は自分の限界を覚えるのかしらね?」

 背後からカミラのそんな声がして、浮かれてしまうのはよくないなと再認識する。軽く道具と魔石を片付けて、ローナの手を借りて車椅子に移動する。

 眩暈の影響で小さく手が震えていて、昼にヴィンセントが温めてくれた手も冷え切ってしまってなんだか寂しい気持ちだ。

 俯いて移動させてもらっていると、またカミラが何かを言おうとしたタイミングで部屋の扉が控えめにノックされた。

「はい、ただいままいります」

 カミラはすぐによそ行きの優しいお母さんみたいな顔をして、来客を確認しに行った。

 その彼女とともに入ってきたのは、今日もヴィンセントのそばにいて、彼の意向をよくくみ取りとても親身に仕えている様子の従者だ。

「……夜分遅くに失礼いたします。ウィンディ様、わたくし、ヴィンセント様に仕えているフェイビアンという者です。以後お見知りおきを」
「はい、知っている通りウィンディです、よろしくお願いします」

 彼は丁寧に頭を下げてそういうが、その手には丁度片腕に収まるサイズの布袋が抱えられていて自然とそちらへ目線が向いてしまう。

 フェイビアンと名乗った彼はとても物腰が柔らかい印象だが、ヴィンセントとは違って私に少し好ましくない感情を向けている様子だった。

「……こちらこそ……それで用件なのですが、主様からこちらを届けるようにと言われてまいりました。活用していただければとのことです」

 彼はそういって、そっと私の膝の上にその布袋を置く。

 活用すると言われてもまったくなんなのか見当もつかないし、もう少し何か説明をしてほしくてフェイビアンを見上げた。

「活用……ですか」
「はい。わたくしはあなたの事を詳しくは存じませんが、これが役に立つだろうと」
「なるほど……」
「それでは、わたくしは主様の元へと戻らなければいけませんので、これで失礼いたします」

 もっと何に使うものなのかという点について詳しく話を聞きたいけれど彼とは、目も合わないし、彼自身が早くこの部屋から去りたいと強く考えていることがわかる。

 なので引き留めることもできずに「はい、届け物ご苦労様でした」と返してその袋に手を乗せる。

 重量的には結構重たい。中に入っている物は固くて重たいものだろうということはわかるが、活用するようにと言われたということは何かの道具だろうか。

 そう考えると、布袋に当てた手がジワリと温かくなって、目を見張った。

「あら、今の態度。やっぱりあなたみたいな使えない若さしか取り柄のない女の事など、物好きな男は好んでも周りは許していないようですよ? やっぱりあなたなんてどこへ行っても━━━━」

 カミラは彼の態度に、それ見たことかとばかりに、意気揚々と私をなじる言葉を言い始める。

 しかし、私は、次第に服を通して腿の上も温かく心地よく感じて、きっと魔法協会が新作で作った新しいベッドの中で使える湯たんぽのような暖房器具に違いないと思う。

 昼にヴィンセントは私が冷えていないかをしきりに心配していたので行動に一貫性もある。

 ……それにしてもどういう回路でこんなふうに心地いい温度にしているのでしょうか、こんなふうに直に体をくっつけても気持ちいいなんて、不思議です。

 それにこれなら体の芯から温まりそう。

 ほっとして手の震えが治まって、やっぱり今日作ったものはヴィンセントにプレゼントをしようと考える。

 そうしてプレゼントをしてしまっても、彼の目的は変わらないだろうし、それでもいい、だから好意にただ少し報いたいと思ってしまったのだった。




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