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43 ないまぜ
しおりを挟むぐるぐるめぐって、ぐらぐらして、もっと簡単な話だと思っていた自分を恥じた。
すべては繋がっていたのだ。過去の事と自分の現状と彼の事は複雑に絡み合ってすべては一本の線になっている。
単純に彼が罪を犯しただけではない。この過去の私の話には父も母も、国の状況も、人々の思惑も絡まって私はこうであった。
その事実は想像していたよりもずっと大きい。
とてもじゃないが突然、話されて納得のいく事柄ではない。
もちろん、理解はできた。話は分かった。自分の記憶としても正しく矛盾がない事は理解できている。
理解できているからこそ事実であるとありありとわかる。
思わず手を伸ばしてくる彼の手に、私は今までの事も、苦しかった事も彼との思い出も、彼の言動も、それ以外の襲撃の事も、こうなった原因もありとあらゆることが頭の中で絡み合う。
呼吸が上がって、それでもその手を取りたいと伸ばしたいと思うのに、その気持ちはそれ以外の大きな気持ちにさいなまれて、揺れ動いて同時に彼に当たり散らして発散してしまいたいような心地がする。
どうするべきか頭で考えているうちに手が触れて、反射的にその手をパンと払う。
「っ、ごめん、ごめんね。俺が全部悪い。君をここまで苦しめたのも、君を巻き込んだのも、君のつらさも全部俺が悪い」
涙でぐしゃぐしゃの顔で彼を見上げる。鼻をすすって、涙を何度も拭う。
「許してほしいなんて言わない、君に俺は一生かけて償っていく、っ、ごめんなさい。君をこんな目に遭わせて、本当に、申し訳なかった。救ってもらってこんな仕打ち、なかった。傷つけて、ごめん」
言い募るヴィンセントもなんだか涙声で、彼だって傷つけられたこと、苦しんでいたことを理解する。
けれどソファを手で押して立ち上がる。
……そんなわけないじゃないですかっ!!
けれどもそんなふうな言葉だけでは済まない問題だと私は思うのだ。明確には出来ない、けれど私と彼の間には、とても大きな壁がある。
ヴィンセントの言葉を無視して、速足で自分の部屋の扉を押し開いて外に出る。
「ウィンディッ!」
後ろから縋るような声が響いて、頭が痛くなるような心地がした。
その声に後ろ髪を引かれるような気持になりながらも私はそのまま、廊下を走った。
暗い廊下は冷え込んでいて寒さが体に染みる。
ヴィンセントの事を愛している。しかしそれだけの状況ではない、彼と私の間の問題はもっと大きい、大きくて複雑で、何もしなくて解決する話ではない。
彼はただきっかけになっただけだ、私が見捨てられるきっかけになっただけで彼は何もしていないに等しい。
問題は私の周りにあったのだ。
私の周りがあらゆる面で私を見捨てていて、その周りの環境にもきっかけとなった彼は責任を感じてすべてを背負って謝罪をしてくれる。
愛して守ってそばにいてくれようとしている。しかしそれは、大きな間違いだ。
悪くないのに彼をおいてきてしまって、可哀想なことをしたと思う。
しかし私は我が物顔で彼に愛しているとは言えない。彼が不当に私のすべてを背負っていることを知っていて、その上から愛情に胡坐をかくだけでは、ただの傲慢だろう。
それをわかっているのに、あなたは悪くないと完璧に言うことはできない。
それは今の話を聞いて気持ちを思い出して、醜い私はヴィンセントも悪いとどこかで思ってしまっている。彼がいなければこの事態は起こらなかったのも事実だと思う。
そしてその矛盾した気持ちを正しく伝える言葉も持ち合わせていないし、気持ちも今は整理がつかない。
だからこそ飛び出したのは正解だった。
私はそのまま、息が切れて頭がくらくらしてくるのを気にせずにエントランスの重たい扉を押し開けて、外に出た。
玄関ポーチの階段を下りて、雪が積もっている場所で、苦しくなってそのまま膝をついた。
ただ今は混乱していて色々な感情と、どうしたらいいのかという混乱した気持ちが前に出て、ここまで走ってきた意味もなくその場で声をあげて泣く。
衝動にかられたそんな行動はバカバカしいと思うのに、とめどなく涙があふれてくる。
……私がつらかったのは、私が苦しんでいたのには、理由があった。私はずっと必死で滑稽で、どうしようもなくて……!!
好きになった人に背負ってもらって、許してあげようなんて思っていてっ……それが出来たら平等だなんて信じていて!!
けれど実際は、違うのだ。
彼にいいよと言って、彼の負い目を認めてそばにいるのは、あまりにも見苦しい。けれどそれ以上に、父や母の行為に対する憎しみと堪えようのない気持ちが私の中で膨らんでいる。
恋しい気持ちも、苦しい気持ちも、すべてを知れたという喜びも、ないまぜになって夜の冬の冷たい空気に息を吐きだす。
知らないままが良かったとは思わない、けれども知りたくなかったとも思う。
矛盾する感情が体を内から引き裂くみたいで、激情で体が熱くてこの寒さが初めて少しだけ心地いいとすら思ったのだった。
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