死にかけ令嬢の逆転

ぽんぽこ狸

文字の大きさ
45 / 56

45 謝罪

しおりを挟む




 私とヴィンセントは馬車に乗って移動していた。過去の出来事を知る前に比べると会話が少なく、馬車の中の空気は重たい。しかし完全に決裂したというわけではない。

 従者たちには何かあっただろうということは先日の私の一連の行動で察されていると思うが、一応日常を取り戻している。

 それに私は、魔力を自分の体にとどめて置けるようになると格段に体調も良くなる。

 お風呂に入っても疲れないし、車椅子を必要とすることもなく散歩もできる。

 そちらの方が話題をさらっていって、いろいろな人たちから、病気が治るのもすぐそこだろうと言われた。目の前にいるヴィンセントも思う所はあれど態度を変えてくるわけではないので、屋敷の雰囲気は悪くない。

「……」
「……」

 しかし二人きりになるとこうして何を話したらいいのかと考えているらしくヴィンセントは少し気まずそうだった。

 そんな調子だったが二人で馬車に揺られて王城に向かう。今日はリオンに会わせてもらうために王城に向かっているのだ。

 ヴィンセントの口利きがあったのも事実だが、リオンが、私に会いたいと意識を取り戻してすぐに言ったらしい。それに、リオンのつけていた魔法道具について聞きたいこともあると。

 丁度、私もその件で話が合った。
 
 だからこそ出来るだけ急いで向かうことになったのだった。


 王城に到着すると警戒した様子の騎士たちに見守られながら城へと入る。
 
 私はてっきりすぐにリオンに会えるものだと思っていたが、応接室へと案内されて、そこにはグレゴリー国王陛下とドローレス王妃殿下、それからオリアーナの姿もあった。

「ご無沙汰しております、国王両陛下。要望の通り、ウィンディを連れてきました」
「おう、来たな、ヴィンセント」
「よく来たな、ヴィンセント。それからウィンディ、そらそちらに掛けなさい」

 ヴィンセントの言葉に、オリアーナが一番最初に反応し、それからグレゴリー国王陛下が好々爺のような顔をして自分たちの前のソファを指し示す。

 私はそのフランクな様子に、少し面食らってしまって、瞳とパチパチと瞬いた。

 しかし、その言葉を無視するわけにはいかないので、ヴィンセントの後ろをついていって、座る前に淑女礼をした。

 魔力を取り戻す前に比べるとこのお辞儀も随分と簡単にできる。

「お初にお目にかかります、メンリル伯爵家令嬢のウィンディと申します」
「知っていますよ、ウィンディ。初めまして、私たちは今日、君に言っておかなければならない事があり君を呼びました」

 グレゴリー国王陛下の隣にいるドローレス王妃殿下は私の挨拶に、一つ頷いてそれから真剣な瞳で私を見据える。

 ドローレス王妃殿下だけではなく、グレゴリー国王陛下もそしてオリアーナも同じように私に視線を向けている。

「言っておかなければならない事……ですか」
「ああ、もちろん本来であればもっと以前に言っておくべきであった話なのだが、事情を漏らさないためにも秘匿事項として扱っていたのだ」

 ソファに腰かけ、話し出したグレゴリー国王陛下の言葉に、先日の話を聞いたうえでまだ私に知らない事があったのかと驚いた気持ちになる。

 何かまた、悪い話なのだろうか、そう予想して少し身構えた。

「しかし、リオンがわしの元へと戻ることができ、わしらは覚悟を決めることができた。もう、其方に話をしてもよいころ合いだろう」

 その話はリオンが戻ってきたことと何か関係があるらしく、彼らの表情は穏やかで、現在進行形の問題の話ではないのだと思う。
 
 その様子に少しホッとして私は「謹んでお聞きします」と言葉を返した。

 すると、私のはっきりとした返事にグレゴリー国王陛下は小さく頷いて口を開く。

「話というのは、其方の婚約の事じゃ、すでに娘のリオノーラがロットフォード公爵家に正式に嫁入りをした。しかし本来であれば、ウィンディ、其方のいたはずの立場だったであろう」
「……はい」
「その立場を不当に奪い取るような形で娘とロットフォードの縁をつなぎ、其方を追いやってしまった事、これはわしらの罪じゃ。其方の望むままの保証をすると誓おう」
「保証ですか……」
「ええ、その通りです。私たちは……ロットフォード公爵家を欺くためにどうしてもあの子を嫁がせる必要がありました。しかしそれによって犠牲になってしまった君にはきちんとした措置をする必要があると思っています。

 当面の生活については、問題がないとベルガー女辺境伯からは聞き及んでいたので、このタイミングになりましたが、受け入れてくださいますか、ウィンディ」

 この国のトップである二人からそんなふうに言われて受け入れないなんて言うはずもないし、私には何も損のない話だ。もちろん受け入れさせてもらおうと思う。

 しかし、それでも彼らの言い方が引っかかって、失礼にならないように、私は慎重に言葉を選んで聞いた。

「それはもちろん、構いません。むしろうれしい限りです。……しかし、ロットフォード公爵家を欺くためというのはどういうお話でしょうか、リオオーラ王女殿下は間違いなく降嫁されたのではありませんか?」
「……その通りです。しかし、欺くというのは私たちの方向性についてです。リオノーラに会った事はありますか? ウィンディ」
「はい、婚約破棄を言い渡される際に、一度。とても美しい方でした」
「ええ、美しくそして、人の気持ちを考慮できないいつまでも幼い少女です。あの年になってもあの子は目先の利益にしか興味がなく自分本位な生き方しかできない。

 もちろん教育を施したのは私たちで責任はあると感じています、あの子は元から根強くそういう性質を持っていただけなのかもしれない、どちらもこうなった原因かもしれませんし、片方だけかもしれません。

 しかし、ともかく王族として彼女は相応しくない。

 魔薬を普及させて出た利益で、自らだけが得をすればそれでいいというような考えを私たちでは変えることができませんでした」
「だからこそ、本人の望むがまま、彼らの元へと嫁がせることにしたのじゃ。そして、赤子ままにさらわれたリオンを取り返し、我々はロットフォード公爵家を魔法協会とともに制圧するつもりじゃ」
「彼女を嫁に入れ、リオンを人質に取っているときと同じか、それ以上に私たちが動けないし、動くつもりもないと彼らは思っているでしょう。そこをつく作戦だったのです。巻き込んでしまって、迷惑をかけましたウィンディ」

 私は随分と思いきっている彼らの行動に、見捨てられるリオノーラの事を思い出してみる。
 
 彼女は王族がロットフォードに牙を向けた途端に脅しの材料として使われて命の危機に陥るかもしれない。

 しかし、私から見てもリオノーラはとても喜んでロットフォード公爵家に嫁に入ったように見えた。両親ともどもそういうふうに思うのならばそういう人間なのだろう。

 私が心配してもいい事はないと思う。

 なにはともあれ、これで婚約破棄をされた事情までもスッキリと分かった。

 そしてそれを決行したとても偉い立場の二人にもきちんと謝罪をもらった。それで私のあの日の悲しみはチャラにできるだろう。

「……そういう事だったんですね……複雑な気持ちはありますが、誠意のある対応をしてくださって嬉しいです。謝罪の気持ち受け取らせてもらいました」
「そうか、納得してもらえたようで何よりじゃ、それからもう一つ、別の話もあるのだが」

 笑みを浮かべて返答をすると、グレゴリー国王陛下も少し表情をやわらげて、次の話に移ろうとする。しかし私は予め、彼らに会って直談判しようと思っていた内容を思い出して口にする。

 ……リオノーラもまとめて制圧しようと思っていたならこれ以上の好機はありません。

 私のやるべきことはお二人の協力が必須なのですから。

「その前に、私のお話を聞いていただけますか、ロットフォード公爵家の者たちを確実にとらえ正当なる罰を下すために、私は提案したいことがあるのです」

 その予想外の言葉に、彼らの間に少しの緊張が走って、隣にいたヴィンセントは口出しこそしなかったものの動揺している様子だ。

 グレゴリー国王陛下の視線は少し厳しく、こちらを見極める様なものに変わる。

 それもそのはず、ほんの少し前まではうつむいて車椅子に乗り、他人に押してもらって無気力にしていた私が、こんなことに首を突っ込んで何ができるというのか誰かの差し金か。

 そう警戒するのは当たり前だろう。

 しかし、そうではない、ああして捨てられて、あそこにいた私だからこそ出来ることがある。

「ほう、聞いておこう」
「はい、私はロットフォード公爵家で━━━━」

 見極めるようにそう聞いた彼に、私は静かに自分だけがやれる作戦の内容を放し始めた。

 途中でやはりヴィンセントに止められたけれど、ヴィンセントをオリアーナが諫めて、私の作戦を彼らは採用することを約束してくれた。

 その選択を後押ししたのは私がリオンに作った魔法道具の事があったからであった。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢

さら
恋愛
 名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。  しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。  王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。  戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。  一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。

ご褒美人生~転生した私の溺愛な?日常~

紅子
恋愛
魂の修行を終えた私は、ご褒美に神様から丈夫な身体をもらい最後の転生しました。公爵令嬢に生まれ落ち、素敵な仮婚約者もできました。家族や仮婚約者から溺愛されて、幸せです。ですけど、神様。私、お願いしましたよね?寿命をベッドの上で迎えるような普通の目立たない人生を送りたいと。やりすぎですよ💢神様。 毎週火・金曜日00:00に更新します。→完結済みです。毎日更新に変更します。 R15は、念のため。 自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)

私が、良いと言ってくれるので結婚します

あべ鈴峰
恋愛
幼馴染のクリスと比較されて悲しい思いをしていたロアンヌだったが、突然現れたレグール様のプロポーズに 初対面なのに結婚を決意する。 しかし、その事を良く思わないクリスが・・。

狂おしいほど愛しています、なのでよそへと嫁ぐことに致します

ちより
恋愛
 侯爵令嬢のカレンは分別のあるレディだ。頭の中では初恋のエル様のことでいっぱいになりながらも、一切そんな素振りは見せない徹底ぶりだ。  愛するエル様、神々しくも真面目で思いやりあふれるエル様、その残り香だけで胸いっぱいですわ。  頭の中は常にエル様一筋のカレンだが、家同士が決めた結婚で、公爵家に嫁ぐことになる。愛のない形だけの結婚と思っているのは自分だけで、実は誰よりも公爵様から愛されていることに気づかない。  公爵様からの溺愛に、不器用な恋心が反応したら大変で……両思いに慣れません。

最愛の人と弟だけが味方でした

柚木ゆず
恋愛
 密かに恋をしていた人・エザント商会の跡取りユリスから告白をされた、アリシア。そんな彼女の家には、アリシアが気に入ったものだけを欲しがる妹のサーシャと、そんなサーシャを可愛がる両親がいました。  そのため様々な迷惑がかかってしまうからと、アリシアは心の中で泣きながら告白を断ってしまいます。  せっかく両想いだと気付けたのに、断らないといけなかった……。アリシアは部屋に閉じこもって落ち込んでいましたが、ユリスはアリシアの態度に違和感を覚えていて――。  体調の影響により(しっかりとお返事できる量に限りがありますため)一時的に、完結したお話の感想欄は閉じさせていただいております。

自業自得じゃないですか?~前世の記憶持ち少女、キレる~

浅海 景
恋愛
前世の記憶があるジーナ。特に目立つこともなく平民として普通の生活を送るものの、本がない生活に不満を抱く。本を買うため前世知識を利用したことから、とある貴族の目に留まり貴族学園に通うことに。 本に釣られて入学したものの王子や侯爵令息に興味を持たれ、婚約者の座を狙う令嬢たちを敵に回す。本以外に興味のないジーナは、平穏な読書タイムを確保するために距離を取るが、とある事件をきっかけに最も大切なものを奪われることになり、キレたジーナは報復することを決めた。 ※2024.8.5 番外編を2話追加しました!

【完結】地味な私と公爵様

ベル
恋愛
ラエル公爵。この学園でこの名を知らない人はいないでしょう。 端正な顔立ちに甘く低い声、時折見せる少年のような笑顔。誰もがその美しさに魅了され、女性なら誰もがラエル様との結婚を夢見てしまう。 そんな方が、平凡...いや、かなり地味で目立たない伯爵令嬢である私の婚約者だなんて一体誰が信じるでしょうか。 ...正直私も信じていません。 ラエル様が、私を溺愛しているなんて。 きっと、きっと、夢に違いありません。 お読みいただきありがとうございます。短編のつもりで書き始めましたが、意外と話が増えて長編に変更し、無事完結しました(*´-`)

【完結】堅物な婚約者には子どもがいました……人は見かけによらないらしいです。

大森 樹
恋愛
【短編】 公爵家の一人娘、アメリアはある日誘拐された。 「アメリア様、ご無事ですか!」 真面目で堅物な騎士フィンに助けられ、アメリアは彼に恋をした。 助けたお礼として『結婚』することになった二人。フィンにとっては公爵家の爵位目当ての愛のない結婚だったはずだが……真面目で誠実な彼は、アメリアと不器用ながらも徐々に距離を縮めていく。 穏やかで幸せな結婚ができると思っていたのに、フィンの前の彼女が現れて『あの人の子どもがいます』と言ってきた。嘘だと思いきや、その子は本当に彼そっくりで…… あの堅物婚約者に、まさか子どもがいるなんて。人は見かけによらないらしい。 ★アメリアとフィンは結婚するのか、しないのか……二人の恋の行方をお楽しみください。

処理中です...