54 / 56
54 その後
しおりを挟む彼らが捕らえられてから、私とヴィンセントはそれなりに忙しくなった。一人一人の罪を確定させるための聴取に参加したり、自分自身のその後の立場はどうなるのかという問題。
いろいろと話し合ったりやるべきことが多かった。
レイベーク王国自体も混乱していて、多くのロットフォード公爵家の派閥に属していた貴族が捕らえられ、新たに分けられる領地の采配に揉めだすところもあった。
それにロットフォード公爵家が魔薬を仕入れていた国との調整に当たる必要があったりと国全体でも忙しない空気が漂っている。
例年通りならば、ゆったりと家族で過ごす年の瀬の催しも忙しなく行われて国全体が魔薬の排除のために動いている。
しかしそれも王家が着々と準備を進めていた甲斐があってか、落ち着きを見せ始めているのが現状だ。
最終的にロットフォード公爵家の人々は、もれなく魔薬の密輸密売で国家転覆をはかったと判断されて極刑の判決が下った。
それ以外の彼らから魔薬を受け取り販売していた貴族たちは爵位と領地を没収され投獄、子供世代……つまり私の兄のジャレッドやミリアムは親戚筋の下級貴族の元へと養子に入ることになった。
父と母への魔法道具はきちんと届けられ、彼らはこれからの長い投獄生活で私と同じ思いをしながら生きていくことになる。
そんなことで心の底から私の事をなんとも思っていない父と母が改心するなんて言う希望は考えていない、私はただ、仕返しをしたという事実があればそれでいいのだ。
ジャレッドやミリアムもこれからは楽には生きられないだろうと思う。
私が作った魔法道具は、魔力増強の効果が強すぎて魔力が成長する子供の間からずっとつけていると魔力がろくに育たないどころか、あまりにも使用割合が少ないせいで減退してしまうらしい。
彼らはそろってその傾向が強く魔力が随分と少なくなってしまった。
まさかあんなに趣味だ、使えない、意味がないと言っていた私の魔法道具をそんなにヘビーに使っていたとはまったく思いもよらない事だったが、楽をし続けた結果そうなったというのなら自業自得だ。
その性質を背負って生きていってほしいと思う。
そう結論づけつつも、私はふうっと息をついて投獄されている父や母の報告書へと視線を向ける。
彼らは、私ならばこの状況から自分たちを救い出すはずだと思っている様子で、しきりに私にコンタクトを取りたがっているという内容の報告書だ。
もちろん会いに行く気はない、ただ一応確認しているだけだ。
私の今の状況は、ヴィンセントが初めてここに連れてきたときに手配してくれたように、ベルガー女辺境伯の養子ということになっていて、彼らとは産みの親だという以外はなんの関係もない。
だからこそ私は罪に問われることはなかったし、唯一罪から逃れた私に彼らは一縷の希望を感じているが、あの人たちがしたように、私も彼らを助けられるけれど助けたりしない。
そう考えつつも報告書を置いて顔をあげると丁度、部屋にフェイビアンがやってきて、彼は私の元までやってきて手にしていた書類つづりを私に差し出した。
「主様の確認が終わったのでロットフォード公爵家の聴取や報告についてお持ちいたしました」
「はい、ありがとうございます」
今度は追加でロットフォード公爵家の人間の報告も届いたようだ。
ヴィンセントは自分の執務室で忙しく仕事をしているが、私がこれを読みたがっているだろうと早く確認して回してくれたのかもしれない。
最近は二人だけのゆっくりとした時間を設けられていないし、お互いに対処することが多く、そこうしてフェイビアンが書類を届けてくれることがままあった。
「では、わたくしはこれに失礼します」
いつもならそう言った彼にはヴィンセントの元に戻ってやるべきことがたくさんあるだろうからと声をかけないのだが私は、つい呼び止めた。
「フェイビアン……ヴィンセントは今日も忙しそうですか」
それから少し恥ずかしいけれど彼の様子を聞く。
彼はヴィンセントのそばを離れず、ずっと仕えているので彼に聞けば今日のこの後の仕事の様子がわかるだろう。
本当は本人に確認することが好ましいのだが、私が彼の元に直接行くのは邪魔になってしまわないかという気持ちもある。
なのでフェイビアンを見てつい聞きたくなってしまったのは仕方のない事だと思う。
「はい。主様は相変わらずです、もとより少なくない仕事量でしたから数週間は忙しない日々が続くと思っています」
私の言葉に笑みを浮かべて丁寧に返してくれる彼は、ここに来た当初よりも随分と柔らかい表情を浮かべていて、私に対する忌避感はない。
特定の出来事があってこうなったというよりは、少しずつ生活をしていく中で仲を深めることができた。ほかの従者たちも同様で、この屋敷にも随分住み慣れた。
そのことが、好意的に接してくれるフェイビアンを見るとなんだか感慨深く感じる。
「けれど、少しでもウィンディ様との時間を作るために今も、努力されていますから、ぜひ、誘いがあった時には、応えてくださるとうれしいです」
続けて言われた言葉に、私は少し驚くけれどそれはもちろんだと思う。
「もちろんです。教えてくださいってありがとうございます」
「いえ……わたくしはただ、お二人が仲睦まじくあればいいなと思っているだけですから」
そういってフェイビアンも仕事が立て込んでいるのか、私の返答を聞かずにそのまま小さくお辞儀をして去っていく。
たしかに少しずつ気を許してもらっているとは思っていたが、そんなふうに彼に思ってくれていたとは思わなかった。
「フェイビアン様は良い事をおっしゃいますね。私も同じように思っていますよ、ウィンディ様、早くお誘いが来るといいですね」
「ウィンディ様も仕事は出来るだけ早く片付けて、いつでもヴィンセント様と会えるようになさってますもんね!」
彼の言葉を聞いた侍女たちがうれしそうにそう言って、リビーの言葉にばれていたかと少し羞恥心が湧いてくる。
……いつでも……というか一応です、一応……そういうふうに心掛けているだけで……。
心の中で言い訳をするけれど、事実そうなのだからそんなことをしてもあまり意味はない。
特にそばにいてくれる彼女たち相手では取り繕う必要もないのだ。
あきらめて笑みを浮かべ、私はリビーの言葉に頷いた。
「そう、はっきりと言われると羞恥心が勝ちますが、その通りです。早くいろいろなことが落ち着いて、二人の時間をもてるといいのですが……」
ロットフォード公爵家をとらえても突然平和になって何もかも普段通りに、とはいかないものだと改めて思う。
状況を変えるために動けば、それに付随して色々な事情が起こってくる。それに何とか対処をして行って、国はスローペースで良くなっていく。
結局少しずつしか変わらないのだ。しかしその変化は着実で私がこの屋敷に慣れて自分の帰る場所だと思えたように少しずつ前進している。
そのことを忘れずに日々を大切に生きていくことが大事なのだと思うのだった。
130
あなたにおすすめの小説
私が、良いと言ってくれるので結婚します
あべ鈴峰
恋愛
幼馴染のクリスと比較されて悲しい思いをしていたロアンヌだったが、突然現れたレグール様のプロポーズに 初対面なのに結婚を決意する。
しかし、その事を良く思わないクリスが・・。
【本編完結済み】二人は常に手を繋ぐ
もも野はち助
恋愛
【あらすじ】6歳になると受けさせられる魔力測定で、微弱の初級魔法しか使えないと判定された子爵令嬢のロナリアは、魔法学園に入学出来ない事で落胆していた。すると母レナリアが気分転換にと、自分の親友宅へとロナリアを連れ出す。そこで出会った同年齢の伯爵家三男リュカスも魔法が使えないという判定を受け、酷く落ち込んでいた。そんな似た境遇の二人はお互いを慰め合っていると、ひょんなことからロナリアと接している時だけ、リュカスが上級魔法限定で使える事が分かり、二人は翌年7歳になると一緒に王立魔法学園に通える事となる。この物語は、そんな二人が手を繋ぎながら成長していくお話。
※魔法設定有りですが、対人で使用する展開はございません。ですが魔獣にぶっ放してる時があります。
★本編は16話完結済み★
番外編は今後も更新を追加する可能性が高いですが、2024年2月現在は切りの良いところまで書きあげている為、作品を一度完結処理しております。
※尚『小説家になろう』でも投稿している作品になります。
偽りの婚姻
迷い人
ファンタジー
ルーペンス国とその南国に位置する国々との長きに渡る戦争が終わりをつげ、終戦協定が結ばれた祝いの席。
終戦の祝賀会の場で『パーシヴァル・フォン・ヘルムート伯爵』は、10年前に結婚して以来1度も会話をしていない妻『シヴィル』を、祝賀会の会場で探していた。
夫が多大な功績をたてた場で、祝わぬ妻などいるはずがない。
パーシヴァルは妻を探す。
妻の実家から受けた援助を返済し、離婚を申し立てるために。
だが、妻と思っていた相手との間に、婚姻の事実はなかった。
婚姻の事実がないのなら、借金を返す相手がいないのなら、自由になればいいという者もいるが、パーシヴァルは妻と思っていた女性シヴィルを探しそして思いを伝えようとしたのだが……
【完結】断頭台で処刑された悪役王妃の生き直し
有栖多于佳
恋愛
近代ヨーロッパの、ようなある大陸のある帝国王女の物語。
30才で断頭台にかけられた王妃が、次の瞬間3才の自分に戻った。
1度目の世界では盲目的に母を立派な女帝だと思っていたが、よくよく思い起こせば、兄妹間で格差をつけて、お気に入りの子だけ依怙贔屓する毒親だと気づいた。
だいたい帝国は男子継承と決まっていたのをねじ曲げて強欲にも女帝になり、初恋の父との恋も成就させた結果、継承戦争起こし帝国は二つに割ってしまう。王配になった父は人の良いだけで頼りなく、全く人を見る目のないので軍の幹部に登用した者は役に立たない。
そんな両親と早い段階で決別し今度こそ幸せな人生を過ごすのだと、決意を胸に生き直すマリアンナ。
史実に良く似た出来事もあるかもしれませんが、この物語はフィクションです。
世界史の人物と同名が出てきますが、別人です。
全くのフィクションですので、歴史考察はありません。
*あくまでも異世界ヒューマンドラマであり、恋愛あり、残業ありの娯楽小説です。
次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢
さら
恋愛
名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。
しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。
王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。
戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。
一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。
狂おしいほど愛しています、なのでよそへと嫁ぐことに致します
ちより
恋愛
侯爵令嬢のカレンは分別のあるレディだ。頭の中では初恋のエル様のことでいっぱいになりながらも、一切そんな素振りは見せない徹底ぶりだ。
愛するエル様、神々しくも真面目で思いやりあふれるエル様、その残り香だけで胸いっぱいですわ。
頭の中は常にエル様一筋のカレンだが、家同士が決めた結婚で、公爵家に嫁ぐことになる。愛のない形だけの結婚と思っているのは自分だけで、実は誰よりも公爵様から愛されていることに気づかない。
公爵様からの溺愛に、不器用な恋心が反応したら大変で……両思いに慣れません。
ご褒美人生~転生した私の溺愛な?日常~
紅子
恋愛
魂の修行を終えた私は、ご褒美に神様から丈夫な身体をもらい最後の転生しました。公爵令嬢に生まれ落ち、素敵な仮婚約者もできました。家族や仮婚約者から溺愛されて、幸せです。ですけど、神様。私、お願いしましたよね?寿命をベッドの上で迎えるような普通の目立たない人生を送りたいと。やりすぎですよ💢神様。
毎週火・金曜日00:00に更新します。→完結済みです。毎日更新に変更します。
R15は、念のため。
自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)
かりそめの侯爵夫妻の恋愛事情
きのと
恋愛
自分を捨て、兄の妻になった元婚約者のミーシャを今もなお愛し続けているカルヴィンに舞い込んだ縁談。見合い相手のエリーゼは、既婚者の肩書さえあれば夫の愛など要らないという。
利害が一致した、かりそめの夫婦の結婚生活が始まった。世間体を繕うためだけの婚姻だったはずが、「新妻」との暮らしはことのほか快適で、エリーゼとの生活に居心地の良さを感じるようになっていく。
元婚約者=義姉への思慕を募らせて苦しむカルヴィンに、エリーゼは「私をお義姉様だと思って抱いてください」とミーシャの代わりになると申し出る。何度も肌を合わせるうちに、報われないミーシャへの恋から解放されていった。エリーゼへの愛情を感じ始めたカルヴィン。
しかし、過去の恋を忘れられないのはエリーゼも同じで……?
2024/09/08 一部加筆修正しました
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる