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35 襲撃者
しおりを挟むベットに移動して、アルフと二人で眠っていると、ふとアルフが起きた気がしてエリアナは眠い目をこすって、まさか夜泣きでもするのかと不安になった。
とても傷ついていた様子だったし、人間の子供のように泣き出すかもしれない。
そうなったら大変だと思い、大きな声で泣き出す前に慰めて寝かしつけようと手を伸ばした。
しかし、アルフはとても落ち着いた声で耳をピコピコとさせ言った。
「へんなおと」
「……へん?」
「うん。こんな時間に誰か村の外を通ってる」
「……ん……そういう夢でも見たの……」
彼は昼に変なにおいと言って、家族の事を嗅ぎ分けた。しかしそれはエリアナが知りたい情報ではない。それなら今回もそうだろう。
彼はほかの獣人や人間よりもずっと鼻も耳もいい。
多くの事をいち早く察知してくれる優秀な護衛だ。
しかし、だからどういうことなのかということは、知能が低いのでエリアナが正しく判断しなければアルフの能力は無駄になってしまう。
そういう緊張感をもって接しているがなんせ寝起きで頭がぼんやりしていた。
「ちがうよ。馬のひずめの音がうるさいから起きたんだ!」
「…………うーん」
……馬の蹄……誰かが通って、アルカシーレ帝国に向かってる?
でも、たしかに、それにしてもこんな時間に移動するなんて……変なの。夜は魔獣も活発になるし視界も悪い。襲ってくださいって言ってるようなものだ……よ、ね。
よっぽど力に自信があって……急いで向かう必要があって……身分を隠すみたいに村の外を通るなんて……それって……。
エリアナはそこまで考えてがばっと起き上がった。
「や、夜襲!」
「え? なぁに? エリアナさま、やしゅー?」
「あ、ああ、まずいまずい、絶対そうだっ」
寝台から飛び出して、侍女用の部屋につながっている扉を強めにノックする。
その間にも外に出るための一番着やすいドレスを出して、自分で水差しから水を注いでコップ一杯の水をごくごくと飲み干す。
すると頭がすっきり冴えて、次にやるべきことを思い浮かべた。
「アルフ、よく気が付いてくれたね。リオ王子殿下の一行は、日が暮れてからの移動は危ないからって事で、この村の少し手前で野営してるんだよ。もちろんお抱えの騎士が沢山そばにいるだろうけど、何かあってからじゃソラリア王国の威信にかかわる!」
「え? へっへっ、何々? 褒めてくれる?」
「うん、とってもいいこ! アルフ」
「エリアナお嬢様っ何か、非常事態でしょうかっ」
アルフの頭をこれでもかと撫でまわし喜んで前足をあげてエリアナにとびかかってくる彼をぎゅっと抱きしめる。
猛烈に褒められてアルフは興奮してエリアナに体をこすりつけて同じようにハグをしそれから尻尾をぶんぶんと振り回しながら、喜びまくって残像が出来るほどぐるぐると回りだした。
そんなアルフとは違って、ディーナは冷静にエリアナに問いかけつつやってくる。
髪を簡単にくくって、肩にかけているストールをクリップでとめた。
「アルフがこの村の外を移動している馬の蹄の音を聞いたみたいなんです。この先にいるのはリオ王子殿下の一行でしょう。この村以降は私たちも警戒していて襲える機会が少なくなる。そう考えれば今夜、襲撃するのが一番勝率が高い」
「なるほど、効率的に考えるとたしかにそうなります。しかしどうなさりますか? ただの急ぎの旅のものという可能性もあります。クリフォード公爵や村のものにも協力を仰ぎますか?」
話をしつつも、ディーナに着替えさせてもらいエリアナも問題はそこかと考える。
一人でアルフを連れて馬に乗って謎の通行人を追いかけることもできる。
しかし、もし相手が大所帯だったらエリアナとアルフが参戦したところでリオ王子を助けられないかもしれない。
けれど、大事にしてこんな日も登っていない時間に村全体を叩き起こし、準備を整えて出発するのは出来ない事ではないが、多くの人の負担になるだろう。
これで間違いでしたとなったら、そういう横暴はいかがなものかと言われるに違いない。
「もちろんこの村を守るためにやってきたのですから、間違っていても文句は出ないと思いますが……」
「よし分かった、じゃあ、ちょっと頑張ってみる」
しかしこのまま判断しあぐねてまずは父に相談して次に村長と話をしてなんてことをするのだけは一番、間抜けな選択だろうと思う。
アルフは村の外を人が通っているといった、それならばまだ遠くには行っていないはずだ、ならばエリアナの力を役立てることができる。
「……」
手を組んで、エリアナは何とか気張った。距離的に少し厳しい可能性があったが、それでもここで使えなければエリアナは役立たずになってしまう。
……そもそも普段から使いどころがないんだからこういう時ぐらいは、役に立たないと!
ぐっと手を握ってさらに魔力を強く込める。アルフが感じた通行人の正体まではわからなくとも、その探し物の数ぐらいは把握できる。
人数が少ないならエリアナとアルフだけが向かったって問題ないだろうし、最悪本当にただの通行人だったとしてもいらぬ気苦労だったということにできる。
しかし探ってみても随分、コベット村から離れてしまっているのか、魔力をいきわたらせてみても足取りが終えない。
「んん゛~!」
組んでいる手に力を込めて手がプルプルと震えた。するとやっとコベット村から少し離れた位置に移動している光の柱が見える。
それらは数人といった様子ではなく十人以上は確実にいる、いち早くこの場所から離れるために馬を走らせている。
さすがにこれでただの通行人ということはないだろう。
そこまでわかってからエリアナは、集中して魔力を使いすぎて眩暈がしてその場に座り込んで大きく息をついた。
「っ、はぁ~……ディーナ、間違いなく襲撃者みたい。十五人はいたかな、すぐに村長とお父さまたちを起して、私は先にアルフと馬に乗って現場に向かうから!」
魔力切れを起こしているわけではないので、疲労はすぐに回復してエリアナはアルフにハーネスを装着してリードはつけずに、すぐにディーナとともに部屋を出た。
「わかりました。お嬢様、アルフどうか気をつけて」
「はい」
「ワンッ」
防具などをつけている暇もないので一応、護身用として短剣を懐に入れエリアナはアルフを連れて廊下を駆け抜ける。
「エリアナさま! エリアナさま! 俺なにすればいいの? なにするの?」
「アルフはとにかく走って、私は馬に乗るから……そうだ、ぶつかったりしたら危ないからこれつけよう」
「光るやつだ~!」
エントランスの扉を開けつつ、エリアナはアルフのハーネスにくっついている光の魔法道具を使って彼をぴかぴかと光らせる。
こんな時間に馬に乗って松明をもって走らせる技術などエリアナにはない。
だからこそ彼を先行させて後を追うような形にすれば、エリアナでもある程度の速度で馬を走らせることができるだろう。
扉を開けると、屋敷を守るために不寝番をしていた兵士が驚いた様子でこちらを見た。
「……お、お嬢さま、どうされたんです」
「合流するはずのリオ王子殿下の一向に危機が迫っています、父や母、兵士たちも後から出発するはずですのでその手伝いをお願いします。あといま、すぐに動かせる馬を借りていきますね」
「は、はいっ。仰せの通りに」
厩舎に向かって、いざというときの為に鞍をつけて用意されている馬に乗り、駆け出したアルフの後を追うように走らせる。
……乗馬の授業は一応受けていたけど、やっぱり視線が高くて結構揺れるっ。
駆け出したアルフは弾丸のように早く、ハーネスがびかびかと光っているのであたりの視界の悪さは気にならない。
しかし周りの景色がどの程度の速さで流れていっているのかわからないので、落ちたらどうなるのだろうと考えるとぞくっとする。
手綱を強く握って、馬の背に体を密着させて、風切り音を感じながらアルフだけを視界にとらえて余計なことを考えないように必死で襲撃者を追いかけたのだった。
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