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しおりを挟むシャロンはカインに当てて手紙を書いた。内容はフレドリックの事についてだ。ギデオンからの依頼の件もある、報告をどんな風にするにしろすべての事柄について明らかにしてからの方がいい。
だから出来るだけ早く真相を探さなければならない。フレドリックとそれなりに交流のあったカインならば、何か情報をまだ持っているかもしれないので、それについての協力要請だ。
シャロンが知りたいのはエディーの母親の失踪についてだが、それとフレドリックがつながっているのは明白だ。なんせエディーの母親であるセシリーはフレドリックを養子に貰って、クロフォード公爵の地位を継承させた直近に失踪している。
まったくの無関係とはいえないはずだ。そこがカインから何かわかればいい。
さらさらと手紙をつづりつつ、シャロンは一つため息をついた。
こんな彼のためみたいな事を想って手紙を書いているが実際は、シャロンは自分の為に動いているのではないかと思ってしまう。
「……」
どうあっても幼くして捨てられたエディーとその庇護者セシリー、シャロンに急に会えなくなってしまったユーリ。この関係が何の因果か似通ってしまっていて、エディーの言うことも正しい。
シャロンは後先考えずに、ユーリを愛した。そして限定的な期間で勝手に去って、放ってしまったそれをエディーは偽善だといったし、初めから愛されなければとも思ったのだろう。
捨てるのなら愛してなんて欲しくなかったのだろう。
だから、きっとエディーは同じ立場に立って昔の自分自身のゆく当てのなかった気持ちを可哀想な子を偽善的に助けることによって復讐してる。それを自覚しているのか、いないのか分からないけど矛盾がその証拠だろう。
彼の言っていた教えてるなんて言葉はただの体裁だ。
でも、もし途中で愛情を打ち切るようなことをするようなつもりでは、無かったのだとしたらどうだろうか。
期間限定でも愛されたことは、彼のなかで大切な記憶になるのではないだろうか。
そして、とても浅ましい考えだが、また居なくなるかもしれないシャロンがユーリに寄り添うのも許されるような気がするのだ。
最後まで、ユーリを愛しきれないのだとしても、綺麗な感情だけで接することが出来なくても、今を望むことを許される気がする。
だからこれは自分のための贖罪だ。またシャロンが捨てられるのだとしても、シャロンはもう悔やんだりはしない。
……実際問題、エディーはきっと愛情を打ち切ることはしても、私が生活基盤がないまま放り出したりするような人じゃないと……思うんだ。
慰謝料が入っているという話も聞くし、それについてはシャロンに渡してくれるという話も出ている。
今までは、それもクロフォード公爵家の資産として扱っていいという話をしていたが、そこから少し貰って平民の住む区画にでも家を買って隠れ住めば、もしかすると何とかユーリと会えるような日々を過ごせるかもしれない。
しかし、懸念事項もある。オリファント子爵家の事だ。今のところ何事もなく日々を過ごせているが、事が動いてシャロンが捨てられたら、また金の生る木を手放すまいとシャロンをとらえるために動くかもしれない。
むしろ今が静かすぎるぐらいなのだ。
彼はたまにアグレッシブなクズっぷりを発揮する。元より、遊びすぎで浪費癖のある父が元凶でオリファント子爵家には残り僅かも資産がなかった。
王族に詰められて、日々の収益を慰謝料を返すのに使っているとすれば相当困窮しているはずだ。
……エディーのもとから離れるときは、慎重にならないといけないよね。
考えつつも手紙を書き終えて、シャロンは蠟封をして机の隅に置いた。これを送って探し求めた真相がシャロンの望むものではないかもしれない。
それでも、シャロンにしかできない事もある。カインの話でヒントを得て、エディーを過去から解放してあげられたら、こんな浅ましい自分でも認めてあげられるような気がしていた。
何度か手紙のやり取りをして、カインとフレドリックの関係は案外、深い仲であったことが分かり、そして真相も彼は知っていて心に秘めているらしかった。
それを手紙で軽々しく書くのはフレドリックやセシリーを貶める行為につながる可能性があると彼は言って、このクロフォード公爵邸に直接、話をしに来るという約束になった。
当日までにエディーに話を通し二人して、カインを待っていた。人の出の多い休日の事で相変わらず目の前の大通りには馬車がひっきりなしに行きかっている。
カインは遅れて到着して、出迎えた二人に申し訳なさそうにしつつも笑みを浮かべた。
「シャロン、すまない少し準備に手間取ってしまってな」
「ううん。大丈夫」
「そうか、ありがとう」
屋敷の前に止まった馬車は王族の紋章を大きく掲げていて、丁寧に内側に深紅のカーテンが掛かっている。塀の外側なので少し遠いが、そのカーテンが小さく揺れていて、中に人がいることをシャロンも理解した。
大方ユーリが、ついていきたいと駄々をこねたのだろう。しかし、シャロンの生活空間に安易に連れ込むわけにはいかないし、大人同士の大切な話に同席することもできない。
馬車の中で大人しく待っていると約束の上で連れてきたに違いない。
「それで、そちらが、クロフォード公爵……エディーだな。話はフレドリックとシャロンの二人から聞いている」
「お初にお目にかかります、カイン王子殿下。爵位を賜って以来、社交界でもご挨拶に伺う機会がなく、こうして屋敷に御足労頂いたうえでの挨拶となってまい非礼をお詫びいたします」
「……エディーどうか、あまりかしこまらないでくれ。私は今日、ここに来たのは公務でもなんでもなく、プライベートな話をしに来た。個人的な付き合いをする相手に敬われるのは好まないんだ。ここは、シャロンの夫として友人の弟として私に接してほしい」
カインは、エディーにそんな風に声をかけて、頭を下げるエディーの肩に手を置いた。
それに、エディーは微笑みながら了承して、早速屋敷の中に案内しようとすると、カインは少しだけシャロンと二人で話をしたいというのだった。
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