悪役令嬢に成り代わったのに、すでに詰みってどういうことですか!?

ぽんぽこ狸

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すでに詰んでる……。6

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 私もヴィンスも警戒していたというのに、ローレンスは「立ち話もなんだろう」と、さも自分の家のように勝手にテーブルに着き、ヴィンスに新しいお茶を要求した。

 怪訝に思いつつも、言われた通りに席につく、けれど彼は何も話し始めることは無く、ただじっと私をガラス玉のような瞳で見つめた。

 なんとなく居心地が悪くなって目をそらすも、見る先はどこも闇ばかりで、安心したくてヴィンスを見た。ヴィンスもローレンスのことが恐ろしいのか、私とクラリスといた時と打って変わって表情が曇っている。

 私がしっかりしないと。そう思いローレンスをきつく睨んだ。
 
 ……しかし、よくこんな転生、いや、成り代わり初日で来訪者がくるものだ。もう少し体に馴染む時間が欲しかった。

 はぁ、とため息をつく。ローレンスはお茶に一切口をつけずに、笑みを浮かべる。

「……君の先程の態度が気になって戻ってきてみれば……やはりね。どういう心境の変化かな」

 言葉の意図が分からずに、少し首を捻る。

「コンラットが居てはこういう事は出来ない、やはり置いてきて正解だったな」

 言いながらローレンスは立ち上がる。何事かと私も椅子を引こうとすると彼は地を這うような声で言う。

「動くな、命令だ。破れば、城に戻った時、間違って君の処刑打診の書類に判を押してしまうかもしれないな」
「っ……」

 簡単に命を引き合いに出されて、体が強ばる。どう判断していいのか分からなくなって彼を見上げた。

「命は惜しい、か」

 独り言のように彼は口にして、観察されていることに気がつく。だからと言って、何ができるという事でもなく、蛇に睨まれたカエルのように固まっていると彼はこちらへと来て、私の顔の位置まで屈んで、おもむろに手を伸ばしそれから後頭部に手を添えた。

 ……?

 予測がつかず、ローレンスの顔を見れば、じっと私を感情のこもっていない目で見たまま、顔を近づけられる。
 そのままどんどんと近づけられて、常識ではありえない位置で目が合って、ふっと自分の唇に彼の吐息がかかった。

 っ……!!

「やめてっ!!」

 唇が触れる前に、力の限りローレンスを突き飛ばし、椅子から立ち上がる。

「な、なにっ!急に!いっくらイケメンでもやっていい事とやっちゃダメな事のぐらいはあるでしょう?!」

 そして怒鳴った、そうだいくら王子様でイケメンだとしても、ドラマのように急にキスなんてしてみろ、わいせつ罪で訴えてくれる!!

 精一杯突き飛ばし、文句を言ったのにも関わらず彼は、あいかわらずの思案顔で、私のことを見据えるだけで驚いたような反応もしない。

「今更すぎる反応だな……君は…………」
「何よ!出るとこ出るけど?!」
「ふっ……いや、そんな意地を張っているといつまで経っても私の心はララの物だよ」

 バクバクとなる心臓がうるさい、顔に熱が集まって、怒りなのか羞恥なのかも分からなくなって言葉を紡ぐ。

「な、何が心はララのものだよ、よ!いらないわ!そんな下世話な下心!!」
「…………」

 ドキドキしすぎて心臓が痛いぐらいだ。これは恋のトキメキなんかでは無い。怒りの鼓動である。
 ローレンスは少し驚いたようで、目を見開いてそれから、また言葉を選んで私に言う。

「普段の化粧はどうしたのかな、似合っていたと思うよ」
「私はクラリスの素顔が好きだから!もうしないんです!」
「それほど感情を顕にするなんて、君らしくないと思わないかな」
「私らしいを他人が決めるな!」

 平然と返すローレンスにさらにイラつき、即座に言葉を返す、すると彼の眼光は鋭いものとなって、急に威圧感が増す。

「なるほど、ある程度理解したよ。……ただ、罪人である君が、王太子である私に取る態度ではない」
「……そ、れは」

 少し怒っているような声に、怒りが多少冷めて冷静になる。確かに、その通りであって、彼は王子だ。

 日本生まれ日本育ちの私からすると、あまり、なじみのない身分制度だけれど、どうにか頭の中で、日本での偉い人と置き換えて、常識を考えると、これ以上怒っても自分の立場が悪くなりはしても、よくなることは無いのはわかる。それがわかっていて、常識をかなぐり捨てて怒れるほど怒りは持続しなかった。

 そういえば先程、処刑をチラつかせていた事を思い出し、動くなと言われていた事も思い出す。

「…………」
「常識ぐらい持ち合わせているのだろう、ほら座り直して」

 椅子を指し示されて、そう言われると、まぁ座るぐらいならという気になり、乱暴に立ち上がったせいで、転がっている椅子を元の位置に戻して腰掛けた。

 私の態度に、ローレンスはすこし表情を柔らかくするが、目は変わっていない。

 無言が気まずくて、私から声をかける。私だけ座っていてローレンスが突っ立ったままなのでなんというか、説教をされている時のような弱い立場になったような錯覚を覚える。

「なんの……御用ですか。暴言、大変失礼致しました。殿下」

 敬語でクラリスがローレンスに取っていた態度を真似て口にする。

 ローレンスはまた思案して、私の顎に手を添えて軽く持ち上げた。
 顔に触れられると言うのは、心を許した相手以外は生理的に受け付けないのだが仕方がない。抵抗することなくその手をしたがって顔を上げる。

「かまわないよ……いつだって本物の感情を見せない君と違って、ララは私にありのままの思いをぶつけてくれた、それを君も見習うことが出来たということかな」
「いや、思いをぶつけて欲しいなら、ララと喧嘩でもしてくれば……と思う所存です」

 一度落ち着きを取り戻したので、ローレンスに冷静に返答をする。

 そういえば、この人には、ここに来る目的があったはずなんだ、なにやら、私、というかクラリスを懐柔して、何かをやらせたいのだと予想している。

 初対面では完全に警戒していたし、身の振り方についてどうしたら良いのか判断に困ったが、クラリスは私に選択権があると言った。
 
 つまり、本心を話しても問題は無いだろう。



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