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早期発見って大事……。6

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 そして彼は寝落ちした。
 そりゃあもう安らかである。それを侍女ちゃんに伝えると、とても驚いた様子で、暫く、寝かせてあげて欲しいと伝えて、私たちはそうそうに自分の部屋へと撤退した。

 途中だった夕食は、とってもコンパクトにアレンジされてお土産として渡された。

 魔力が自分の中に流れてくるのは、不快だったがご飯は美味しいのでウィンウィンである。

 そして次の日、サディアスは顔を真っ赤にして私の部屋に訪れた。朝一番の事である。わざわざ平民側の個室の方まで来て「昨日は、本当にすまなかった」と開口一番そう言った。

「……」
「自分の不甲斐なさに、我ながら呆れてしまった」
「…………うん、おはよう」

 なんせ朝早かった。支度が終わっていたから良かったものの、私がまだ着替えてなかったらどうするつもりだったのだろうか。

「不甲斐なさはいいけど、早朝に女の部屋を尋ねるのもどうかと思うよね、ね、ヴィンス」
「仰る通りでございます、クレア」

 私が同意を求めるとヴィンスはにっこり笑って肯定してくれる。でも手元は素早い、朝のお茶の準備にティーカップがひとつ増えた。

「……申し訳、ない」

 私の言葉を最もだと思ったのか、勢いを無くしてサディアスは肩を落とす。その姿が少し可哀想になって「入ったら?」と促す。

「あぁ、そうさせてもらう」
「そこに座って」

 自分の座学の教科書を閉じてカバンに入れ、お茶をする事ができるテーブルセットに腰掛ける。私たちが座ると、ヴィンスがお茶を出してくれる。

「差し入れを持ってきたんだが……」

 そう言ってサディアスは大きなバスケットをヴィンスに渡す。ヴィンスが受け取って中を確認しているところを私ものぞき込む。そこには豪華なサンドイッチが綺麗に盛られたお皿が入っていた。

 ……朝から貴族だなぁ。この量ならみんなで食べれそうだね。
 
「ありがとう、朝食にしようか。昨日は話ができなかったし」
「あぁ、その通りだな。すまない」
「あんまり気にしなくていいのに」

 ヴィンスがお皿を出して簡単に取り分けてくれる。こういう場合、ヴィンスも一緒に食べようよと言っていいのか、言わざるべきか。

 うーんと、悩んで、サディアスとの話を早めに終わらせて、一限目までに寮食も食べようと決意する。

 「それで、昨日はしっかり眠れた?変な夢は見なかった?不調は無い?」

 気になっていたことを聞いてみるが、サディアスの顔色は良好で今日の体調は悪くなさそうである。

「お陰様で……あれは……なにかその、そういった手法の心理療法か何かなのか?」
「さぁ、ただ、自分の発言でネガティブになってることと単純に私に対する罪悪感とか死とか傷への生理的嫌悪がぐちゃぐちゃ絡まって大変そうだったから、傷は治るし悪いことは考えないようにしただけ」
「…………」

 言葉にするのは難しかったが、こんな感じだろう。サディアスのことはよく知らないけれど、考え込んで煮詰まってこんがらがる前だったのでトラウマ早期発見という事で解決できたのでは無いだろうかと予想している。

 私がハムのサンドイッチを食べていると、彼はまた私の事をじっと見ている。

「何?頬がまだ気になる?」
「いや、単純に……さすがは公爵令嬢だと。聡明だな」

 違う、多分これは年の功と言うやつだ、あまり触れないで欲しい。

「それは、まぁ、……そうとして。とにかくね、私はこの学園をちゃんと卒業しなくちゃいけないの。だから同じチームの貴方が病んでちゃ困る!」
「……気になったんだが、何故、君はそれを目指すんだ?」
「ローレンスが落第したら処刑だって脅してくるのよ」
「……クレアを魔法使いにして、その後の王太子殿下のお考えは?」
「さぁ」

 私が首を傾げると、サディアスは視線を落として考え出す。言ってよかったのか分からないが、隠していて何か大変な事になっても困る。

 しかしこのタマゴサンドは美味しいな。トロトロ濃厚な卵にシャキシャキ食感の玉ねぎが心地いい。少しスパイスが効いていてあっという間に食べ終わってしまう。

「はぁ……俺ただの伯爵家跡取りなんだが……厄介事に首を突っ込んだかもしれないな」
「そうなの?困ったねぇ」
「君がその厄介事の中心だと思うがな、そんなに呑気でいいのか?」

 ……呑気、呑気か……。

 私は一度視線を空に向けて、それからサディアスを見据えた。だってよく考えてみるとローレンスは私の髪を持っている。呪いの力が彼に使えるのかは謎だけれども自分を遠隔で殺せる手段を持っているという事実に変わりはないだろう。つまりは、脱走という選択肢は、もう既に完全に絶たれているんだ。

 つまりその厄介事から、私は逃げる事が出来ない。
 だったら常に気を張って後悔し続けるよりも、自分はやれる事はやったと胸を張って堂々としているしか無いだろう。

 悪魔のようなローレンスに刃向かったり、悪役令嬢然としてみたり、魔法が使えなのに試合をしたりと、前世の自分から考えたら、今世は既に大奮闘である。

「いいのよ、多分。出来ることは出来るだけやっているし、私には私の目的があるから」
「……そうか、……まぁ、何を言っても同じチーム。結局は一蓮托生だろう……君はしっかりと学園の卒業を目指しているんだな?」
「うん」
「なら、俺が何か文句を言える筋合いはない……同じ魔法使いを目指す同士として、競い合って行こう」

 サディアスは明るく、いっぺんの曇りなく笑った。私も笑みを返す。入学三日目の朝、ようやく一人目のチームメイトと打ち解ける事が出来た。



 

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