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なんでこう毎日、忙しいかな……。5
しおりを挟む……想像と違う、まったく違う。何だこの強いキャラは。私のそばで聞いていたオスカーもぎこちなく笑って、混乱する私の肩をぽんと叩く。
「分かるぞ、驚くよな。俺も驚いた」
「そう……だよね?ディック貴方の身の上って?」
「僕は学園街出身、だから、昔から古着屋でよく学生が売った小さくなった制服を買ってたんだ、それで、入学しても来てたらちょっと浮いた」
聞いてみたらしっくりくる説明だ。ここで暮らしている人もいれば、ここ出身の人間だっているだろう。そして成長ざかりの学生が何度も制服を作り直すのも分かる。
「じゃあ、朝食の時は、単純にお金目当てに擦り寄ってきたとオスカーが勘違いしていただけで、ディックは普通の友達作りのつもりだったの?」
「そうだね、頑張ったんだけど。外見に気を使うのをすっかり忘れてあの有様。オスカーに聞けば君も勘違いをしてたらしいから、一応挨拶しておこうと思って」
誰からともなく歩き出す、行き先は噴水のある場所だ。
「あと、エリアルが君の事、呼んでた。伝えて欲しいって言われて……から何日経ったかな忘れた」
「エリアルってあの声が小さい先生?」
「ディックお前それ、忘れていいことか?」
私とオスカーが同時に反応して、ディックはこめかみに手を当てて思い出すような仕草をする。なんというかポップな動きだ。
「声は……小さい。確かに。あと、多分、忘れない方が良かったとは……思うんだけど。僕に関係ないんだ仕方ない」
「仕方ない事あるか!って、お!金貨一枚みっけ」
足元を見ながら歩いていたオスカーが、見つけたそれを手に取り私に手渡す。
「金、金、金貨……あ、そういえばあの人のところに金色の猫が最近出入りするようになってね。ちょうど僕らが入学する頃からだったかな」
「金色の猫?なんだそりゃ光ってんのか?てか教師棟ってペット可なのか?」
「不可、エリアルも動物は毛がつくから研究の邪魔になるって言って嫌ってたんだけど、だから逆に不思議で、金色で覚えたんだよ」
「あのな、そんなくだらない事覚えてないで、任された要件を覚えろって」
ディックの言葉に私も考えて、金色の猫を思い浮かべる。それは、長らく会えていない私の体の持ち主クラリスの事ではないかと思う。
ヴィンスは私たちの話に混ざることはなく、ガサガサッと生垣の中に突っ込んで行ったと思ったら、大金貨を手にして帰ってくる。魔法を使っているらしく瞳がぽわぽわ光っていた。
「それってディックもよく教師棟に出入りしてるってこと?」
「いや、ディック!お前、身の上話重要なところで止まってるぞ」
「あー、うん、はいはい。オスカーはうるさいな。そう、僕は一応学園内に家があって、教師棟は昔から遊び場みたいなものだよ」
「……学園職員に親がいるんだ。学生らしく寮暮らししろって言われて今は寮にいるが、生活力がまるで無い。気にかけてやってくれ」
「あ、うん。こんな私でよければ」
「これでも頑張って暮らしてるんだけどねー」
ディックは左右に体を揺らしながら歩いている、この子の親が学園の職員にいるのならどんな人なんだろう?それに、入学式の日の猫を被った姿からのギャップがすごい。そして仲良いなこの二人。出会って一週間も経っていないはずなのに長年の友人のような距離感だ。
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