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なんでこう毎日、忙しいかな……。13
しおりを挟む彼女たちには医務室に向かうと言ったが、私は寮の部屋へと戻っていた。元々簡易魔法玉は耐久性が低い、原作でも、ララが使うとあっという間に壊れてしまうような消耗品だった。
……それに安物だしね。仕方ない。
こうなると必然的に、私は他人の魔法玉を使わせてもらって、自分の体を治すことしか出来ない。
医務室でやるのは落ち着かないので、部屋に戻ってきたという事だ、ベットに腰掛けて、頭のリボンを解く、酷い土汚れがついてしまっていて、洗濯で落ちるか心配になる。
「……新しいものを購入しましょうか?」
私がリボンを見つめていたからか、ヴィンスがそう声をかけてくれる。それに私はふるふるとかぶりを振った。
お金が無い。全部使ってしまった。今回の戦いでの代償は割と大きい。制服も破けてしまっているところがあるし、負傷もしている。破けてしまっているスカートの裾に触れようとすると、脇腹がミシッといたんで痛みに悶える。
「ッ~……い、いたい」
「クレアっ、魔力はまだありますか?すぐに治しましょう?」
「ん、うん……」
ヴィンスは膝をついて、自分の魔法玉を差し出す。けれど、一度痛みを自覚してしまうと、どこもかしこも小さな擦り傷まで痛んで、それを落ち着けるために呼吸をする。
手が悴んでいるように上手く動かせない、その状態を見たヴィンスは、すごく心配そうにして、でもその心配で何かを行動すると言うことは無い。
それは彼が、自ら押し殺しているからのような感じがした。彼は思いやりがあって、私の事をよく見ていて、戦う事もできて頭も良いのに、ヴィンスは私が聞いたことにだけ答えて、私が言ったことに従う。
そして私が居ない時には、平然と誰とも喋らないし、動かない。
……。
「ヴィンス、治して、ちょっと私、自分で出来ない」
「はいっ、すぐに!」
私がそういうと、彼は「失礼します」と私の魔法玉を取り出して自分の物と合わせて握る。
「不快感が無いよう、頑張りますね」
魔法玉を起動するだけの魔力を込めて、出来るだけ気を落ち着かせる。私の魔力をヴィンスによって押し戻される様な形で体の中に入ってくる。魔法に対する理解が上がったからか、魔力がどんな動きをしているのか多少わかる。
そのせいで体の中を他人のぐるぐると魔力が回っていることもありありと理解できて、異物感に目が回ってしまう。
それぞれ、体の傷ついた部分に、魔力の熱が留まって熱いような、焦げるような、そんな感覚がしてから、ゆっくりと魔力の熱が引いていく。
こんなに早く治してもらえて、それでもよっぽどローレンスの時よりマシだったのは、私の心情的な問題なのかそれとも、人によって相性があるのかは分からない。
「……、ヴィンス……ありがとう。…………ねぇ、ヴィンスは今日の試合を見てどう思った?」
「どうとは、何でしょう」
痛みは引いて、ヴィンスも魔力を流すのを止める。私は彼の手を取って、ついでにローレンスの真似をしてヴィンスの顔を覗き込んで聞いてみる。
私の傷が治って安心しているのか、ヴィンスは薄く微笑んで首を傾げた。
「びっくりした、とか、自分ならこうするのにとかそういう気持ち」
「……特にありません」
ヴィンスは笑顔を崩さない。多分、この世界で一番、私と距離が近い人のはずだが彼が何を考えているのかまったく分からなかった。
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