悪役令嬢に成り代わったのに、すでに詰みってどういうことですか!?

ぽんぽこ狸

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私も大概、トラブルメーカー……。4





「単刀直入に聞くぞ」
「はい」
「君、ローレンス殿下にクレアが害されても、クラリス様が害されても、何も思わないのか」
「思いませんでした」
 
 さして考えることも無くヴィンスは俺をまっすぐ見つめて言う。

「……サディアス様、言い訳をしてもよろしいでしょうか」

 その表情は媚びるでもなく、俺を見据えている。先程の返答でヴィンスを切り捨てようと考えていた、俺の考えを見透かされたようで、少し驚くが、首肯した。

「私は、私が誰に害されても、何かを思ったりしません」
「……」
「本来であれば、クラリス様にお仕えできるような身分ではありません。とうに死んでいても不思議ではないんです」
「はっきり言ってくれ」
「孤児でした。私は、家族も、友人も一切おりません。きっと、殺される瞬間、恐怖や苦痛を覚えるのでしょうが、私は誰に殺されようとも、文句は言えません」

 ……立ち振る舞い、教養からして、平民の中でもこの学園に通えるような、家柄の出身だと踏んでいたんだが、まったくの見当違いだったのか……。

 しかしそれでは、ヴィンスにはローレンス殿下に使われる以外に、今の学園に通って今までと同じ生活を送ることは不可能だろう。

 俺の驚きなど気にも止めずにヴィンスは続ける。

「高貴な身分の方々が、気まぐれに私を生かし、教え、使い、私にはそれ以上でもそれ以下でもありません」
「……」

 聞かなければ良かったと思う。一ヶ月以上、毎日顔を合わせ話をし、対等に接した。いやでも情は既に移っている。どんな理由であれ、先程の言葉を聞いて、ヴィンスを見限る以外にクレアの安全を保証する方法はないと考えてしまってる。

 それに、人間の考え方というのはそうそう変わらない。クレアを生みだしたクラリス様が、ローレンス殿下とつながりのあるヴィンスがそばにいることをよしとしないのなら、選択肢は二つ、ヴィンスを殿下から引き離すか、クラリス様と敵対するかだ。

 後者をとるのはリスクが高すぎる。しかし、前者を選んで、ヴィンス自身にそれを納得させるには、彼にそれなりの情緒と決断力が必須だ。その見込みが無いのであれば、彼を、見捨てるほかない。

 クレアが何を選ぶにせよ、彼女は今現在、ヴィンスを突き放した、つまりは、ローレンス殿下側には着く気はないのだろう。

 ……きっとヴィンスを時間をかけてすくい上げる方法は無いのだろうな。

 わかっていても、不憫だと言う言葉が浮かんでならない。

「……私が死んだ後でしたら、今の事、クレアに言ってくださって構いません」

 ヴィンスはニコと笑ってそう言った。

 それは……言ってくれということか?……ヴィンス、君は何も思わない訳じゃないだろう。

 思わないようにしている、そう務めている、それが正しい、そう自分に言い聞かせている。クレアはヴィンスが必要としてくれと迫ったと言っていた。

 不安だったと言ったと。感情は君の心の中にあるだろう。

 けれど、ローレンス殿下と言う相手から、自分が逃れられないという事実を理解している。そして今まで表に出さなかった感情を急に出せるようになって、クレアのことを第一に考えて、ローレンス殿下から離別しようなどと画策できるわけがない。けれど、決して、クレアをどうでもいいと思っているわけでもない事も分かる。

 理由は、こうして、今クレアと距離をおいていることだ。彼女の情報をこれ以上流さなくて良いように。彼女の情報を知ってしまえば、ヴィンスは報告するしかない、だから、そもそも知らずに済むように、離れることによって、クレアに害がないようにと配慮している。

 害されても何も思わないと言った癖に、防御策を打っている。けれどその程度では、到底、彼が存在することに寄っての脅威とは比べ物にならない。

 排斥するしかないのだ。

 胸の中でどうしようもないような、感情が渦巻く。己の力では手に負えない、仕方ない出来事。
 
 飲み込まなければ、貴族などやっていられ無い。慣れているはずなのに、魔力が溢れて水がダバダバと地面を濡らす。

「サディアス様、お召し物が汚れてしまいますよ」
「……いいんだ……そんな事は。ヴィンス、君はクレアに出会って、その何も思わない、が少しは変わったんじゃないのか」
「……」
「上手く立ち回れないのか、殿下の目を掻い潜るなり、なんでも出来るだろ」
「…………それほど私は、有能ではありません。申し訳ございません、サディアス様。……クレアに……貴方様のような協力者ができて、安心出来ました……それでは失礼します」

 その言葉だけを残して、ヴィンスは俺に背を向けてグループの人間と合流する。

 ……ヴィンスが本当にただの無感情で、それだけの人間だったらどんなに良かっただろう。いや、きっと、クレアと過ごす前までは、本当にそうだったのかもしれない。

 ただクレアあの、何とも言えない、優しげで何事も許容してくれそうなあの雰囲気に当てられて、ヴィンスもペースが崩されたのだと思う。絆されたとでも言うべきか。

 昔、クラリス様が仰っていた言葉を思い出した。

『サディアス……世の中ね、ままならない事ばかりなのですよ』

 その通りだと思う。それを言った本人の体のクレアは、それを飲み込んで生きるのがとても苦手そうで心が酷く痛んだ。



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