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頑張ったんだけどな……。8

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 開始位置である、東側の地面に描かれた大きな円の中に入って、それぞれ魔法を起動した。私はギリギリで魔法を使いたいので、まだ起動はせずに飴玉を口の中に放り込む。

「……君って……そんなに甘党だったのか?」

 必死の形相で飴玉をもこもこ食べ続ける私に、サディアスは大きな大剣を腰に携えてそういった。
 
「うん、甘党」
「そうか、今度からディナーに誘う時は、砂糖をたっぷり使った物を用意させるな」
「うん……うん?いや、太っちゃうからやめて?」
「?」

 腑に落ちないといった感じでサディアスは首を傾げつつ魔法を起動する。すらっと剣を抜いて、軽く振った。今思えば、彼の剣、自前だろうか。

 ……かっこいいなぁ。

 貸出用の武器は、形は違えどデザインはすべて同じだ。握りやすいグリップのついた、装飾の少ない実用性重視の剣。それに比べて、彼の大剣は、柄の部分に真っ赤な宝石が付いていて金ピカだ。さすが貴族だな、と思いつつ、皆の武器を見ていく。

 チェルシーは貸し出し用の大剣。アタッカータイプはもっぱらこれが多い。
 敵さんチームは、確か、コーディー以外は皆アタッカークラスだったはずだ。チラリと見ていると、リーダーのコーディーから、チームの小柄な女の子に至るまで大きな剣を携えている。

 ガンガン攻め込むスタイルだよね。……あー、ちょっと怖いな。

 せめて今日の相手がチームディックだったら、まだ、マシだったように思う。ディックは初速が遅いのだ。
 そう想像してみてから考え直す。私の思惑に気がついてディックだと何らかの対策を打ってくる可能性があるので、やっぱりコーディーでよかったと思う。

 彼の性格は知らないが、クラリスの弟なのだ。きっとそれほど荒っぽい性格じゃ無いはずだ。

 うんうん、大丈夫だ。と自分を納得させて、シンシアの方を見る。今朝は指摘する時間が無かったけれど、編み込みでショートカットの横髪を耳の後ろに止めてリボンをつけている。

 ……勝負服ならぬ勝負髪型、だね!

「シンシア、それ自分でやったの?」
「!……気が付きましたか!」

 私が、自分の耳ともをトントンとしながら聞けばチェルシーがバッとこちらに反応して言い、笑みを浮かべる。
 シンシアは恥ずかしそうに「チェルシーに……」と言った。

「ど、どうしても……と言うので。私にこんな女性らしい髪型もリボンも似合わないと言ったのですが……」
「そんな事ありません!シンシアは確かに凛々しい顔立ちをしていますが、可愛いものが似合わない女の子なんていなんですよっ!」
「そうですか?そうなんですか?」
「もちろんですっ!女の子は皆、好きなものを身につけて、勝負の日にはおめかしをして、めいっぱい気合いを入れるものなんです!ね、クレアっ」
「お、おうよ!」

 チェルシーの圧に押されて、思わず変な返事をする。彼女はもうとっくに、田舎者の自分に対するコンプレックスを克服したようだ。

 今では立派なオシャレ好きなレディである。
 今度の試合の日には、私も余裕を持って起きて、めいっぱいオシャレをしたいものである。

「それに、皆に私達の仲をアピール出来ますでしょう??」

 チェルシーは複雑に編み込まれたハーフアップを止めている自分の髪に触れた。黄色のリボンが揺れていて、シンシアの赤髪に似合っている深緑のリボンを見る。
 それから私を見た。

 ……!……確かに、皆おそろいだ。……特に深い意味はないのかもしれない。でも、今日、私を助けない、見捨てると取れるような作戦をしているのをクラス全員に見られる。もしかしたらそれを、仲が悪いからでは無い、とアピールする為なのかもなんて深読みしてしまう。

「そうだね!嬉しい」
「ええ、私も」
「私もです!二人とも!頑張りましょう!」

 彼女達がとても明るく振舞ってくれているのに、自分が暗いことを言うのは、違う気がして、追求することなく無邪気に見えるように笑った。

 シンシアは片手剣を抜いて、盾の魔法を使う。
 彼女の盾の魔法は、固有魔法として定着しつつある。本来、自分を守るためだけに十分な丸い盾が一般的な基礎魔法だがシンシアのそれは、腕全体もあるような縦長で大きなものだった。

 魔法のシールドのようなものなので、たいして重さは無いようだが、動きづらくは無いのだろうか。

 私が盾をじっと見ていると、シンシアはそれに気がついて、私に話しかける。

「やはり珍しいですか?」
「え?……うーん、かっこいいと思うんだけど、扱いが大変じゃないかなって」

 固有魔法の授業があってからまだそれほど経っていないので、見る機会も少なかった。それにまだ定まって間もないということもあり、あまり触れて来なかったが、今日は何となく聞いてみる。

 するとシンシアはああ、と納得して、自らの剣をそれに触れさせる。すると、なんの抵抗もなく剣は盾を通り抜ける。

「元々、盾の魔法は敵からの攻撃のみ防ぎ、それ以外は存在していないも同然ですからね」
「……そうなんだ」

 ミアとアイリが透過していたのもそうだが、慣れないと実際の試合で痛い目を見そうである。しかし、これなら、戦闘での鉄の盾を持つことのデメリットが全て帳消しになるので、相当便利である。

「私も覚えようかな」
「……クレア……貴方はまず、自らの剣で怪我をしなくなってからにしましょう」
「う、うん」

 シンシアに真剣に止められて、やっぱりそうだよねと思う。未だに魔法を使わずに剣を持つと、フルスイングで腕を怪我したり、足にあたってしまったりと散々だ。そう言われるのも無理はない。

 私も自分の腰につけている剣に触れる。抜くのは魔法を起動してからだ。飴ちゃんを口に放り込んで魔力を確認する。

 十分の四。

 上々だろうな。
 多分一撃ぐらいだったらしのげる……と思う。
 吹っ飛ばされて、魔法玉を奪われたとしても死にはしないだろう。



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