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頑張ったんだけどな……。7

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「予告していた通り、本日は月初模擬戦を行います、審判はバイロン先生です。先生一言お願いします」
「はいっ、ブレンダ先生!」

 バイロン先生はブレンダ先生にヘコヘコ頭を下げながら立ち位置を交代する。表情からしてブレンダ先生になにかしら特別な感情がありそうだと思ったが、ブレンダ先生は望み薄だろう。

 ……あんまり男性に興味あるタイプに見えないもんね。仕事ができる女性って感じ、それにすごく強いし。

 固有魔法の授業の時に、魔法を使っていたのにも関わらず、あっという間にダウンさせられてしまったことを思い出して苦笑いをうかべた。

 バイロン先生は、私達の前に出てコホンと咳をひとつして、表情を取り繕う。

「君らがチームを結成して、初めての団体戦だ!!それぞれ不安な事、困っている事が沢山あると思う!!だが!!団体戦は魔法使いにとって非常に重要な意味を持つ!!」

 常に言葉の後ろにエクスクラメーションマークがついているような大きなハキハキとした声で非常に聞き取りやすい。
 彼は普段から、彫りが深く厳つい顔つきをしているのに、さらに怖くして続ける。

「魔法使いになりどんな作戦に参加するのであれ!!他人と協調し、他人を補い、また補われる事によって、個人では達成しえない偉業をなすことが出来る!!ぜひ、君達にも、その偉業をなせるだけの魔法使いになって欲しい!!健闘を祈る!!」

 先生というより上司のような激励に、緊張から浮ついていたクラスメイトの雰囲気が一気に真剣なものへと変わった気がした。熱血教師は方向性を間違えなければ、他人のやる気を引き出せるのだな、などと考えつつ、少しピリついた緊張の空気が心地よく感じる。

 これでも私も結構、緊張しているんだ、なんせ色々準備してきたからね。

 しんと静まり返った私達生徒を見て、バイロン先生は、ひとつうんと頷いてブレンダ先生の後ろへと戻っていく。

「それでは、最終のルール確認です。これまでも耳にタコができるほど聞いたとは思いますが、こんな説明をするのはこの模擬戦が最後です。以降、トーナメントでも説明はありません!心して聞くように」
「はい!」

 クラス皆で返事を返しつつ、私は、舐めきった飴ちゃんを口の中に追加した。
 コロコロと口の中で転がして、急いで舐め溶かす。

 ……魔力は……十分の一ってところかな。

 全部適当にお砂糖だけで作ったべっこう飴なので甘くて甘くて仕方がない。水分が欲しくなってくる。

 それでも舐め続けるのには、理由がある。これは私が唯一、前世から来て、誇れるチートというか、単純に一般人は知らないはずのズル知識なのだ。

 魔力は実は、意図的に早く回復させる手段がある。

 それは原作で、ララが特別な家柄でも無いのに、王子様とお近づきになれる、ほどにまで成績を出せた理由でもある。

 ララの家系は何ら取り柄の無い農家だ。血族はみんな平凡に農民をやっている、ただ一人ララの祖父以外は。

 ララの祖父は、アウガスの特出したものがなにも無い田舎に居ることを良しとしていなかった。一度行方をくらまし、そしてララが幼い頃に帰ってきた。
 その時には既に、魔法玉に欠かせないコアの力を引き出すウィングを作る技師としての技能や知識を得ていた。

 そしてその知識を使って書いたものが原作のタイトルでもある『ララの魔法書!』なのである。そこにはユグドラシル魔法学園にしか無いウィングの製法、それから魔法についての知識が記されていた。

 世界各国、もちろん、アウガスも、メルキシスタも喉から手が出るほど欲しい情報が山ほど乗っていたのだ。その知識を使ってララは簡易魔法玉に自らウィングを装備して魔法学校で成績を残すことに成功している。

 そして私が使っている知識は魔法書の中のひとつ。

 生活魔法によって生み出された物、またはそれによって調理されたものを摂取することにより、飛躍的に魔力を回復させると言うものだ。

 魔法の火で作ったスープ、魔法の水を直接飲むでも良い。これを戦闘中、戦闘直後、魔力が尽きる前に摂取する。効率の良い方法としてララは飴ちゃんを作った。これなら、持ち運びも保存も便利であり、戦闘中でも口に入れられる。

 そして私はそれを真似っ子したのだ。丸パクリでなんの捻りも無くて恥ずかしい限りだが、まぁ、誰にも知られないのなら文句も言われまい。

 こういう情報をララは、ちゃんと祖父とのいいつけを守って他人に絶対に教えなかった。きっと守秘義務とか色々あるのだと思う。私も、知識を使わせて貰うので遵守しようと思っている。

 ……十分の二。

「まず、団体戦は五対五のチーム戦、フィールドはこの練習場全体です。観戦は二階席のみ、どんな理由があろうとも審判以外の立ち入りがあった場合には仕切り直しとなります」

 ブレンダ先生は、私達一人一人を見ながら説明していく。

「時間制限は砂時計が落ち切るまで、あちらを見てください。今日は大砂時計を実際に使用して試合を行います」

 パッと指をさして示す。私は素直にそちらの方向を見ると、二階席の柵にはめ込まれるようにして名前の通り、大きな砂時計が鎮座していた。

 各チームがスタートする場所から両方のチームが確認できるように、スタート位置の中間部分に設置されていた。時間にすればだいたい五分程度の時間だ。

「勝敗は、カギの所有者が、魔力を塗り替えられた時点で決します。リーダークラスの方はよくご存知だと思いますが、カギに連動し魔力を感知するアイテムによって我々はそれを判別しています」

 先生は、錠前のような形をしたものをみんなの前に出す。
 
 リーダークラスでの授業を思い出す。出だしが遅れた私は知らないことが多くて苦労したが、カギにはそれぞれ連動した錠前がある。

 その錠前は連動しているカギの魔力が塗り替えられると、錠前が開くという優れモノだった。
  
 ちなみにこれは、魔法を使い始めの小さな子供がカギを開ける遊びをする玩具の改造版らしい。
 懐かしいとサディアスが言っていた。

「……カギを奪っただけで、勝利したと思い込む生徒をブロンズバッチ同士の団体戦ではよく見かけます!しっかりと念頭に置いて試合をすること!」

 その部分をしっかり力を込めてブレンダ先生は言う。でもなんだか、その気持ちがわかる気がした。

 ……だって頑張って、敵を倒して、いろいろな攻防戦を潜り抜けてカギを奪取したとなると、それだけでとったどーっ!!ってなっちゃうのもわかるよね。

「そして、これから試合が始まるまでにからなず、カギの所有者は自分の魔法玉と接続し、魔力を通しておくこと!緊張していてもそれだけは忘れてはなりませんよ!」
「はいっ」
「そして…………緊張から魔力を込めすぎないように、戦えなくなっては元も子のありません」

 ブレンダ先生と目が合った気がして、ばつが悪くなりすぐにそらす。
 
 ……なによ!先生!これだってちゃんと作戦なんだから!そんな同情的な目で見ないでくれます?

 少し、反発したい気持ちもあるが、本当に、私の作戦は順調なのだ。ブレンダ先生から見ても、私が戦う余力を残していないほどカギに魔力を入れ込んでいるのがわかるのだろう。

 確かに腰に着けたカギは、真っ赤に光を放っているし。

 ヴィンスにもちゃんと伝わってるだろう。

「それでは、第一試合、チームコーディー、チームクレア以外の生徒は、二階の観戦席へ。二チームは残って最後の準備時間とします!以上!」

 生徒達はそれぞれ返事をし、それぞれが動き出す。私達は、スタート位置である、楕円になっている練習場の東側へと進んだ。



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