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頑張ったんだけどな……。6

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 全部、ローレンスの責任だと思う。

 朝食を食べている時間は無いので、自分の部屋から急いで階段を降りてエントランスに向かう。今日、模擬戦があるのは私達のクラスだけなのでまだゆっくりと支度をしている学生達を避けつつ走りながらジャケットを着ているとベラの「コラァ!朝から走るんじゃないよ!!」と言う怒声がとんでくる。

 それに「ごめんなさいっ!」と元気に謝罪をしつつ、全力で寮から駆け出した。

 今日は模擬戦当日である。午前を丸々使っての授業なので一大イベントだ。普通は軽くウォームアップをしてから、練習場に向かうのだが、明け方にローレンスが来てから、ぐっすりと眠ってしまった私にそんな時間はない。

 ……あ~、でもこれ絶対お腹空くよ。

 嫌だなぁと、思いつつ校舎の前を通り過ぎ、すぐに練習場が見える。

 ……飴ちゃん食べようかなぁ。いや、数が限られているんだし我慢だ我慢。
 それに小腹を満たす用途で制作したわけでは無いのだから、飴ちゃんだって本望じゃないだろう。

 ハッハッと息をして足を動かす。この学園はとても広く、寮から反対側の練習場まではそれなりに距離がある。

 ……それをずっとこのペースで走れるなんて私も体力がついたよね。

 それほど苦しくなること無く、集合時間ギリギリで練習場の扉を開けた。

 チームごとに別れて、最終調整や打ち合わせをしていたため、まだ授業が始まっていないことが分かる。

「よ、良かった~!」

 息を整えつつ、最終的な打ち合わせをしているであろう私のチームへと向かった。四人の空気はなんだかどんよりしていて、晴れているのにここだけ曇り空のようなくらい空気だった。

「おはよう!遅くなってごめんねっ」

 私が片手をあげて挨拶すると、ふと私に気が付いたヴィンス以外が挨拶を返してくれる。ヴィンスだけは目を逸らして、そっぽを向いていた。
 
 ……大丈夫かな、今日……。

 ヴィンスの反応に不安になって、ぎこちなく笑う。それでも私たちは第一試合なのだから、ここで作戦について皆に共有するべきだろう。
 一応ヴィンス以外の三人に相談はしてあり、反対はされていないので、ヴィンスにだけ報告のつもりだ。

 サディアスを納得させるのに、随分苦労したし、何度かサディアスは机を叩き割ったが何とかなった。
 
「遅刻してきた手前、悪いんだけど、仕切ってもいい?」
「いいですよ、クレアっ!」
「はい、今日は名実ともにリーダーは貴方なのですから」

 まるで普段は違うような言い方だが、本当のことだ、よっぽどサディアスの方がリーダーっぽいことをしている。

 それに、作戦を考えたのも私で、私のわがままを通しているのだから責任を負うという意味で仕切るのも当たり前だろう。サディアスに目配せをしたらこくんと頷いた。

「急いだ方がいい、ほんの数分で始まる」
「うん!えーと、うん」

 早速、なんかこう、かっこいい感じに作戦の説明をしたいのだが注目されるとうまい言葉が浮かばない。

 これより作戦を説明する!!っと、軍隊式の言葉が思い浮かんだがこれじゃない感が半端では無い。

 私がカギを……こう、ええと。としどろもどろに説明するというのも締りがない。
 もう始まるという事なので、短く簡潔にするべきだ。

「作戦を説明しますわっ!!準備は宜しくて??」

 もういつものやつでいいかと思い、腰に手を当て胸を張った。偉そうに笑うのも忘れずに。

 私が大きな声を出したからか、ヴィンスと目が合う。今日は全部、貴方のために考えた事だ、だから聞いて欲しい。

 ちゃんと目が合って良かったと思う。

「今日は、絶対に負けない戦法を取りますわっ!サディアス!カギをくださる?」
「あ、ああ」

 私の偉そうな態度に、やや困惑気味のサディアスが私にカギを手渡した。
 
 この朝の時間、この時間にカギの所持者を決め、まずはその人物がカギに魔法玉を接続する。
 団体戦は、その所有者からカギを奪いさらに、魔力を塗り替える事によって勝敗を決する。

 つまりだ、カギが取られた時点で負けが決まることはない。魔力が塗り替えられさえしなければいいのだ。

 使い切った魔力の全回復は丸一日かかる。このカギに、多量の魔力を込めてしまえば当然、戦闘が不利になる。それに相手のカギを塗り替えることが魔力不足でできなくなる。それでは勝つことが出来ない。

 だから、皆、カギに魔力をすべてを注ぎ込むような馬鹿な事はしない。魔法玉を起動して、カギとコアをくっつけて魔力を流し込んでいく。

 ……まぁ、その馬鹿を今回意図的にやるんだけれどね。

「……時間が許す限り、貴方たちが存分に戦えるよう。わたくしは祈っていますわ」
 
 素材が分からないこのカギだが金属だと仮定して、私の熱を注ぎ込んでいけば、あっという間にそれは淡くひかりだし、そして、鉄が熱すると赤く光るように強い光を纏う。

 なんだかかっこよくなったなと思いつつ、さらに魔力を込めた。熱の残量がどんどん減っていって底につくぎぎりで魔力の流れをピタッと止める。

「これで、この作戦はほぼ完成と言っても、差し支え無いのですが、最後に一つ。わたくしを絶対に助けないこと!!」

 サディアスが苦々しい顔をして、チェルシーとシンシアは何かを堪えるような表情をする。

 私はすぐに飴ちゃんを口にほおりこんだ。

「……はい、私達はそれぞれ必ず貴方の有志に報います」
「そういう、作戦ですものねっ、私も、絶対に助けません!」

 一番重要な事項なだけあって、シンシアとチェルシーは言葉に出して、約束してくれる。

 ……ありがとう、二人とも。わがままを聞いてもらって本当に悪いと思っているでも、きっといい結果を残せるよう頑張るから。

「……俺も助けないと誓おう。君が自ら望み、誰にも迷惑をかけずにやる事だ。邪魔をする気はない」

 サディアスも、声に出して協力を宣言してくれる。ぽんと背中に励ますように触れられて笑みがこぼれた。

 最後に、相変わらず何を考えているか分からないヴィンスの方へと一歩進む。

「ヴィンス、貴方はどうしますの?」

 これは本当にわかりやすい、直球な作戦だと思う。けれど、これでいい。

 ヴィンスは少し、怪訝な表情をしてそれから、すこし私を睨んだ。私の意図がちゃんと伝わったようでなによりだ。

 なにかを思ってくれたら嬉しい。予測できる危険について、一応、予防策は打ってあるが、ヴィンスはそれをどう思うのか。
 貴方はきっと、向き合う機会もなければ、向き合いたいとも思っていなかったんじゃないかと思う。

「……貴方様が助けるなというのなら私は、それに従います」
「そう……ねぇヴィンス、それはどうして?」

 ならば、キチンと、向き合える機会があればいい。今、貴方はちゃんと自由だ。

 私はそれをしっかりと手に入れてきた。

「みささん!そろそろ授業を始めます!!集まりなさい!!」

 ブレンダ先生が手をぱんぱんと叩きながら、よく通る大きな声で言った。
 続きは、試合の直前でいいだろう。
 
 飴ちゃんをガリガリ噛んで、もうひとつ口に含む。思ったより厳しい試合になるかもしれないけれど今更、引くことは出来ない。

 ヴィンスに笑いかけ、鞄を持ってブレンダ先生の元へと向かう。

「行こう!」
「ええ!行きましょうかっ」
「そうですね」

 私の声に二人が反応して、歩き始める。そうしてやっと長らく準備をしていた、模擬戦が開幕したのだった。



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