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仲直りって大事だね。 2
しおりを挟む夜になり、自室でヴィンスと二人で今日の座学の内容をサディアスに教えて貰っている時、突然、来訪者がやってきた。
来訪者と言ってもそれはララである。今日のことなのか、果たしてまた別件なのか、彼女は私の部屋へ入ると、私たちが勉強をしているテーブルの空いている椅子に座って、ふくれっ面でヴィンスが淹れた紅茶を飲んだ。
サディアスがじとっとこちらを睨んできているが、私は悪くない。仕方なかったのだ、喧嘩を止めないわけにもいかないし、あんなところで喧嘩をする方も悪いし。
とにかく私は悪くないし。
「ララ…………用事は何かな?」
「…………」
私の質問に彼女は答えず、ぷっくり頬をふくらませたまま黙り込む。
数分間、彼女が話し出すのを待っていたが、ヴィンスの「質問をしてもいいですか?」という質問の内容が、勉強のことだったので、何となく勉強を再開した。
サディアスは戸惑い気味に、私たちに今日の範囲を教える作業を再開する。
しばらくすれば、予習してあるヴィンスと、そもそも勉強をする必要があまりない私は、すぐ今日の範囲を終えて、ブレンダ先生の対応やお話についての話題になった。
「ブレンダは、既に今日の午前の授業に聖職者の方々に依頼をし、命や戦闘についての授業その後、相談の予定を作っていたらしい」
「神職の人?お医者さんとか、カウンセラーの人じゃなくて?」
「医者に相談してどうする。君は、たまに見当違いのことを言うな」
「う、うん、うーん。ごめん」
「悪い、別に怒ってはいないぞ」
私が謝るとサディアスはバツが悪そうに、首筋をさする。見当違いというか、まだあまり、精神医療とかそういった常識が広まっていないのだろう。そういう時代に不安に思っていることを話したり、懺悔をしたりするのは、聖職者の人って言うのもわかる気がする。
こちらの世界観では、日本より、ヨーロッパ方面の宗教感覚の方が近いのだろう。まったく詳しくないので、疑問は口にしない方が良さそうだ。
「それで、どんな感じだった?」
「ああ、朝方は混乱状態だったからな、体調が悪くなった者は医務室で、他の者は教室で相談をしていた。それから今日から入学だった編入者達は随分戸惑っていたな。あとコーディ様は、一限が過ぎた頃にはお戻りになって、落ち着きを取り戻していたように思う」
「そっか……良かった」
「ああ、そうだな。それ以降は、座学で一日が終わった。さすがにすぐに実技はやらないようだ」
それは納得だ。さすがに、嫌な思い出を濃くするだけだと思うので良い選択だと思う。そしてブレンダ先生も割と準備が良い。きっと、こういった初めての模擬戦なんかで、やり過ぎてしまったり、思わぬ事故があったりするのはよくあることなのだろう。そして、そういった時のメンタルケアはとても大事だ。
「……それは好都合ですね」
「そうだな」
「サディアス様には、負担をかけてしまいますが、こちらは明日から武器の使用申請をするつもりです」
「構わない、気にするな」
「ありがとうございます」
ヴィンス達の会話にピンとこなくて、首をかしげると、いつの間にかララも同じように首を傾げていた。
「貴方ってちゃんとお喋り出来たのね?可愛い声」
「!…………恐れ入ります」
突然喋りだした彼女に、ヴィンスは瞳を瞬かせ、少し、ぎこちなく返答を返す。
「じゃあ、俺は部屋に戻る。何かあったら呼んでくれ」
「いいえ、貴方も居てよ。ちょっと他人に意見を聞きたいの!」
「……俺は君の事情もなにも知らないんだが」
「だからいいんじゃない。ちょっと喧嘩してるのよ」
フンッとララはそっぽ向いて怒り、厄介事から逃げようとしたサディアスは言われた手前、逃げ出す事も出来ずに、座り直したしかし、彼は機嫌が悪そうだ、彼女が来る前にはそれほど、機嫌が悪いようには見えなかったのだが私の思い違いだろうか。
「…………」
彼女が何を言うのか気になっていたので、私も聞く体勢を取ってララを見つめるが、聞いてよと言ったのにやはり一向に話し出さない。
十中八九、今日のアナとの喧嘩の事だと思うのだが、難しい顔をしたまま硬直する。それから不愉快だというふうに眉を顰める。
「…………話さないのか」
「話すわよ……今から」
「そうか」
それからやはり数分、硬直した彼女は、ふと私に視線を向ける。
「貴方ってクラリスよね」
「え?……えーと」
今更な事を私に問いかける。このタイミングで?と思うが、もしかすると、彼女の前で、お嬢様言葉を使ったせいと、リーダークラスではいつも、ヴィンスがそばにいなかった。今回、リーダークラス外で会ったことによってヴィンスの存在に気がついた。
そしてよくよく考えたらクラリスじゃない?と思ったのだろう。
理由は何となく察せたので、こくんと頷く。
「ふぅん。私に復讐しに学園にきたのね!!」
「いいえ?……違うけど」
「どうしてよ!」
「え?復讐した方がいいの?」
「そうに決まってるじゃない!私今、退屈だし」
「退屈なの?」
「そうよ、退屈。つまらない、だって私より強い人この学園に居ないのよ?」
ララはピンクの瞳を陰らせて頬杖をつく。彼女の柔らかな髪は、耳からさらりと落ちた。
原作の可愛らしさが少し大人びて、なんだか悪女風な雰囲気を感じる。ララは生きている限りずっと少年漫画の主人公みたいに、上へ上へと強さと色々な人との関わりを目指して行く、スポ根ものの人生を送ると思っていた。
なのにそれがどうやら滞っているらしい。
……しかし、これは原作の作者のせいなのか?
闇深い考えだったので、ずっと忘れるようにしていた疑問が頭をよぎる。この世界が、私の元いた世界の作者が創造した世界なのかもしれないという疑問だ。そして今でもその作者の思惑通りに、物語が進んでいる可能性がある。
そうだった場合、なんやかんかやハッピーエンドにはなるけれど、私みたいなイロモノは途中で酷い目にあったり、当て馬になったりと大変そうだと思う。だから、ララには近づかない方がいい。ララ自身に世界の創造主の思惑があるに違いないと思っていた。
「じゃあ、今、ララって先生よりも強いの?」
「……強いわよ」
「ララってそんなに強くなって何がしたいの?」
「知らないわ、思い通りにならない事が嫌なの。私は私のやりたい事をできるように努力しただけだもの」
「へぇー……なるほどね」
でも、私の中には可能性がもうひとつある。
それはこの世界は予め存在していた説だ。
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