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仲直りって大事だね。 5
しおりを挟む夜更かししてしまった私は、ララに起こされた。彼女が急かすので、急いで制服に着替えて、ヴィンスと共について行くと、そこには寮の前でベラと話をする。アナの姿があった。
既に、制服は着ておらず私服で、手には大きなトランクを持っている。
アナは最初、私達に気がついて、それから少し身を引く。けれど、ララは一片の迷いもなく彼女の元へと走り出した。
凄い勢いで、突っ込んで行ったので私はてっきりタックルなのかと思ったが、それをアナはなんてこと無く受け入れて、抱きしめる。
「ッ!!っ、あ、アナぁ!!」
「ララちゃんっ!!」
今生の別れのようなハグに、ベラも私も心底驚いて二人を見つめた。
「ご、ごめんねっ、アナ!ごめんっ、……っ、……っ、私っ、いじっはってっ、貴方を縛ってっ、ごめん、アナ!」
苦しげなその声は震えていて、アナは一層強く、ララのことを抱きしめた。
「ううん!いいのっ……いいのよ、こうやって最後に会いに来てくれて、話が出来て私、すごく嬉しいから、もう、このまま喧嘩別れのようになってしまうと思ったから!!」
開け放たれた玄関から初夏の風が吹き込む。二人のスカートを風がさらって緩くなびかせた。
二人の別れの寂しさが私の心にまで伝染して、そばにいるヴィンスに何となく一歩近づいた。
「そんな、そんな事ない!!私っ、お休みの日にはいつでも会いに行くし……同じ夢を目指してなくても私達はずっとずっと親友だしっ」
「うん、うん!」
「ずっと大切でそばにいたから、いなくなるって信じられなくて、ここにいて欲しくてっ、叩いてごめんなさいっ、酷いこと言ってごめんなさい!」
「いいよ、全部許してる。それに怒ってないの……ララちゃん」
アナは少し体を離して、ララの目を見る。ララは少し泣きそうな顔をしていて、昨日、大泣きしたせいで目元が赤い。
そんな彼女の頬に手を添えて、アナは、親指で目尻を拭う。
「……私、居なくなること、許してくれなくてもいいの」
「……なんで?」
「だって、私の方が置いていってしまうって、わかっていて決断したから、ずっと恨んでもいいの、ララちゃん」
ララはふるふるとかぶりを振る。それを見てアナは、目を細めて一筋の涙を頬に伝わせた。
「ララちゃん……ララちゃんどうか、許さないで、私の無責任を、一緒に夢を追うって約束したのを諦めることをどうか許さないで、怒って…………怒っていいの」
ふとアナと目が合う。逸らすことなく見つめ返した。
「きっと、貴方と対等で、きっと同じ道を進む人も現れる。その人にララちゃんはまた望んでいい。一緒にいようって、これから先ずっと、って望んでいい。そうじゃないと、ララちゃんすごく寂しがりだから、疲れちゃうでしょう?」
「ン、……ん、……っ、うん」
「私を恨んで、私に怒って、ララちゃんはララちゃんのままでいて欲しいの、お願い」
アナは、ララに大人になるという選択肢を与えなかった。アナを許すということは、昨日彼女が沢山涙を流して決めた、苦渋の決断だったというのに、私にはあまりにも酷に思えた。
ただ、私はそんなことを思ったけれど、ララはどう受け取ったのか分からないし、表情も見えない。でも、こくこくと頷いて、再度アナを強く抱きしめた。
「う、うん、……っうん、頑張るっ、アナでも、やっぱり……っふ……寂しいのよっ」
「うん、知ってるよ、ララちゃん」
アナはにっこり笑っていた。
やはり、今までララと共に過ごしていただけある。彼女は信念のある強かな女性だ。
パッと手を離して、トランクを持つ。ララはまだ手を伸ばそうとしたが、その手は彼女を掴むことはなく空を掠める。
「……ララちゃん、元気でね」
「ッ、アナ!っ、……っ~」
ララは肩を震わせながらも、寮の外に出ることはなかった。アナは風を受けながら、トランクを少し重そうにしながらも、校門への道を去っていく。
色んなものを堪え、立ち止まるララの姿にも、トランクをきつく握りしめて、信念を貫き、歩き去るアナの姿にも、酷く焦燥感を覚えて、鼻の奥がつんとする。
思わずヴィンスの手を握った。
この場、この場所は、同じ目標を目指して進む場所、色々な思惑を交錯させつつも、それでも卒業をするまで、皆と当たり前に毎日、顔を合わせて、同じ制服を来て、くだらない話なんかしつつ、なんだかんだと行事があって、永遠を感じさせる場所。
そんな、ずっとが続くように思える場所から、ぽつりとアナは居なくなる。クラスメイトがいなくなったと言うだけでも、寂しさと悲しさが入り交じったような気持ちになるというのに、一番の親友が去っていく姿はララにはどのように見えているのだろうか。
卒業でもなく、自分だけ続く永遠に取り残される気持ちは私には分からない。
扉の向こうの木々のざわめき、その向こうに見える、金色の魔力の波、今日はそれがとても際立って見えて、それを超えて、地元に戻るアナの帰郷の旅路が安息である事を切に願った。
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