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バーベキュー大会……? 2

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 なんとか状況を飲み込んだディックは、パッと顔をあげて、それからドンッとテーブルを拳で叩いた。
 急な行動に、私達三人はディックに視線を向ける。

「……わかった!……そっか……!……っ、ああ、なんだこれ、最悪」

 それからグッと表情を歪める。
 その表情からは怒りが読み取れる。オスカーは怒っている彼に疑問をぶつけた。

「何がわかったんだ?……俺は結局、クレアはローレンスに協力する道理がねぇって事ぐらいしかわかんねぇけど」
「……エリアルは、僕、いや、僕たちに嘘をついてた、その嘘が示す事を考えれば分かるんだ!!……でもよりによってエリアルが?なんでこんな事、元々は自分が撒いた種の癖に!!」
「なぁ、ディック、落ち着け」

 グッと拳を握って怒るディックに、オスカーは宥めるように背中に手を添える。そのおかげか、ディックは声を荒らげるのをやめて、眉間に皺を寄せるだけにとどめた。それから私を見る。

「…………エリアルが言ったんだ。ローレンス殿下は確かに、この学園に害をなそうとしている。その具体的な方法は、呪いの魔法をつかってだって。幽閉されているクラリス様が、彼に協力をするはずだから、もう、殿下を…………僕ら学園側でどうにかするしかないって……そう、彼がボクらに言ったんだ」

 ……それは……おかしい。だって、クラリスは実際には、エリアルとともにいて、私のほうはローレンスに完全に協力するとは、言ってないし、つまり、学園側の人たちに、エリアルは嘘をついてだましている。

 というか、じゃあ、エリアルは学園側とは別という事?

「エリアルは、ローレンス殿下を排斥しようとしてるんだ。クレアの事を見捨てて、どうしようも無いような状態に見せかけて……」
「……」
「エリアルが、咎人になったクラリス様を手に入れるための、あの事件が、クラリス様とエリアルの共謀だったってことなら、納得も行く。クレア、君が学園側に頼れないように、君の状況を秘密にもさせているし、きっとエリアル達に協力をするとしても君は良いように扱われるだけだったと思う……」
「そうなの?」
「うん、それにこの状況だと、僕以外、誰が本物のクラリスは猫になってて、君が全くの別人だって納得すると思う?僕ら学園側の意見は結局、ローレンス殿下の思惑が達成してしまっても大丈夫なように守りを強化するという方向で話がついているんだ」

 ……なるほど、学園側の対応は決まっているんだね。
 そう考えれば、ディックが私にわざわざ話をしてくれたのは、ローレンスの思惑を阻止するという意味ではなく、本当に私の事を死なないで欲しいと思ったからだとわかる。

 学園側は、私に事情を話してしまったら、クラリスである私が、ローレンスに情報を漏らす危険性を考えて、私には何も話さない。

 そうなってしまえば、私はエリアルとローレンスどちらかに協力するしか無くなる。
 
「ただ、エリアルだけには立場的に、ローレンス殿下の思惑を阻止する命令が下っているんだ。もうそれは僕にも止めようがない。そして、こうして君に情報を共有して、君をこっち側に引き込むにしても、エリアルに阻止されると思う。君の存在がバレるのはエリアルが望まない事だから、最悪、君が消えちゃう可能性だってある」
 
 そうだろう、もしかしたら自分の嘘がバレるかもしれない爆弾を自陣営に入れるとは思えない。

「でも、無知なふりをしてエリアルに協力するのは、危険だ。エリアルはローレンス殿下が不祥事を犯したという状況が必要なはずだから、君は絶対囮にされる」
「……」
「でも、一番協力しちゃいけないのは殿下だ、だって君は完全にカティの仇だもの、呪いの力が必要だったら君は絶対に殺される」

 早口でまくし立てられて、彼の焦っている表情に私自身もなにかまずいんじゃないかという気持ちになってきて、冷や汗が出てくる。

「つまり、君は、君自身と言うかクレアは、宛もなくこの学園から飛び出して放浪するぐらいしか、僕としては窮地から脱出する手段がないって思うんだけど!……それを伝えるために僕たちにこの話を?」
「え、……えぇと」
「それとも何か別の策があるのかな?どこかに身を寄せる宛はある?とにかくこんな呑気に学園生活送っている場合じゃないよね、そっか、僕がこうして話をするまでの間にも君はいろいろと準備していたんじゃない、だから、僕の話に頷けなかったんでしょ!」

 ん、……んん?いや、まったくそんなことはない、バリバリの無策だ。そしてなんなら学園生活もそれなりに満喫している。

 私の頭が良くて、いろいろな事情を把握していたら……いや、今の話でも聞いていたら、私だって少しは逃げる手段とやらを考えて…………いただろうか。……いないだろうな。

 オスカーもディックの話に納得して、どんな策だ?という風にこちらを見る。でも、私はそんなに狡猾では無い。というか、重要な部分でも割とさし迫らないと動かないタイプだ。

 二人に向かってあははっと一応笑っておく。

「やっぱり、そうだったんだ……なら、僕らが出るのはお門違いかな」
「そうかもな、まぁ、俺はさっき話を聞いたばかりで、なんともいえねぇがクレア自身が考えてることもあるだろうし、そんでヴィンスやサディアスもいるだろ、気の回しすぎだったのかもなぁディック……良かったじゃねぇか」

 ……あ、なんだがいい感じに二人が解釈してしまった。どうしよう。なんかよく分からない部分も未だにあるのだ。とりあえずローレンスの思惑?とやらが分かったこと、それに付随してエリアルの事も聞けた。

 それなら一旦持ち帰って、作戦を練るなりなんなりすればいいのかな?

 私がそのまま何となくうんうんと考えていれば「すみません」と隣のヴィンスが声を上げた。

「お二人には、申し訳ありませんが。クレアはまったくの無策です。ディック様、少し私もお話に参加させていただいてよろしいでしょうか」
「は……はぁ?!あ、いや、話すのは、全然いいんだけどっ、無策って、ええ!?ヴィンス君ら、何も分からないクレアを放置してたの!」
「……はい、大変申し訳ございません」
「申し訳ごさいませんって……ヴィンス、お前この際だから聞くが、お前はそもそもクレアのなんなんだ」

 ヴィンスは、一旦持ち帰ろうとしていた、私とは考えが違ったらしく、私の状況を彼らに伝えた。彼の選択は割と正しいだろう、このままだと私はまた放置してしまいそうだ。
 
 面倒ごとは後に回すタイプなので、彼の一言がありがたい。とりあえず情報を聞き逃さないように、三人の会話に耳を傾けた。

「私は、元はクラリス様にお仕えしていた従者です。正しくはローレンス様から使わされていた彼女の監視役のようなものです。現在はその任を解かれ、クレアと共に学園で生活をしています」
「ん……えぇと、なんでそんなことしてたの?スパイって事?」
「わりとあんだよディック、殿下は思慮深い方だ。他国から来ている婚約者にそういう者をつけるのは稀じゃない」
「そっか、わかった。それで、今はローレンス殿下の手元から離れてるっと」

 オスカーの方がヴィンスの状況にピンと来たらしく、ディックに言い含める。それから続きを促されたヴィンスは、次に私の状況について話をする。

「ええ、ですが、その私の解任のために、クレアはローレンス様に親愛の誓いをする約束をしています」
「……なるほどそれで、バランスを取ったのか……、クレア、君は魔法の喪失が起こったら、君自身は消えてなくなるってそういう事だね」
「うん、多分ね」
「そして、現在、エリアル様、クラリス様からは全面的な協力の要請を受けています。そちらからも、協力しないのであれば、魔法の喪失をという脅しをされていますので、下手な逃亡は私は悪手ではないかとサディアス様とお話していました」

 ……聞いてない。そして私はなんだか、こちらに来た序盤よりもだいぶ崖っぷちな気がする。

 もはや、私の命は風前の灯じゃないだろうか。

「先程のお話ですと、クレアの状況を理解出来るものは学園側にはディック様以外、いらっしゃらないのですよね?この学園は、闘争に加担するのを嫌い、そして、逃亡者には居場所を与えるという性格があるでしょう、それを持ってしても、クレアは……」

 ヴィンスが言葉に詰まって最後までは言わなかったがしかしその言い方だと、私が助からないかのように聞こえる。ディックは、眉間に皺を寄せて、難しい顔をした。

「状況が状況だからね、こちらも渦中の人間を受け入れるような事をするかどうか、クレアの言葉と、何も罪を犯していない研究者兼教職者として優秀なエリアルの言葉、どちらが優位かは想像がつくでしょ」
「……、……」

 とにかくにっちもさっちも行かない状況だと言うことはわかった。でも、少し疑問に思う。そもそもどうしてローレンスはこの学園を消そうとしているのだろう。そして、それを皆は割と当たり前のことのように受け入れているが、その辺がよく分からない。

「結局、クレアの命は風前の灯ってことか?」

 ディックとヴィンスが両方とも黙ってしまい、オスカーは私が思ったことと同じことを口にした。




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