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バーベキュー大会……? 1
しおりを挟む森を抜けると展望広場の柵のすぐそばに、ディックを羽交い締めにしているヴィンスの姿があり、ディックはこれでもかと言うほど泣いていて、わたわたと暴れていた。
私がオスカーを見やると、彼は無言で近づいて行き、それから、私たちに気がついて、すぐに逃げ出そうとするディックの手をとり強く抱きしめた。
彼はオスカーに手を引かれて抱きしめられるのには、一切抵抗せず、むしろすぐに存在を確認するようにぐっと抱きしめ返した。
その様子に安心して私はヴィンスの方へと足を運んだ。
「……クレア」
「ヴィンス、どういう状況だったの?」
「……ディック様が勢いのまま飛び降りようとしていらっしゃいましたので、一応止めていたのですが」
彼は少しくたびれたようにそう言って、私はそれに少しゾッとした。ここから飛び降りたら、怪我ではすまないだろうし、結果的にヴィンスが追いかけてくれて正解だったように思う。
「そっか、ありがとう。……あの二人はなんて言うか……ディープだね」
「ええ、そのようですね」
二人が抱きしめ合うのを私たちは、何となく見つめ、暫くして、ディックが落ち着きを取り戻してポツポツと寂しかった、帰ってきて嬉しい、と甘ったるい言葉を言うのを聞いていた。
寮に四人で戻りやっと私たちはテーブルにつく。オスカーは帰省から帰ってきたところだったので、大きなトランクを持ったままだったが、とにかく、ややこしい事になる前に、すべての事を共有しておきたかった。
涙が引いて、やっと話ができるようになったディックは、ヴィンスが用意してくれたお茶をコクコク飲み、それから私に視線を向ける。
「それで? 君は全部話しちゃったんだ……僕が必死で秘密にしてたのに」
「うん……それは……ごめんなさい」
彼の攻めるような言葉に、オスカーはディックの頬をつねって「ディック」と名前を呼ぶ。彼らは横並びで座っていてオスカーはディックの事を覗き込んでいたので、顔は見えなかったが、ひえっとディックは小さく悲鳴をあげてしょぼんとした。
「キレた俺も悪かったが、お前がまず悪ぃだろ?」
「うん、そう、うん、ごめん」
「だよなぁ、じゃあもう秘密はなしだ。分かるか?」
「わかってるよ、分かる」
ディックはコクコク頷いて、オスカーの服の裾を掴む。その返答を聞いて彼はわしわしとディックの頭を撫でて言った。
「それでだ……クレア。さっきディックからも同じような話を聞いたんだが、お前は結局、ローレンス殿下に命を捧げるってので間違いねぇのか?」
「……うーん」
「それがお前の愛情って事なんだろ?その結果、ディックの居場所が消えて、二つの国が戦争になってもお前は問題ねぇって話で合ってんだろ」
「うん、まぁ事実だけ、見たらそういう事になるのかな」
オスカーは先程話を聞いたばかりとは思えないほど、的確に言葉を選んで私に聞いてくる。要はそういう事だ。
でも、それだけのつもりではない。
「しかし、お前がねぇ。あんましっくりこねぇな」
「そうかな、僕はクラリス様ならやっぱりそうなのかなって思っていたけど」
「そうかぁ?だって、このクレアだぞ、俺はクラリスって名前ぐらいしか聞いたことがねぇが、クレアがどういう性分かぐらいはわかってるつもりだったがな」
そう言われて、確かに自分らしからぬ選択だと思う。というか、多分二人の選択肢と私の中にある選択肢は少し違うような気がする。学園側につくのか、ローレンス側につくのか、そういう二つしか存在しないような話をしているが、そんなに、二極化されただけのそんな単調な話じゃないと思う。
「ありがとう、オスカー……ディックあのね。私からも、話があるの。少し、いや……結構、この話がややこしくなることだと思うんだけど聞いてくれる?」
「君から?……まぁ、いいよ」
「俺も問題ない」
「わかった、あのね───
そこから出来るだけ分かりやすく、二人にサディアスに話をしたような事を話す。ディックは口元に手を当てて考えているように聞き、オスカーは、少し難しい顔をして私の話を聞いた。
この際なので、私という存在が、どうなったら消えるのか、実は呪いのことなどわかっていない事が多いこと、そういった事を二人に伝える。
オスカーからすれば、私が、公爵令嬢であるクラリスだとさっき知って、そして結局、中身は今の私であるクレアだという事をすぐに明かされた状況になり、余程ややこしく思えるのだろうと思った。
話が終わると、どちらとも無言で、おもむろにディックは魔法玉を出し、そして口を開いた。
「君の固有魔法、ちょっと僕に使ってくれない?」
「うん」
言われて、彼の魔力を奪うようにして魔法を使う。すると、ディックは少し目をこらすように私を見た。
同時にオスカーも魔法を使い、ディックの手を握る。
どういう意味合いがあるのかはよく分からなかったが、なんとなく突っ込んで聞くような事はしない。
「…………」
「……ディック?」
「ごめん、静かにしてて」
「うん」
そうしている間にも、彼から魔力がずんずんと吸い上げられていき、しばらくすると、はぁとディックは息をついて、それからオスカーも何故か疲労困憊というようにため息をついた。
「……嘘じゃないのは……わかったよ」
「ディックのサーチの力?」
「そう……確かに君の魔法玉は妙だった。今だってコアの中心が抜けている、むしろそれを君の個性だってあまり深く考えていなかった僕がバカみたいなぐらい、確かに異質だった」
魔法をお互いに解いて、ディックはフラフラと左右に揺れながら、ブツブツと口にする。
「しかし、ひとつのコアで二人の人間が魔法を使っているのは、不思議な現象だね。エリアルならやり遂げる可能性だってあるけど……いや、そもそも、クラリス様を肉体から引き剥がす固有魔法を確率させるためのウィングだけを制作するつもりで、結局、クレアの方は副産物にすぎないのか」
技術的には可能かどうかは、正直私にはあまり関係のない話題だったのだが、ディックはそちらの方が重要だったらしく、未だにブツブツと続きを口にしている。
そんな彼に、慣れているのかオスカーは放っておいて私に声をかけた。
「しかし、お前のその中身?つうのか、その大元のクラリス様ってのは結局どこに行ったんだ?別の体で生きてるのか?」
「あ、えっと猫になっちゃったよ」
「は?」
「だから、エリアルがたまに連れている、金髪の猫ちゃんになったみたい」
「……、……人間は猫になれねぇよ」
「知ってるよでも、猫なのって」
「……」
私が当たり前のようにそう言ったからか、オスカーは反論するのを諦めて、怪訝そうな表情のまま固まった。そしてまた、しばらく、彼らの情報処理を待ちつつ紅茶を飲んだ。
「……やっぱり私の状態ってちょっと特異なのかな……」
何となくつぶやくと、ヴィンスが少し考えてから答える。
「ちょっと、では無いと思います」
「そう?」
「ええ、貴方様は、異例中の異例と言いますか、それほど現実離れしていらっしゃるのです」
「……」
「ですが、ただそれだけです。クレアはクレアですから、今ここにいる貴方様が私の主という事になんら変わりはありません。彼らとも友人ということに変わりはないと……私は思います」
……そっか……うん。
私は私、ちゃんとここに存在している。しっかりとわかっているはずなのに、この話をする度に不安になってしまうのは良くない。
「そうだね。ありがと」
「いいえ、私は本当の事を言っただけですから」
ニコニコと笑ってくれるヴィンスに笑顔を返して、彼の頭を撫でる。
「……ねぇ僕思ったんだけど、じゃあさ、君は、あのクラリス様じゃないってことだよね」
「うん」
「じゃあ彼女はどういう事になっているの?」
「猫になってるよ、たまにエリアルがリーダークラスでも連れてきてるあの金髪の猫ちゃん。あれがクラリス」
先程オスカーにも言ったことを同じように言うと、ディックはぱちぱちと瞬きをして「そう」とだけ答えた。
まだまだ理解して貰うには時間がかかりそうだった。
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