悪役令嬢に成り代わったのに、すでに詰みってどういうことですか!?

ぽんぽこ狸

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楽しいゲーム……? 5

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 コンコンと扉がノックされる。私は飛び上がって、相手も確認せずにすぐに、部屋の扉を開きたい気持ちを抑えて、ヴィンスが扉を開けてくれるのをなんでも無いような表情で待った。

 そこには長い間待っていた二人の姿がある。心待ちにしていたとバレるのが恥ずかしかったので、出来るだけ普通に対応しようと思っていたのだが姿を見た瞬間に、椅子を蹴飛ばすように立ち上がり、彼女たちの元へと向かい、落ち着かない気持ちを何とか整理しつつ、嬉しい気持ちを表情に出してにっこりと笑った。

「おかえりっ!二人とも!」

 私が言うと、二人もゆるりと頬を緩めて、ふんわりと笑う。

「ただいま戻りましたっ!クレア」
「戻りましたクレア、お変わりないですか」
「うん、風邪も引かなかったし夏バテもしてないよ」

 私に犬のようなしっぽがあったらブンブンと振っていただろうと思う。

 二人は見ない間に少し大人びているような気がして、寂しいような嬉しいようなそんな感情だ。

「立ち話もなんだし入ってよ二人とも!」
「ええ、そうさせて貰います」
「お邪魔しますっ!」

 二人を部屋へと案内して、既に用意してあった人数分の椅子へと案内する。私の部屋はサディアスの部屋のように広くは無いので少々手狭だが、そこはご愛嬌だ。

「あ、ヴィンス、これをクレアと貴方に、夏休み前に約束していたものです」
「!!……これが……」

 チェルシーは手に持っていた紙袋から缶のようなものを取り出して、ヴィンスに差し出した。約束してたものと言うのはお土産のことだろう。

「あ、私も、こちら私の地元で有名な製菓店のお菓子です。お茶請けにどうぞ」
「す、素晴らしいですね。すぐにお茶を淹れますので少々お待ちを」

 ヴィンスは少し興奮しているようで、素早く手を動かしてお茶の準備をする。

「二人とも気を使ってくれてありがとう、美味しくいただきます」
「いいえ、喜んでいただけて嬉しいですっ」
「私も、何にするか迷いましたが、クレアは甘いものが好きなようでしたから、お菓子にしてみました」
「うん、甘いもの大好きだよ私っ、ありがとうね」

 三人でニコニコしながら、テーブルにつき、ヴィンスがお茶を淹れてくれるのを待つ、その間にせっかくなので私も手元に準備していたものをテーブルに二人の前に差し出した。

「……えっと……お土産その、私は買ってこられないから……これを……二人に」

 作っている時は、きっと喜んでくれるだろうと自信満々だったのだが、いざ二人のことを目の前にすると、手作りなんて重かっただろうか、値段的に釣り合っているのかと心配になってしまい、おずおずと差し出した。

 一つづつ差し出すと二人はまじまじとそれを眺める。

「キャンドルですか?オシャレですね、お花が入ってます!」
「そうですね、学園街で買ったのですか?」
「……う、ううん」

 聞かれて何となく、装飾のリボンを弄りながら目線を逸らして言う。

「て、手作りで、アロマが入ってる……」
「!……手作りですか、クレアは器用というか物知りと言いますかっどこかで教わったのですか?」
「いや、あ、ええと……」

 教わった?……そんなのネットを見れば……いや、この世界そんなものないのだから、専用の本を買うしかない、でも、本と言っても現代のようなコピー機がある訳では無いので活版印刷だ、自ずと図で簡単に説明しているなんてことも無い。

 あ、手作りって、現代で言うハンドメイドぐらいの豆だなぁと思うぐらいの仕事量じゃないのかもしれない。

「……私が懇意にしているキャンドルショップの店主に教えて頂いたそうですよ」

 私が安直に本で読んだと言おうとするとヴィンスが助け舟を出してくれる。

「そ、そうなの!本当は買おうか迷ったんだけど、せっかくならって、手作りにね!」

 ……あっぶない。本を見せて、貸してと言われたら詰むもん。正解はこれだろう。知りたいなら私が教えるよ!と言えるし。

 ヴィンスにナイス!とウィンクを送ると彼は少し笑った。

「そうですか。しかし器用ですね貴方は。どんな香りがするのですか?」
「ん、二人には柑橘の香りにしておいたよ、気分をリフレッシュしたい時なんかに使ってみてね」
「……ステキ……ステキですっ!こんなに嬉しい贈り物は私初めてかも知れませんっ!早速今晩っあ、でも使うと無くなってしまうのですよね!!どっ、どうしましょう!」
「せっかくだし使ってよ。そしたら感想を聞かせて欲しいな」

 私が言うと、チェルシーはぬぐぐと苦悶の表情をして、それから「わかりましたっ」と決意したように持っていた紙袋にしまう。シンシアも「ありがう、大切に使わせてもらいますね」と言ってキャンドルを手にとる。私がちゃんと喜んでもらえたことにほっとしていると、ヴィンスがお茶を運んでくる。

「お待たせいたしました。チェルシー様からいただいた茶葉で淹れました……とても素晴らしい香りですね」
「ええっ、そうですね。私もこのお茶結構好きなんですっ」
「あ、本当です。私、こんなに香り高いお茶初めてかもしれません」

 一人一つづつ目の前にティーカップが並び、先程シンシアがお土産に持ってきたのだと思われるお茶菓子もお皿に並べられて出てきてヴィンスも席についた。

 二人は、微笑んで私を見る、そしてヴィンスも私を見た。

 ……これは乾杯の音頭かな?

「えっと、それじゃあ、二人の帰寮を祝いまして……乾杯」
「乾杯っ」
「乾杯」

 四人で紅茶を少し上に掲げて口をつける。
 少し口に含めば、香りと同じく味わいも強い紅茶だと分かる。苦味や渋みがあるけれど、どれもが後を引かずにふっと消えて残り香が心地よい。

 味の割には、とても綺麗な水色をしていて明るい琥珀色がとても美しい。

 ほっと一息つきシンシアに「いただきます」と一言添えて、お土産のチョコレートを口に含んでみる。中にはとろけるようなキャラメルが入っていて甘さが口いっぱいに広がる。

 ……すごい甘いや。

 口の中の温度で舐め溶かしているだけで至福である。それをまた、苦味の強い紅茶で流して、チョコレートを食べる。無限ループに陥るぐらい二つがマッチしていて、皆も同じことを考えているのか無言で、もそもそとお茶会を楽しんだ。

 一頻りお茶とお菓子を堪能して、一息つく、楽しい話もすぐにしたかったのだが、気がかりな事がある。きっと二人も察しているというか、そもそも、やはりこの場に彼だけいないと言うことが違和感で、ぬぐい去る事は到底出来ない。

「学校が始まるのは明後日からだったよね」
「そうですね!始業式があって、すぐに個人戦の訓練があるのではありませんでしたか?」
「はい、今後の予定はそのようになっております。秋口はとても忙しいでしょうね」

 ヴィンスが答えて、個人戦かと思う。私は正直、固有魔法を使って一勝できるか出来ないかだと思う。
 私が掛けるべきは団体戦だけど、私自身の戦闘力を上げておく事も重要だ。やれる所までやってみたい。

「そうですよね。すぐに始まる学園生活に向けて、今日あたり帰ってくる人が多いと思うのですが……サディアスの帰寮予定については、クレアは連絡を受けていますか?」

 私が言いたかったことをシンシアが言ってくれる。ふるふると首を振ると「そうですか……」と少し沈んだ返事が返ってきた。

「馬車が遅れてる……とかじゃないよね。二人は夏休み中にあったアウガスの事件知ってる?」
「はい。サディアスの家名が載っていたので驚きました」
「ええ、私も、同じです!……けれど、あの事件のあったせいで情報規制が行われているようでして、得られる情報はありませんでした」
「そっか」

 わかっていた事だ。メルキシスタ出身の二人は、私の知っている情報と同じ程度の情報しかないだろう。話をしても、多分進展はしない。

 でも、学園が始まる頃になれば、彼がひょっこりと、なんてこともなかったかのように帰ってくるのでは無いかという希望もあった。しかし今ここにいないという事は、もしかすると本当にテロに協力したと疑いをかけられているのではないかと不安になる。

「けれど……クレア、サディアスは貴族です!どんな事があっても私たちは、何もする事はできません。ただ、無事を祈って待つばかりですっ」
「……そんな……」
「私もそう思います。気を揉んでも仕方ありません。それよりも下手に行動して、サディアスと敵対している貴族に目をつけられてしまわぬよう、静かにしているべきです」

 二人の反応は私が思っていたものとはまったく違って、何かすぐにでも行動をしていまいたい私を少し諌めるような言葉だった。

「もし以前、私がサディアスのことを良いと思っていると言ったことを気にしているのでしたら、忘れてください!難しい問題の渦中にいるのであれば私は考えを改めます」

 チェルシーの発言に目を剥く。そして思わず強く拳を握ってしまった。

「そんなっ……そんな事で?」
「いいえ、重要な事です、クレア!私たちはただの学生ですが、家族があって家があるのですっ、わざわざ格上の敵を作るような動きをしてどうしますか?」
「……でも」
「貴族の問題は貴族以外が解決することはできませんクレア。ここは苦痛であっても耐えるしかありません」

 二人共に同じようなことを言われて、私は言い返すことが出来なくなる。そんな薄情だと思いつつ、体が動かない。
 




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