176 / 305
もっと早くこうして欲しかったんだけど……。4
しおりを挟む言い返したい、けれども、気をつけろと言われているし喧嘩をすれば怒られるし、それに多分そういう感じで解決するようなことでも無いようなきがして、私は押し黙った。
そんな私を見てか、それとも、そう決めていたのか、ディックはふと私の手を離す。
「クレア……いいから。僕は全然気にしてないし」
彼は俯いて前髪で表情を隠す。
そんなわけないとわかっていつつも、誰もこの諍いを止めないし、窘めないという事は、この世界で国を捨てた人々の集まりであるこの学園の人たちはそういう風に言われてもおかしくは無いのだろう。
「……でもっ」
「本人がそう言っているのに、貴方がそれを否定するのはボクはお門違いだと思う。さっさとグループ作ってしまわないと授業が遅れる」
最もらしいような事を言って、コーディは私を見据える。こんな風に普通に話もするし、言葉もわかる人なんだなとかいろいろ感想があるのに、何をどう言い返しても大丈夫なのかわからないし、単純にコーディ自体が私は苦手だ。
「……」
「決まったかなぁ、それそれじゃ後一人を──────
クリスティアンが柔らかな声でそう言うと、それを遮るように、見知った声がする。
「私を入れてくれるかな、同じクラスでは無いけど構わないだろう?」
「ええ……もちろんでございます、殿下」
…………ローレンス。ああ、もう。なんだろう、いろいろややこしい。とにかく面倒なことになった。
ローレンスとクリスティアンはニコニコと微笑みあって、二人とも何を考えているのかわからないし、コーディはいつも通りの無感情な顔でどこを見ているのか謎だし、シャーリーはもう怖い!とにかくわからんし怖いし!
ディックは俯いたまま何も言わない。
兎にも角にも嫌なメンツが揃ってしまった。
「グループができたら、一試合目の人選を決めてください。試合開始は十分後です」
私達のグループができたのが一番最後だったようで、すぐにエリアルが言う。ぱっと彼の方を見るとクラリスと目が合ったような気がして、こんな事で動揺している場合では無いと思い直す。
……私は……頑張らなければならないのだ。
皆がテーブルに移動していくのについて行く。胃が痛いような面子でも私に異を唱えることは出来ない。
……出来るだけディックが傷つかないようにだけ気をつけよう。また、しょんぼりして、生気がなくなってしまったらオスカーに顔向けが出来ない。
グッと拳を握る。
それから、彼らと同じテーブルについた。
敵意だとか、それ以外の暗い感情を向けられている。それを自覚して、たじろいでしまったら終わりだ。気にしないでいこう。
でも良かった。今日は慣れないながらも少し高いヒールを履いていて、少しは身長差も改善されている。
「私は最後の試合でいい、それ以外は君たちが決めてくれて構わないよ」
「承知いたしました、殿下」
ローレンスはこのグループに入ったものの、特に何かを言うでも、私とコンタクトを取るわけでもなく、それだけ言って、護衛の騎士が持ってきた椅子に机とは少し離れた位置で座り、それから運ばれてきた彼専用のテーブルでお茶を飲み始める。
なんだか意味深な彼の目線が私に向けられて、厄介事を見物しに来ただけじゃないかと思う。これはローレンスが仕掛けた意地悪ではないが、恨めしい気持ちが募る。
機嫌は良いようで、楽しんでいるみたいで何よりなのだが、少しぐらい私のことを心配してくれてもいいと思う。でもそれを彼に望むのは……なんというかプライドが許さないのだ。
「じゃあ、一試合目は誰が出るか決めないとねぇ」
クリスティアンの言葉に、シャーリーはふんっと鼻を鳴らす。それからピシャンと扇子を畳んで、すっとディックの方へと向ける。
「身のほど知らずの下賎の者の相手は、わたくしがする事にしたわ、構わないでしょう?」
よっぽど私より悪役令嬢らしい彼女の扇子さばきは素晴らしいものだが、それはダメだ。この学園では、強い事が一番の力の証明だ。
彼女達からしたら、それを証明できない地位もない人は出身を貶されても文句を言えないと本気で思っている。それは分かるその理屈だって、ララが強さでのし上がった実力至上主義にだって良さはある。
でもその前に、そんな事より、私はそんな敗北をさせられたらディックが傷つくと思う。勝ったり負けたり、そうやって悔しくなったり喜んだりして強くなる。
でもこの試合で二人が戦って、果たして勝ってディックは喜べるだろうか。というかちゃんと戦ってくれるだろうか。こんなに気後れしている彼が対等に戦える相手じゃない。ディック自身も彼女と試合することは望んでいないだろう。そんな一方的で、身分の差で強制される試合など暴力と同じだ。
「……何が、何が構わないでしょ?なのかしら」
シャーリーを私は睨みつける。彼女はまったく怯んでいる様子もない。でもこっちとら、年上で大人なのだ、屁理屈だとなんだと言われようとも最もらしいことを言うのだって得意だ。
「身の程を知らないですって?シャーリー、貴方は気に入らない人がいたらそうやって、すべてに噛み付いてけりを付けるのかしら?そもそも、貴方達から、わたくしにグループの誘いをかけたのでしょう?自ら、私に誘いをかけたのにそばに居る彼を侮辱して、追い払おうとするなんて幼稚にも程があると思わないのかしら?」
「…………なんですって」
「わたくしは、貴方が恥ずかしい人間に見えると言っているのよ、何がくだらないですわね、ですの?何がわたくしらしくないといいますの?彼と試合がしたいというのなら、そもそもまずは謝罪をするべきだとは思わないのかしら?」
早口で呼吸も忘れて、まくし立てる。自分でもことを大きくして挑発に挑発を重ねているということは理解出来ているが、私は、貴方達の知っているクラリスじゃない。
それに……ディックは言い返せないのではなく、彼の性格上言い返さないと言うだけだ。言い返してなにか彼に不利益があるとは思いづらい。一貴族が学園にいる人間に、私怨で権力を振りかざしてディックの生活を脅かすようなことができるのであれば、このユグドラシル魔法学園が二国間の間を取り持つなんて不可能だ。
だから、私が彼を庇うことによって、不利益を被るのは私だけだ。ディックは、言い返せるし、ちゃんと立場はある。でも、きっと、向いてないだけなんだ。
割と繊細みたいだし、そういうのが得意でない人間はいる。それにディックは凄いんだ。頭だっていいし、口は悪いけれどいい子なんだ。
「急に接触してきて、わたくしになんの話があるのか知りませんけれどね。わたくしの大切な人達を侮辱するような人、そしてそれをただの傲慢だと気が付かないような愚鈍な人間に話をすることなどありませんことよ、おわかりなります?その自尊心と傲慢さしか持ち合わせないスカスカな脳みそでよくよく考えてくださいませ。シャーリー」
睨みつければ、彼女の顔は、いつの間にか真っ赤で、ピシャンともう随分聞きなれた音と衝撃が頬を打つ。
「…………不愉快極まりないわ…………貴方…………覚えて……おきなさいよ」
怒りを抑えているような震える声に、私はかっと熱くなっている頬を無視して彼女を見つめる。
「ふんっ…………気に入らないから手を出すだなんてますます幼稚ね」
捨て台詞のような事を言った彼女に、私は追い打ちをかける。シャーリーは頬を引き攣らせて、目を見開く充血した瞳は怒りに染まっていて、おもむろに私の肩を突き飛ばすように押す。
「……わかりましたわ……そこまで仰るのだったら、わたくしは貴方と試合をしますわ…………大口を叩いたことを後悔させてあげるわ」
負ける未来以外見えないが、逃げる訳にはいかない。喧嘩を売ったのは私だ。彼女はいつの間にか線が引かれていた少し小さめのコートに入る。
私も続こうとすると、服の裾をディックに握られる。
……やっぱり優しいね、ディック、大丈夫。多分死なない。
安心させたいと思うと、彼女に向けていた虚勢の笑顔ではなく、本当の笑顔がこぼれた。それからローレンスを見る。彼は相変わらず、傍観を楽しんでいるようで、ひらっと私に手を振った。
21
あなたにおすすめの小説
転生しましたが悪役令嬢な気がするんですけど⁉︎
水月華
恋愛
ヘンリエッタ・スタンホープは8歳の時に前世の記憶を思い出す。最初は混乱したが、じきに貴族生活に順応し始める。・・・が、ある時気づく。
もしかして‘’私‘’って悪役令嬢ポジションでは?整った容姿。申し分ない身分。・・・だけなら疑わなかったが、ある時ふと言われたのである。「昔のヘンリエッタは我儘だったのにこんなに立派になって」と。
振り返れば記憶が戻る前は嫌いな食べ物が出ると癇癪を起こし、着たいドレスがないと癇癪を起こし…。私めっちゃ性格悪かった!!
え?記憶戻らなかったらそのままだった=悪役令嬢!?いやいや確かに前世では転生して悪役令嬢とか流行ってたけどまさか自分が!?
でもヘンリエッタ・スタンホープなんて知らないし、私どうすればいいのー!?
と、とにかく攻略対象者候補たちには必要以上に近づかない様にしよう!
前世の記憶のせいで恋愛なんて面倒くさいし、政略結婚じゃないなら出来れば避けたい!
だからこっちに熱い眼差しを送らないで!
答えられないんです!
これは悪役令嬢(?)の侯爵令嬢があるかもしれない破滅フラグを手探りで回避しようとするお話。
または前世の記憶から臆病になっている彼女が再び大切な人を見つけるお話。
小説家になろうでも投稿してます。
こちらは全話投稿してますので、先を読みたいと思ってくださればそちらからもよろしくお願いします。
転生したら悪役令嬢になりかけてました!〜まだ5歳だからやり直せる!〜
具なっしー
恋愛
5歳のベアトリーチェは、苦いピーマンを食べて気絶した拍子に、
前世の記憶を取り戻す。
前世は日本の女子学生。
家でも学校でも「空気を読む」ことばかりで、誰にも本音を言えず、
息苦しい毎日を過ごしていた。
ただ、本を読んでいるときだけは心が自由になれた――。
転生したこの世界は、女性が希少で、男性しか魔法を使えない世界。
女性は「守られるだけの存在」とされ、社会の中で特別に甘やかされている。
だがそのせいで、女性たちはみな我儘で傲慢になり、
横暴さを誇るのが「普通」だった。
けれどベアトリーチェは違う。
前世で身につけた「空気を読む力」と、
本を愛する静かな心を持っていた。
そんな彼女には二人の婚約者がいる。
――父違いの、血を分けた兄たち。
彼らは溺愛どころではなく、
「彼女のためなら国を滅ぼしても構わない」とまで思っている危険な兄たちだった。
ベアトリーチェは戸惑いながらも、
この異世界で「ただ愛されるだけの人生」を歩んでいくことになる。
※表紙はAI画像です
我儘令嬢なんて無理だったので小心者令嬢になったらみんなに甘やかされました。
たぬきち25番
恋愛
「ここはどこですか?私はだれですか?」目を覚ましたら全く知らない場所にいました。
しかも以前の私は、かなり我儘令嬢だったそうです。
そんなマイナスからのスタートですが、文句はいえません。
ずっと冷たかった周りの目が、なんだか最近優しい気がします。
というか、甘やかされてません?
これって、どういうことでしょう?
※後日談は激甘です。
激甘が苦手な方は後日談以外をお楽しみ下さい。
※小説家になろう様にも公開させて頂いております。
ただあちらは、マルチエンディングではございませんので、その関係でこちらとは、内容が大幅に異なります。ご了承下さい。
タイトルも違います。タイトル:異世界、訳アリ令嬢の恋の行方は?!~あの時、もしあなたを選ばなければ~
悪役令嬢に転生したので地味令嬢に変装したら、婚約者が離れてくれないのですが。
槙村まき
恋愛
スマホ向け乙女ゲーム『時戻りの少女~ささやかな日々をあなたと共に~』の悪役令嬢、リシェリア・オゼリエに転生した主人公は、処刑される未来を変えるために地味に地味で地味な令嬢に変装して生きていくことを決意した。
それなのに学園に入学しても婚約者である王太子ルーカスは付きまとってくるし、ゲームのヒロインからはなぜか「私の代わりにヒロインになって!」とお願いされるし……。
挙句の果てには、ある日隠れていた図書室で、ルーカスに唇を奪われてしまう。
そんな感じで悪役令嬢がヤンデレ気味な王子から逃げようとしながらも、ヒロインと共に攻略対象者たちを助ける? 話になるはず……!
第二章以降は、11時と23時に更新予定です。
他サイトにも掲載しています。
よろしくお願いします。
25.4.25 HOTランキング(女性向け)四位、ありがとうございます!
悪役令嬢になったようなので、婚約者の為に身を引きます!!!
夕香里
恋愛
王子に婚約破棄され牢屋行き。
挙句の果てには獄中死になることを思い出した悪役令嬢のアタナシアは、家族と王子のために自分の心に蓋をして身を引くことにした。
だが、アタナシアに甦った記憶と少しずつ違う部分が出始めて……?
酷い結末を迎えるくらいなら自分から身を引こうと決めたアタナシアと王子の話。
※小説家になろうでも投稿しています
悪役令嬢に転生しましたが、全部諦めて弟を愛でることにしました
下菊みこと
恋愛
悪役令嬢に転生したものの、知識チートとかないし回避方法も思いつかないため全部諦めて弟を愛でることにしたら…何故か教養を身につけてしまったお話。
なお理由は悪役令嬢の「脳」と「身体」のスペックが前世と違いめちゃくちゃ高いため。
超ご都合主義のハッピーエンド。
誰も不幸にならない大団円です。
少しでも楽しんでいただければ幸いです。
小説家になろう様でも投稿しています。
幽霊じゃありません!足だってありますから‼
かな
恋愛
私はトバルズ国の公爵令嬢アーリス・イソラ。8歳の時に木の根に引っかかって頭をぶつけたことにより、前世に流行った乙女ゲームの悪役令嬢に転生してしまったことに気づいた。だが、婚約破棄しても国外追放か修道院行きという緩い断罪だった為、自立する為のスキルを学びつつ、国外追放後のスローライフを夢見ていた。
断罪イベントを終えた数日後、目覚めたら幽霊と騒がれてしまい困惑することに…。えっ?私、生きてますけど
※ご都合主義はご愛嬌ということで見逃してください(*・ω・)*_ _)ペコリ
※遅筆なので、ゆっくり更新になるかもしれません。
溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~
夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」
弟のその言葉は、晴天の霹靂。
アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。
しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。
醤油が欲しい、うにが食べたい。
レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。
既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・?
小説家になろうにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる