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本当の罪……。2

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 何が、無理しないで欲しいだ。
 自分の行動が心底滑稽に見えて、こんなヒロインぶってる場合じゃないと思う。こんな風に思うことさえ許されないような気がする。

 パッと手を離して、ローレンスの方を見ると、彼はベットの縁に座り直して、観察するようにこちらを見つめている。
 
「慰めてあげようか……それとも、私を罵ってみるのはどうだろう」

 そんな事を言う彼を無視して、どうしようかと考えた、落ち着かない。どうしたら、彼の家族みんな生活が立ち行かなくなるかもしれないという不安に陥らせて、彼を酷く無理をさせるまで追い込んだ、償いができるだろう。

 ……貴族派に協力すればいい?そしたら、それでいい?

 落ち着かなくて、自分の手を自分で握るみたいにして、冷えた指先まで血液を送る。

 そんな私に、ローレンスはおもむろに胸ぐらを掴んだ。それから引き寄せて、強引に唇を合わせてくる。軽いフレンチなキスではなく、強引に舌が滑り込んで来て、まるで陵辱するみたいで、反射的に身体を引く。
 
 すると、後頭部に手が回ってあっという間に動けなくなる。

 水音が頭の中からしているような深いキスで、思考がままならない。

「ンッ……っ、」

 呼吸のタイミングが分からなくて、頭に血が上っているような感覚がする。視界がちかちか白んで、涙が頬を伝う。

 それからローレンスは私を離した。

「っ……はぁっ……っ……」

 肩で呼吸をして、涙を拭う。
 今はローレンスの行動などどうでも良かった、それにこんな体、こんな私と言う人間はどうせなら、クリスティアンにでも抱かれとけば良かったのだ。

 ……別にそれでも良かった。

 私がまた、同じように手を手で揉んでいると、ローレンスは私の両肩をつよく掴む。それから痛いくらいに力を込めて、じっと私を見る。

「君を、たまに本当に殺したくなるよ」
「……」
「不愉快だな……今度は君のチームメイトにも何かしてみようか?」

 その表情は迫力はあるのに、セリフと似合わず、泣きそうな子供みたいで、何となく納得がいく。

 ……ローレンスって幼児みたいだ。

 子供がわざと他人が怒ったり嫌がったりすることをする時があるだろう。その場合には愛情を試している場合がある。試し行動というらしく、大人の恋愛でも有り得るらしい。

 それがちょっと湾曲しているような感じだ、要は彼の言う、呪いが欲しい、火種が欲しいという言葉だってさ…………大人の注目が欲しい時の子供と同じだ。
 
 だから、怒るんだ。無関心に、一番怒る。

 でも、ローレンスがそうだとは、大抵の人間の場合は気が付かない。彼は、それほど普段から、大人びていてきちんと教育されていて、育ちが良いのがわかりやすい。
 
 じっとこちらを見ている彼が、まったく私の抵抗できない力で、私を押さえ込んでいる彼が、なんだか寂しい子供に見えて、ふと言ってしまう。

「わかったから……ごめんね、ローレンス」

 そうだとしたら、私の無関心は良くないことだったのだろう。私は彼の親でもなんでも無いけれど、嫌がることをわざとしてその反応を見に来るその寂しさに報いてあげられなかったことを謝る。

 ……私にもう少し余裕があればな。

 もう少し気がつくのが早ければと思う、でも今は、私のせいで、取り返しがつかないのだ。サディアスは間違いなく心の傷を負っている。大元は私ではなくても、それを酷くして、滅茶苦茶にしたのは私だ。

「期待に応えられなくて……ごめんね」
「……」

 私の言葉に彼は、目を見開く、それから手を離す、ふらっと立ち上がって、取り繕うように笑顔を浮かべた。

「……個人戦が終わったら、誓いをしよう、いやもっと早やくてもいいね」
「ううん、その頃に、私から貴方に会いに行くからその時にしてくれない」
「…………いいよ、少しくらい自由な時間をあげよう。精々、楽しめばいい」

 じゃあタイムリミットは、その時までだ。

 ああ、死にたくない。

 ローレンスは、笑顔を浮かべたまま去っていく、その姿を見て思い出して、私はベットから降りた。もしかしたら渡せる日は今日で最後かもしれないと思う。

「待って!」

 私が呼び止めると、彼は一応止まってくれて引き出しから、アロマキャンドルを取り出して、ローレンスの元へと向かった。手を取ってそれを持たせる。

「キャンドル、作ったから貰って、ローレンスがよく眠れるように、ラベンダーの香りが入ってる」
「……」

 彼はその簡素な包装のキャンドルに視線を落として、ふと私を見る。

「…………私は君が分からない。それだけじゃなく酷く不快だ」

 きっとローレンスは、自分の行動の根源のようなものに気がついていないのだろう。この前にも理由はないと言っていたし、いや、私が考えた理由がそもそも合っているのかも分からないが、必ず、他人の害になる事をわざわざすると言うのには理由があると思う。

 彼は意味の分からない人間なんかじゃない、でもそれをローレンス自身が一番わかっていないのだろう。 

 だから、私の行動の意味だって、分からない。人は、そう簡単に他人を恨むとか好きだとか、嫌いだとか大切だとかそういう事ひとつの感情で支配されるような事は無い。それをローレンスは少し極端に見すぎだ。

「うん、ごめんね、おやすみ」
「…………おやすみ」

 それでもそれを伝える時間はなくて、私は、諦めて言う。するとローレンスもしばらく沈黙してからそう言って部屋から出ていく。

 彼が去った部屋は静かで、私はひとつため息をついた。覚悟が決まった。もう、ウジウジ言ってられない。        

 その日の夜は結局、眠ることは出来なかった。




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