悪役令嬢に成り代わったのに、すでに詰みってどういうことですか!?

ぽんぽこ狸

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サディアスの出した答え……。2

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 混ざるというのが、ララにとっての私やアナとの付き合い方で、お互いのまま好きというのがローレンスとの距離感。
 
 まどろっこしいが、何となくわかる気がした。

「私は私が許せる人以外と混ざったりしなくないのよ!わかる!?」
「うーん、難しいけど、わかるような」
「いいえ! 貴方にはわかるけど分からないわよ!!」
「え……えぇ」
 
 力づよくそう言われて、思わず声を漏らす。ララからすれば私には、わかるけど分からないらしい。

「わかるはずがないわ!貴方ったら、誰も彼もぐちゃぐちゃ混ざって柔らかいのよ!!」
「やわ、柔らかい……?」
「ええ!! 貴方は!…………貴方は…………貴方だから、私は混じったっていいのよ。私の形を変えようとしないから…………」

 ララは噛み締めるようにそう言って、それから、私の頬に手を添える。

「貴方は優しいから、いいのよ。心を許せるの」

 心細い声だった。柔らかいは優しいに変わったらしい。それならきっと、混じり合うことは優しくし合うことなのかもしれない。

 ローレンスのような優しさではなく、アナみたいな優しさを向け合うそれが、きっと、ララにとって必要な事だ。ララも望んでいる事だ。

 きっと彼女はその欲求が満たされて居ない。

 だから私はそれをローレンスに求めろといった、そして、ララは私に言った。心を許せるのだと。

 ……私もララに許せる。そう言いたい心を押し殺して、やんわりとその手を拒否して一歩距離をおく。

「……きっと」

 きっと他にもそう思える相手ができるよ、なんて無責任な事を言ってしまいそうになって、口を噤む。

 ララは私の行動に何かを汲み取ったようで、じっと私を見つめた。それでも私は彼女に言える言葉が思い浮かばない。

「……」
「……」

 先に口を開いたのはララだった。

「貴方、私の前から居なくならないわよね?」

 鋭い質問に、心がズキリと痛む。また胃が痛んで少し背を丸めた。

「?……どうしたの、大丈夫? お腹痛いの?」

 心配そうな声に、私は「大丈夫だよ」と返して、ララの手を取った。口からは、さっきの言葉より、余程無責任な言葉が滑りでる。

「居なく、ならない。大丈夫、だよ」
「そう!…………そう、それなら、いいのよ」

 ごめんねも、許しても、さよならも言えなくて、私は自分の希望を口にしてしまった。大丈夫だと言いたい、言ってあげたいという気持ちが、全てを押し流して、言ってしまう。
 
 言ってはいけない嘘にララは、安心したとばかりに微笑んで、私の手を握る。

「きっと、夜風に当たったせいね。薄着だもの、冷えたのだわ」
「……うん」
「早く部屋に戻って眠るのが一番よ。貴方は弱いんだもの」

 その言葉に少し違和感を覚えた。私は弱い、その言葉にララは少しも嫌悪感を含んでいなかった。

 ララは弱い者が嫌いだ。自分が強くなるためにひたすらに努力をしたからだ。それをしない人間が自分に寄りかかるのを嫌がっていた。

 ……弱い人も許せるように思う事があったのかな。

「……ありがとう、ララ、そうするね」
「ええ、またね。おやすみ」
「うん…………おやすみ」

 またね、とはいえなかった。私は酷い人間だ。バルコニーから魔法を使ってぴょんと去っていく彼女を見送って、それからお腹を抑えながら、ゆっくりと月を見た。

 真ん丸のお月様は、前世で見た十五夜の月よりも余程綺麗で、それはきっとこの光の波のおかげだと思う。

 光の海に、ぼんやり浮かぶ、まん丸の月。静かな夜は心地が良かった。

「酷いことをするのね」

 聞きなれた声がする。今日は来客が多いらしい。

 視線だけで見てみれば、金髪のしっぽをゆらゆら揺らして、鋭くこちらを見やるクラリスの姿があった。

「聞いてたの?」
「ええ、大方は聞いてましたのよ」
「……そう」

 クラリスはするするとこちらに歩いてきて、私の腕に触れるか触れないかというところで、止まってすとんと柵に腰を下ろす。

 私と同じように月を眺めるようにして、上を見あげて、その柔らかい毛並みを靡かせる。

 クラリスとは最近まったくと言っていいほど話が出来ていなかった。彼女の方から来てくれてありがたい。

「ねぇ、クラリス」
「何かしら」
「……聞きたいことがある」

 クラリスは私が居なくなって、心情的な意味ではなく、物理的に困る人間のうちの一人だ。彼女はローレンスを排斥したい、そのためには、私が殺されて、ローレンスの手に呪いの力がなければならない。
 自ずと私が、貴族派に協力するような動きをすれば、彼女はそれを阻止するように動かざるを得ない。

 けれど、クラリスはまるで今まで手を出してこなかった。何かまったく別の思惑があるのかもしくは……。

「サディアスにクラリスが言った事、それが知りたい」

 ……サディアスに対してクラリスがした事、それに対して、クラリスが罪悪感を持っているから、サディアスの目的の方を優先したという可能性だ。

 だって、クラリスは私の知るクラリスという人間は、故意に人を傷つけるような事を好むような子じゃない。

 だから、何か理由があると思うんだ。どうしてもそう思わずにはいられない。

「……」

 クラリスは、気持ちよさそうに寝かせていた耳を真下に向けてイカ耳のようにさせる。

 彼女にしてはわかりやすい、感情表現に私は少し可愛く思って、おでこの部分をこしょこしょと撫でた。

「…………ただ、本当の事をサディアスに教えてあげただけですわ」
「本当のこと……ね」
「そうですのよ、世界の真実を教えてあげたたけですの」

 声音はどこか悲しげで、彼女の心情が伺える。

「この世界は、ままならない事ばかりですのよ。彼はわたくしの次に、ララの影響を受けた子だったわ。だから、わたくしが自分にしたように、サディアスに言ったのよ」
「……」
「何を恨んでも、何を呪っても変わらないのよ。大きな力に凡庸なわたくし達にはただ、揉まれて奪われて悲しむ事すら許されませんわ」

 まだ、小さな彼女が、この小さな身体でそんな事を考えて、自分を奮い立たせていたのだと思えば、決して責めることが出来ない。

 自分がそうしなければならず、そして、そうする事で立ち直れた。それを他人が出来ないかもしれないなどと考える事は出来なかったのだろう。

「ただ、抗うなと教えてあげましたのよ。人前で無様に泣きじゃくるサディアスに、醜い抵抗はおやめなさいと言ったのよ」

 あの彼が泣きじゃくっている姿なんて想像もできなくて、心が苦しくなる。

「ただ、責任を果たす以外に、逃れるすべなんかないのですわ」
「…………うん」
「今だって、わたくしを継いだ貴方もそうですのよ」

 視線を向けられ、その通りだと思う。クラリスはちゃんと全てを果たして散った。そしてその後に、やっと自由があった。ただ、クラリスという人間自体は、いまだにたくさんのしがらみに囚われて、私は毎日首を絞められるような思いだ。

「そうだね……私もそう思う」
「……」

 私が肯定するとクラリスは黙り込む。それから、スリッと私の二の腕に擦り寄った。



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