悪役令嬢に成り代わったのに、すでに詰みってどういうことですか!?

ぽんぽこ狸

文字の大きさ
223 / 305

私の愛も、彼らの愛も……。7

しおりを挟む



 個人戦三日目、ヴィンス、サディアスは勝ち上がり、チェルシーとシンシアは敗退となってしまった。

 やはり三回戦目を勝利すればバッチが手に入ると言うだけあって、それぞれが見知った強者と当たる事も多くなっていた。
 
 ララや、ローレンスは優勝候補としてもちろん残っているし、コーディ、ローレンスの護衛達、オスカーなんかも個人の能力値は非常に高い。

 シンシアもチェルシーもその人たちに並ぶほど強くはあるのだが、あと一歩というところで及ばなかった。

 ちなみにクリスティアンは不戦敗だった。こうする事によって、戦って負けたという事実が残らないので、賄賂の効果がよりよく発揮されるらしい。

 そして彼からは諸々のお礼と称して、試合が終わってから来て欲しいと呼び出しを受けている。

 ヴィンスとも、サディアスとも気まずい私はその誘いに飛びついた。だって二人とは何を話せばいいのかまるで分からない。

 それにだ、あの二人の意見が一致してしまっている。つまりは、もはや私が意見を言っても納得させるというのは無理なのだ。

 もしかすると、上手く言いくるめられてしまうかもしれないぐらいである。でもこういう事はできるだけ流されない方がいいのだ。

 車椅子を押して貰いながら決意を固める。

 ちなみに車椅子を押してくれているのはクリスティアンである。彼は、どうやらヴィンスにもサディアスにも割と懐疑的なので、私がクリスティアンと二人きりで話をしたいと言えば、それに合意してくれた。

 侍女ちゃんが扉を開いてくれて、クリスティアンはソファのすぐ側に車椅子をつけて、それから私を移動してくれる。

「ありがとう、手間かけてごめんね」
「気にしないでくれよ、元を辿れば私の失態だからねぇ」

 降ろされて制服の裾まで、きちんと整えてくれる彼に、貴族なのに豆だなと思いつつ、私はここに呼ばれた理由のお礼とはなんだろうと考えつつ、部屋を見渡す。

 相変わらず整えられた、ホテルのスイートみたいな部屋で、あんな惨状があったとは思えない。片付けるのに随分苦労しただろうと思う。

 というか、あの時破損したものは買い換えたのだろうか? カーペットから、サディアスが吹っ飛ばしたテーブル、それから血にまみれたソファも。

 よくよく思い出して見れば新品のように見えてきて、一体いくらかかったのだろうと、考えれば、弁償の二文字が頭に浮かぶ。

 だって絶対高級品……だよね?
 
 私のおしりを柔らかく包み込んでいるソファの座面を撫でる。ふわふわで柔らかくて、良い品質だ。いくらするのだろう。請求されたらお小遣いで足りるだろうか。

 そんなことを考え出すと冷や汗が止まらない。別に貧困家庭で育った訳では無いが高級品と意識してしまえば、挙動が不審になっても仕方がないのだ。

 私が作り笑いをひきつらせてそんな事を考えている間にも、部屋の主であるクリスティアンはお茶を淹れて私の前に差し出し、斜め向かいに座った。

「…………とりあえず寛いでくれるかなぁ。少し緊張しているように見える、信頼してくれとは言えないが、君に危害を加えるような事は今後ないと誓うよ」

 ゆるっと微笑んで、困り眉のまま私に言う。私はとりあえず弁償を要求される事は無さそうだと安堵しつつ、お茶をいただき、侍女ちゃんが出してくれたお茶菓子のクッキーをいただく。

 この世界が本当に甘いものや食事が美味しい世界で良かったな、などという大規模な感想を抱きつつ、クリスティアンに直接伝えると、彼は「好きならいくらでも出すよ」とニコニコ笑う。

 それから、一呼吸おいて、彼はおずおずと私の前に小箱を差し出した。

「……ん?」
「いくらか方法は考えたのだけれどねぇ、君が果たして何を喜んでくれるのか分からなかったものだから」

 そう言ってパカッと小箱を開けば、その箱はリングケースになっていて、大きな宝石のついた、シルバーのリングが収まっている。

 大きな宝石が一番目を引くのだが、そのまわりにあしらわれている小さな花のような形に嵌め込まれている宝石達もとても美しい。

 人生で、ショーケースの中でしか見たことがないような、とんでもない高級な指輪に私はギョッとしてクリスティアンを見る。彼は、いつの間にか悲痛な顔になっていて、それからソファから降りて両膝をついた。

「今日、私の誘いに乗ってくれてありがとう、クレア。君にお礼がしたいと言ったがその前に、私は君に許しをこう必要がある」
「ゆ、ゆるし?」

 私より下にある、頭に、彼の悲痛そうな顔。そもそも、フランクに接してはいたのだが、彼だって十二分に身分の高い人間だろう。

 そんな人が私に跪いているのは如何なものだろうか。クリスティアンの周りの女の子たちにリンチにされそうである。

「そうだよ、赦し……私は、知らなかったとはいえ君に辛くあたっていただろう。そもそも……君は言わないが、君が怪我を負う羽目になった事の一旦は私にある。それでも協力をしてくれた君に、正式に謝罪をさせて欲しい」

 見上げられる形で、私は、彼と目を合わせた。

 言われてみれば、サディアスの行動が濃すぎてクリスティアンについては、あまりどうこう思っていなかった。そして、もう既に終わったこととして対処していたような気すらする。

「本当に申し訳なかった。……私の誠意を形にさせてもらった、受け取って欲しい」

 すっとリングの入った小箱を差し出されて、冷や汗が止まって今度は血の気が引く。形式的に謝るというのは、良いけれど、それは絶対にいらない。

 断り方が上手く思い浮かばずに、ふるふると頭を振って、リングを凝視する。

 そんな宝石を贈られたって困るのだ、使い道が無いし!そもそも、そんな事をされなくても問題ない!

「いっ、いや!いらない!え?だって、サディアスを守ってくれるんでしょ?!お互い様でしょ!?」

 そのはずだ、だから、クリスティアンに私は協力したのだし、彼だってサディアスを庇護すると言っていたのに。

「そういう問題ではないんだよ、わかってくれないかなぁ、クレア。こうでもしなければ私の気持ちが収まらない、ほら、きちんと君に似合うものを選んだのだから」

 彼は私の手を取って指輪を強引にはめようとしてくる。絶対に指紋をつけてすでて触ることすら嫌だった私は、ググッと拳を握って抵抗するが、なんせ力が強い。

「わっ、わー!!やめてやめて!!」
「素直になってさぁ、きっとつけたら気に入るだろうからねぇ」
「無理無理!私、あんまりっ、指輪は好きじゃないって言うか!!」
「じゃあネックレスでもしようかなぁ、そうすれば受け取ってくれると約束してくれるのかなぁ」

 そんな事を言いつつも彼は、グイグイと私の拳を開こうと、力を込めて来る。こちらもムキになって彼の手を掴むのだが、どうにも引いてくれそうにない。

 あまり乱暴に扱われて指輪が壊れたりしたら大変だ、それに、男性から高級な指輪を送られて喜ぶのはプロポーズの時だけである。

「わ!わかった!待って、物じゃなくて、そ、相談!相談を聞いて!!困っていることがあるの!!」

 ぐぐぐっとクリスティアンの体を押し返しつつ言えば彼は、不服そうにしながらも「相談?」とこちらに目線を向ける。

 手の力が緩んだので、咄嗟に自分の手で手を隠しつつ、こくこく頷いて、ぼんやりと彼に聞こうかなぁと考えていた事を深刻度を増し増しで話をする。

「そうそう!!クリスティアンじゃないとダメなの!!それでいいから!!」
「……それも聞いてこれも受け取ってくれてもいいのにねぇ、ダメかなぁ」
「いや、いらないから!!それに、本当に、私にも非があるし!!一旦!!一旦落ち着こう!!」

 指輪ごと彼を押し返し、じっと彼を見つめ返す。しばらく睨み合いのような時間は続き、それからひとつ息をついて彼は指輪を箱にしまってゆっくりとソファに戻っていく。

 それから、心底分からないというふうに困った顔をして、指輪の箱をパカパカとしながら私に言う。

「落ち着いているよ、これでも。私はこんな事では許されないような対応を君にしただろう?」
「……はぁ……」

 それはそうなのかも知れないが、ところで彼はどこから何処までの話を知っているのだろうか。

 それにあの時サディアスは大方の事を話していたように思う。それでも彼の知っている話と、結局なにに対してそれほどクリスティアンが罪悪感を持っているのか話が必要だろう。

「結局、貴方って私の事をどこまで知っているの?まずはそこから話をしてみない?」
「……わかったよ。……事情は複雑だねぇ、けれど、呪いの話は、大方貴族感では共有されている事を私はあの時まで知っていて、君をクラリスだと思っていた。だから、サディアスが無理をしている事を心配する君に怒っていたこれは……わかってくれるかなぁ」
「うん、でもあの時、私はクラリスだけれど、別人だと言うことまで理解してくれていたよね?」

 だから、ああして、私を瓶に詰めようとするサディアスを止めていた。




しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

転生しましたが悪役令嬢な気がするんですけど⁉︎

水月華
恋愛
ヘンリエッタ・スタンホープは8歳の時に前世の記憶を思い出す。最初は混乱したが、じきに貴族生活に順応し始める。・・・が、ある時気づく。 もしかして‘’私‘’って悪役令嬢ポジションでは?整った容姿。申し分ない身分。・・・だけなら疑わなかったが、ある時ふと言われたのである。「昔のヘンリエッタは我儘だったのにこんなに立派になって」と。 振り返れば記憶が戻る前は嫌いな食べ物が出ると癇癪を起こし、着たいドレスがないと癇癪を起こし…。私めっちゃ性格悪かった!! え?記憶戻らなかったらそのままだった=悪役令嬢!?いやいや確かに前世では転生して悪役令嬢とか流行ってたけどまさか自分が!? でもヘンリエッタ・スタンホープなんて知らないし、私どうすればいいのー!? と、とにかく攻略対象者候補たちには必要以上に近づかない様にしよう! 前世の記憶のせいで恋愛なんて面倒くさいし、政略結婚じゃないなら出来れば避けたい! だからこっちに熱い眼差しを送らないで! 答えられないんです! これは悪役令嬢(?)の侯爵令嬢があるかもしれない破滅フラグを手探りで回避しようとするお話。 または前世の記憶から臆病になっている彼女が再び大切な人を見つけるお話。 小説家になろうでも投稿してます。 こちらは全話投稿してますので、先を読みたいと思ってくださればそちらからもよろしくお願いします。

転生したら悪役令嬢になりかけてました!〜まだ5歳だからやり直せる!〜

具なっしー
恋愛
5歳のベアトリーチェは、苦いピーマンを食べて気絶した拍子に、 前世の記憶を取り戻す。 前世は日本の女子学生。 家でも学校でも「空気を読む」ことばかりで、誰にも本音を言えず、 息苦しい毎日を過ごしていた。 ただ、本を読んでいるときだけは心が自由になれた――。 転生したこの世界は、女性が希少で、男性しか魔法を使えない世界。 女性は「守られるだけの存在」とされ、社会の中で特別に甘やかされている。 だがそのせいで、女性たちはみな我儘で傲慢になり、 横暴さを誇るのが「普通」だった。 けれどベアトリーチェは違う。 前世で身につけた「空気を読む力」と、 本を愛する静かな心を持っていた。 そんな彼女には二人の婚約者がいる。 ――父違いの、血を分けた兄たち。 彼らは溺愛どころではなく、 「彼女のためなら国を滅ぼしても構わない」とまで思っている危険な兄たちだった。 ベアトリーチェは戸惑いながらも、 この異世界で「ただ愛されるだけの人生」を歩んでいくことになる。 ※表紙はAI画像です

我儘令嬢なんて無理だったので小心者令嬢になったらみんなに甘やかされました。

たぬきち25番
恋愛
「ここはどこですか?私はだれですか?」目を覚ましたら全く知らない場所にいました。 しかも以前の私は、かなり我儘令嬢だったそうです。 そんなマイナスからのスタートですが、文句はいえません。 ずっと冷たかった周りの目が、なんだか最近優しい気がします。 というか、甘やかされてません? これって、どういうことでしょう? ※後日談は激甘です。  激甘が苦手な方は後日談以外をお楽しみ下さい。 ※小説家になろう様にも公開させて頂いております。  ただあちらは、マルチエンディングではございませんので、その関係でこちらとは、内容が大幅に異なります。ご了承下さい。  タイトルも違います。タイトル:異世界、訳アリ令嬢の恋の行方は?!~あの時、もしあなたを選ばなければ~

悪役令嬢に転生したので地味令嬢に変装したら、婚約者が離れてくれないのですが。

槙村まき
恋愛
 スマホ向け乙女ゲーム『時戻りの少女~ささやかな日々をあなたと共に~』の悪役令嬢、リシェリア・オゼリエに転生した主人公は、処刑される未来を変えるために地味に地味で地味な令嬢に変装して生きていくことを決意した。  それなのに学園に入学しても婚約者である王太子ルーカスは付きまとってくるし、ゲームのヒロインからはなぜか「私の代わりにヒロインになって!」とお願いされるし……。  挙句の果てには、ある日隠れていた図書室で、ルーカスに唇を奪われてしまう。  そんな感じで悪役令嬢がヤンデレ気味な王子から逃げようとしながらも、ヒロインと共に攻略対象者たちを助ける? 話になるはず……! 第二章以降は、11時と23時に更新予定です。 他サイトにも掲載しています。 よろしくお願いします。 25.4.25 HOTランキング(女性向け)四位、ありがとうございます!

悪役令嬢になったようなので、婚約者の為に身を引きます!!!

夕香里
恋愛
王子に婚約破棄され牢屋行き。 挙句の果てには獄中死になることを思い出した悪役令嬢のアタナシアは、家族と王子のために自分の心に蓋をして身を引くことにした。 だが、アタナシアに甦った記憶と少しずつ違う部分が出始めて……? 酷い結末を迎えるくらいなら自分から身を引こうと決めたアタナシアと王子の話。 ※小説家になろうでも投稿しています

悪役令嬢に転生しましたが、全部諦めて弟を愛でることにしました

下菊みこと
恋愛
悪役令嬢に転生したものの、知識チートとかないし回避方法も思いつかないため全部諦めて弟を愛でることにしたら…何故か教養を身につけてしまったお話。 なお理由は悪役令嬢の「脳」と「身体」のスペックが前世と違いめちゃくちゃ高いため。 超ご都合主義のハッピーエンド。 誰も不幸にならない大団円です。 少しでも楽しんでいただければ幸いです。 小説家になろう様でも投稿しています。

幽霊じゃありません!足だってありますから‼

かな
恋愛
私はトバルズ国の公爵令嬢アーリス・イソラ。8歳の時に木の根に引っかかって頭をぶつけたことにより、前世に流行った乙女ゲームの悪役令嬢に転生してしまったことに気づいた。だが、婚約破棄しても国外追放か修道院行きという緩い断罪だった為、自立する為のスキルを学びつつ、国外追放後のスローライフを夢見ていた。 断罪イベントを終えた数日後、目覚めたら幽霊と騒がれてしまい困惑することに…。えっ?私、生きてますけど ※ご都合主義はご愛嬌ということで見逃してください(*・ω・)*_ _)ペコリ ※遅筆なので、ゆっくり更新になるかもしれません。

溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~

夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」  弟のその言葉は、晴天の霹靂。  アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。  しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。  醤油が欲しい、うにが食べたい。  レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。  既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・? 小説家になろうにも掲載しています。

処理中です...