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告白の返事がそれって……。4
しおりを挟むそのまま強引に唇を重ねられて、私は体が飛び上がるほど驚き、固まった。ゆっくりと舌を吸い上げられて、ビリビリとした痛みが頭に響く。
鉄の味がして不味いだろうに、ゆるゆると器用に傷口の舌先を舐めあげられて、痛みと熱い粘膜の感覚に、頭がぼーっとしてくる。
「ぁっ、ふっ」
突き飛ばしたい衝動を抑えて、先程同様に、ソファを掴んで何とか呼吸を繰り返す。
ローレンスは、一頻り私の傷口をなぶったあとパッと手を離して私を解放した。
息が上がって、血の味はそれほどしなくなったものの、よく意味が分からない。彼に対してしょっちゅう思っている事なのだが、何がしたいのか、まったく不明だ。
舌は痛いし、またキスをされたし、何をしたいか分からないしで、とりあえず涙をくしくしと拭っていれば、ローレンスはゆっくりと私の頭を撫でてくる。
「次は、舌を切り落とすからね」
「っ……っ~……」
混乱を落ち着けつつ、仕方がないので黙っていれば、彼もまた、私をいじめて落ち着いたのか、ふぅと一息ついて、紅茶を飲む。
…………ちょっとは……なんて言うの?……媚びる?というか、折れた方がいいのかな……。
でもそれは、なんと言うか……。
首を捻って考えてみるが、難しい。
そもそもだ、私は、彼に出来るだけ思い通りにならないように勤めてきた。それは、最初の時点ではまだまったく信用ができなく、クラリスからの話を聞いていて原作から知っている通り、ローレンスが恐ろしい人だと思ったのだ。
だから、そうしていた。反発するわけでも無いけれど、私自身を彼に探られてしまわないように。
それで結局、私とローレンスの関係は一言で言うと、仲が悪い。でも、ローレンスは私を気に入っているというし、私はローレンスが好きだ。
そして、私は、どうにかして、ローレンスをどうにかしたい。
非常に抽象的なのだが、本当にそうとしか言い表せない。ただ、チェルシー達に話をした、狐のように。つまりは私の望む着地点は、私は生きたままこの人のそばに居たい、という事だ。
でも媚びて頼んで、縋って、面白く気に入っていて好きだから、殺さないという選択をローレンスがするとは私は思えない。
そう言う人だと思う。多分ローレンスの手中に入ってしまえば、それこそ死ぬのだって、なんと言うか、そうだ、ララが言ったように、混ざり合うように私の形が変わってしまう。
死ぬ事がきっと…………嫌じゃなくなってしまったり……しそうな。
だって、ローレンスは傍から見たら、良い王子で王座を継ぐのだし、少し厄介な事も起こすが、それなりに人道的というか、私ほど疑ってかかっている人は少数派なのだ。
さっきのあれだって、バルコニーから落とされそうになったあれだって、大抵の場合、私に問題があると思われるだろう。
だから、彼は心象操作というかそう言うことが上手いのだと思う。
そういう人だからこそ、エリアルやクラリスは排斥しようとしているし、私がその術中に嵌ってしまってもおかしくない。
だから、私は彼にへりくだる方法以外の方法で、本音で話をしたいのだ。というか私がお願いごとを彼にして、へりくだったらそれこそ、ローレンスは本音というものを一切出さないのだろう。
でもどうにかしたい。それでも、ローレンスと本心の彼と話をしたいのだ。
「ローレンス……」
「……君はそろそろ学習というものを覚えて、静かにしていようとは思わないのかな」
「だって……それだと……はにゃし、は、話が出来ないでしょ」
舌が痛くて呂律が回らない。私が噛んだのを恥ずかしく思い少し彼から目をそらすと、何やらそれが面白かったのか、それとも嬉しかったのか、よく分からないような表情をして彼は私を見る。
「……別に君は、私と話をしたいなんて思ってなど居ないよね」
見下ろされつつ、そんな事を言われて首を傾げる、どうしてそう思うのか分からない。
「違うのかな。君は私を嫌ってもいなければ、好いても居ない、何をしても、他へと目を向けるばかりだ」
そんなことは無いが、やはり私の気持ちにローレンスは気がついて居ないらしい。
「ヴィンスの事をなきものにしようかとも思っていた時もあったけれど、君はきっと悲しみにくれるだけだと思うとヴィンスは惜しくてね」
「……」
「君はそう言う私にとってつまらない人間なのかとも思ったのだけれど、どうしてか、私にだけ、他と対応が違うのかと考えると、やはり故意にやっているのだとわかったんだ」
だから、私はローレンスと話をしたくないのだと、私がローレンスに一切の興味も持たないような究極的な嫌い方をしているとでも思っているのだろうか。
「そんな事ないよ」
「……君の行動がそう言っているようなものなんだよ。その上、君は……心底くだらないことばかり私に言うしね」
それは、先程のような図星の発言の事だろうか。
彼だって、自分はそんなにくだららないと思っている事を言われたら、自分は鼻で笑うはずだとわかっていると思うのに、やはり自覚はないらしい。
「だから、こうして手酷い事をしてみるのだけど……毎度、私への態度が変わらないのは、いい加減呆れているよ」
「……」
違うのだ。だってローレンスは、私が他の人にするように接したら、というか……私が他の人にするように彼にして、そして、私の感情が知られてしまったら私は。
……私は、心底惚れ込んで、ローレンスに望んでしまいそうというか。
……でも、それだと今でもローレンスのことが好きなのに……変わらないような気もする。結局好きになってしまった。
そう、ローレンスの事は好きだ。では、彼が、自分と話をするつもりが無い、まったく興味がないと思っているのは事実とは異なる。
そもそも、今の話を聞く限り、自分に意識を向けて欲しいのだとも思う。それなら、それでローレンスが嬉しいと思うのなら、言うだけ言ってしまってもいいのかもしれない。
それでも、今のまま、私はこのまま彼に何も望まないままで、本音の話ができるように。
「ローレンス」
「……」
今の話を聞いても、口を開く私に、ローレンスは苛立ちのようなものを表情に出しつつ、バッと私に手を伸ばして来る。その手を逆に掴んでみて、ぶつかり合うみたいに、思い切りキスをした。
ガチっと、歯が触れ合う音がして、唇がじんと痛む。
「好きよ、多分ずっと前から」
キョトンとして、それから、ローレンスは私の手を振り払った。困惑と驚きが混ざったような顔をして私を見る。
好き、好きだけれど、これ以上のものも望まないし、私はただローレンスが好きというそれだけだ。
ただ、人に望む、そして自分も望まれるという事だけが愛では無いだろう。ただ、ローレンスが本心で望む時であれば、そばにいて、それからちゃんと本音の話をして……いいや、話なんかしなくたっていい。
ただ、相手から望まれるだけが愛情じゃないだろう。ローレンス。
語りかけることはせずに、私も出来るだけ、感情がわかりやすいように笑ってみせる。
他人からの興味や感情が欲しい、ローレンスの欲求はそこにあると思う。だから、火種である呪いだって欲しいのだ。
だったら、好きという私の感情はそれを少しは満たせるはずだ。
「…………嘘をつくな」
「嘘じゃないけど」
「……」
やっとの思いで言ったらしい言葉にもすぐに返答を返す。しかし告白の返しが嘘をつくなとはこれまた、変な回答である。
「好きだよ」
ローレンスを見上げて言う、彼は表情の読めない顔で、じっと私を見てそれから魔法を使ってナイフを出す。
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